第75話 許しません
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『✕▽△□?』
「いやいや、気にするでにゃい。手持ちがにゃいんじゃろう? にゃらば儂らに甘えておけ」
『✕、✕□□▽……』
「森で出会った魔物は……、埋葬したんですよね。まあお金は今後稼ぐとして、今は頼ってください。僕達も頼らせてもらいますから」
門に向かって歩いている途中、アースレイさん達は服の代金を払おうとしてきたけど、私もニャルクさん達も断った。ネメアン・ライオンの素材はいいお金になるみたいだけど、さすがに仔どもの前で捌くのはいただけない。埋葬するって言った時、すんなり応じてくれたんだから、当面の生活費は出させてもらうつもりでいる。
門に着いて、アースレイさんと香梅さんに跨がったニャルクさんが門番達と話していると、男性の町民2人が声をかけてきた。人間と犬獣人だ。といってもシシュティさんしか見ていない。怪しい。
「イニャトさん……」
「うむ。気をつけよ」
ひそひそと話している間にも、町民達はシシュティさんとの距離を詰めていく。バウジオが唸り始める。不快そうな顔をするシシュティさんの脚に黄菜がぴたっと寄り添った。
町民達は黄菜に驚きはしたものの、諦めなかった。それどころかシシュティさんの手を掴んでどこかに連れていこうとしたから、慌てて間に割り込んだ。
「やめてもらっていいですか? 今から帰るんで」
町民達が私の髪を見て1歩下がる。イニャトさんがニャルクさん達を呼びに行くのが視界の端に見えた。
額を突き合わせて話す町民達から、シシュティさんを庇いながら少しずつ距離を取る。兎人だから誘いに来たんだろうけど、合意じゃないなら許さないよ。あ、ばれた。
怒った犬獣人が私を掴もうと手を伸ばしてきた。バウジオが吠えて、仔ドラゴン達と仔ライオンが威嚇する。それでも犬獣人は手を引っ込めなかった。凄いなあんた。
仔どもらが噛みついたらさすがにまずいから、シシュティさんが剣を抜くより先に踏み出して、右足を軸に回転しながら左肘で犬獣人の鳩尾を打つ。左の掌に添えた右の拳に力を入れて、えぐり込むことも忘れない。うめいて膝をついた犬獣人に、とどめのかかと落としを喰らわせる。はい落ちた。
「ニャオさん!」
『◎○△!』
ニャルクさん達がこっちに来た。門番達も一緒だ。逃げようとする人間の方を追いかける。
右手を掴んで引っ張り倒して、後ろ手にねじり上げて確保。逃がさないよ。
『✕✕▽✕!』
門番の1人が犬獣人を捕まえて、もう1人が駆け寄ってきたからバトンタッチして立ち上がる。ふう、と息を吐いてニャルクさん達の方を見れば、みんなぽかんとしてた。シシュティさんだけ手で口を覆ってキラキラした顔してる。
野次馬も増えてきたな。よし、帰ろう。
▷▷▷▷▷▷
「で? そのたわけ者共はどうなったんじゃ?」
「門番達に捕らえられて地下牢行きじゃよ。未遂じゃったものの、質の悪さ故にそれにゃりの罰が与えられるじゃろうて」
漣華さんに乗って、夕焼けの空を森に向かって帰りながら、イニャトさんは騒動の顛末を話し終えた。
「無理矢理、駄目」
「そうですよ。お互い納得した上でにゃいと」
隣を飛ぶ美影さんに乗ったニャルクさんが頷く。風の音が強い中普通に会話できるのは、漣華さんの魔法のおかげらしい。
「しかし、お前さんがそこまで動けるとは思わにゃんだ。元の世界に師でもおったのか?」
「師っていうか、叔父さんから習ったんですよ。政叔父さんって人で、護身術をちょっとだけ」
まあ相手が丸腰なの前提だけどね。刃物持ってたらさすがに逃げるし。
「もう少し早く合流できておれば、妾が直接罰してやったというのにのう。惜しいことをした」
「いやいや、罰さんでいいですから。人間のことは人間に任せましょうよ」
「林檎の後に葡萄を食べるか桃を食べるか悩むフクマルにつき合うたばかりに遅れてしまった。放っておけばよかったわい」
「何やってるんですかフクマルさん……」
「結局どちらを選んだんです?」
「さあのう。決める前に迎えに出たからわからん」
ニャルクさんの後ろに跨がったアースレイさんが笑った。その後ろには香梅さんがいて、上手にバランスを取って気持ちよさそうに風を浴びている。シシュティさんは私の真後ろで、私の腰にしがみついて後頭部に頬を預けたまま動かない。そんなにくっつかんでも落ちないよ私。ちなみに仔ライオンは私の腕の中で、仔ドラゴン達は3人と4人に分かれて乗ってる。まだ飛べないからね。
森に降りると、口周りをしっとり濡らした福丸さんにお出迎えされた。足元には実を食べ尽くされた葡萄の芯と桃の種が落ちている。両方食ったんかい。
「夕飯の準備してくるんで、シシュティさん達に先にお風呂に行ってくださいって伝えてもらっていいですか?」
ニャルクさんにお願いしながら、今日買った服を下ろしたばかりのマジックバッグから取り出す。前のは今度町に行く時に売る予定。準備を手伝う、と返されたみたいだから、シシュティさんに押しつけるように服を手渡した。
「今日は嫌な思いをしたでしょう? お風呂に入って全部洗い流してきてください。仔ドラゴン達も何人か連れてってもらっていいですか? 遊びながら入れば楽しいですよ」
ニャルクさんが翻訳してくれたら、シシュティさんに抱き締められた。防具がちょっと痛い。
黄菜と青蕾、橙地を連れて、シシュティさんは足早にお風呂に向かった。その次はアースレイさんだね。
みんなでわいわい準備をしていたら、シシュティさん達が早めに帰ってきた。体はちゃんと洗ったみたいで、ルーサのいい匂いがする。
蘭里と赤嶺、緑織と紫輝を連れてお風呂に行きかけたアースレイさんが、シシュティさんと意味ありげに目配せするのが見えた。何か企んでらっしゃる? こっちも早々帰ってきた。
作り置きしていたスープと町で買ったケバブみたいな肉をパンに挟んで食べて片づけた後、私もお風呂の準備をした。仔ドラゴン達は兎人姉弟がお世話してくれたから、今日は久しぶりにのんびりしようっと。




