第73話 哀れな……
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「なん……、です、か? これ……」
「あー、まあ……、のうニャルク」
「僕に振らにゃいでください……」
漣華さんのユニークスキルで、アースレイさん達と一緒にペリアッド町の門の外に出してもらった後、ギルドに直行したのはいいんだけど、入るはずのギルドが凍ってた。まるで氷のお城だな。野次馬だらけだよ。
建物の中までがっつり凍ってるわけじゃない。よく見れば職員達が忙しそうにあっちにこっちに走ってる。でもかなりの厚着だ。冬みたい。
「ニャルクさん、イニャトさん、何かご存知で?」
真ん丸の目でギルドを見上げてぽかんとしてる兎人姉弟の足元にいる兄弟猫に目をやれば、ふいっと逸らされた。バウジオも真似てる。こんにゃろう共め。
「赤嶺、ここがなんで凍っとるんかわかる?」
目をキラキラさせてギルドを見上げてる仔ドラゴン達に顔を向けた。こっちに聞くからいいもんねーだ。
「あのねー、ニャオがいなくなったあとにねー、レンゲねえちゃんがきてこおらせたんだよー」
「こ、これセキレイ?!」
「でねー、おいちゃんにねー、ニャオがみつかるまでこのままだっていってたよー」
「そっかー、教えてくれてありがとねー」
うん。漣華さん、帰ったら水玉の刑です。覚悟してください。
さて、これをどうしたもんか……。というか、私見つかったんだから解凍してくれてよくない? まさか忘れてる?
『◎△! □◎!』
聞き覚えのある声に振り返れば、誰かが呼びに行ったのか斧のギルマスが解体屋から飛び出てきた。こっちは凍ってない。
駆け寄ってきた斧のギルマスが兎人姉弟を抱き締める。肩震えてるな。
「心配してたんですねぇ」
「うむ。ギルマスにもいろいろおるが、冒険者を我が子のように思っておる者もおると聞く。この町の斧のギルマスはそれにゃんじゃろうにゃあ」
うんうんとイニャトさんが頷く。いや、それどころじゃないでしょ。
「ちょっとお二方。なんかいい話っぽくなってますけど、ギルド凍ってますからね? 冒険者の父の職場カッチコチですからね? うちの身内のせいで。どうするんですこれ?」
じっとり睨んでやれば、うにゃ? とニャルクさんに首を傾げられた。
「どうするも何も、ニャオさんにゃら戻せるでしょう?」
「私が? どうやって?」
「掌紋の力を使えばできるでしょう?」
そんな、何を今さらみたいな顔されても……。でも漣華さんの氷魔法ってもともと持ってたスキルなのかな? もし異世界のクラオカミ様の加護で使えるようになった魔法なら戻せるとは限らないよね。
斧のギルマスがこっちに来た。アースレイさん達のところには、いつの間にか出てきてた解体屋の女の人がいて、2人を抱き締めてる。なんか苦しそう。
『○◎△、□✕▽……』
アースレイさん達を捜すよう頼んだ直後に目の前で消えてしまったから、私のことも心配してくれてたんだろうな。頭を下げられちゃったよ。……いや長くない?
「あの、ギルマスさん?」
声をかけるけど反応がない。どしたのほんと。
「ニャオよ。斧のギルマスはそやつを見ておるぞ」
そやつ? あ。
「この仔か」
静か過ぎて抱っこしてること忘れてたよ。ネメアン・ライオンのおチビさん。
森を出る前に香梅さんにおっぱいもらってたから、お腹いっぱいでくうくう寝てるんだよね。前足で胸んとこ掴んじゃってまあ、可愛い。
「ブルルッ」
「まだ寝てますよ。朝、緑織達とずっと遊んでましたからね」
香梅さんが腕の中を覗き込んできた。遊び疲れた上にお腹いっぱいになったらそりゃ眠いよね。
真横に来た香梅さんに驚いた斧のギルマスが飛び退いた。もしかして見えてなかったの? 最初からいたのに。
『△、□◎✕、○△?』
仔ライオンと香梅さんを指差しながら、斧のギルマスは声を震わせた。私の横に立った解体屋の女の人が肉球の隙間に指を突っ込んでくる。こういう時に強いのって女の人だよね。すんごい笑顔。
「ニャルクさん、説明してもらってもいいですか?」
「ええ、任せてください」
掌紋の力で飛ばされた後のことは洗いざらい話してたから、ニャルクさんから斧のギルマスに説明してもらう。私じゃ無理だからね。
それが終わってから、アースレイさん達が斧のギルマスに何かを話してた。イニャトさんから、話の内容は姉弟のこれからについてだと教えられる。斧のギルマスは驚いて、解体屋の女の人は笑ってた。
目覚めた仔ライオンがぐずり出したからお暇させてくださいって伝えてもらったら、報酬が決まってないって呼び止められた。そういや話してなかったな。だけどお金には困ってないし、正直相場がわからない。
だから、もし問題がないんならカメラがほしいって言った。仔ドラゴン達と仔ライオンとか、他のみんなの写真撮りたいんだよね。元いた世界でもよく撮ってたし。スマホだけど。そしたら大丈夫みたいだから、次に町に来た時に受け取るようになった。
ギルマス達に手を振りかけて、哀れなギルドが目に入った。忘れてたよ。やるだけやってみるか。
“乾き知らず”を取り出して、掌を濡らす。合掌。
水神さん水神さん。他の水神様の関わりがあるかもしれませんが、目の前の建物の氷を溶かしてもらえませんか? ここで働いている皆さんが困ってますので、どうぞよろしくお願いします。
うん、これでよし。
「お願い終わりました。そろそろ次に行きま」
せんか? と続けるつもりだったけど、打ちつける波のように流れてきた水に言葉が切れた。
そーっと目を向ければ、ギルドの氷は綺麗さっぱり溶けていた。溶けてはいるけど……。
「びっしょりじゃな」
「ええ、びっしょりですね。おそらく中も」
「おみずつめたーい」
「これのんでいいー?」
「ばっふばっふ!」
ギルド職員の悲鳴が聞こえてくる。たぶん、大事な資料とか商品が濡れたから。
私のせいですね、はい。片づけ手伝わせていただきます。




