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第69話 川渡り

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

 休憩を挟むことなく歩き続けて、夕方になる頃には我が家がある森との境に当たる川に辿り着いた。


「ここを渡って、少し歩けばニャオさん達の家ですが、問題はどう渡るかですねぇ」


 川の向こうを眺めながら福丸さんが言った。

 川幅は50メートルを優に超えていて、流れは速い。入ろうものならすぐさま流されてしまうだろうな。


「福丸さんはどうやって渡ったんですか?」

「泳ぎました。ただかなり下流まで流されてしまいましたよ。わたくしはもっと上にいたので」

「福丸さんでも流されてしまうんですねぇ……」

「自然が相手ではねぇ」


 さすがに勝てんか。


「そういえば、福丸さんはどうして私がここにいるってわかったんですか?」


 漣華さんがまだ来ないってことは、気づいてないのかな。美影だって緑織がいなくて心配だろうに。


「あなたの居場所に気づいてきたわけではないんです。この森は縄張りでこそありませんが、縄張りの中に魔物が入らないように見回っている場所の1つなんです。以前換金してもらったグーロもこの森で捕まえたんですよ」

「ああ、そうだったんですね」

「ニャオさんとミオリさんがいなくなったと聞いて、最初はペリアッド町の周囲を捜していたのですが、セキレイ君達を長く1人にしておくわけにはいかないので、わたくしとバウジオ君が先に森に戻ったんです。今は彼が一緒にいてくれていますので、日課の見回りに出たところだったんですよ」


 赤嶺達、お留守番してたのか。寂しかっただろうなぁ。バウジオもありがとうね。


「レンゲとミカゲさんは、それぞれニャルクさんとイニャトさんを連れてあなた達を捜して空を飛んでいますよ。かなりくまなく見ているようで、こちら側にはまだ手が回っていないんです」

「居場所を伝えてもらうことってできます?」

「それは無理ですね。わたくしからレンゲに連絡を取る術がないんです。逆はあるんですけど」


 逆?


「彼女、ユニークスキルで首だけニョキッと出てくるんですよ。用件を伝えれば引っ込みます」

「……怖い」


 そんなんホラーだわ。


「あの、聞いていいですか?」


 少し離れたところからこっちを見ていたアースレイさんが声をかけてきた。シシュティさんと香梅さんも近づいてくる。


「どうかされましたか?」


 私より先に福丸さんが聞いた。アースレイさんは緊張した顔で福丸さんを見上げる。


「どこか、浅い場所はないんでしょうか? 僕達でも自力で渡れるようなところは?」

「わたくしが渡ってきたよりも遥か上流に行けばありますよ。ただし、兎人であるあなたの脚力を持ってしても1日はかかります」


 そんなにかかるのか。ああ、兎耳がしょんぼりしちゃった。


「1つだけ、ここを渡る方法があります」


 そう言って、福丸さんは私を見下ろした。


「ニャオさん、〈水神の掌紋〉を使う余力はありますか?」

「掌紋ですか? たぶん問題ないかと……」

「では、水神にお願いしていただけますか? 川を渡らせてください、と」


 なるほど、それなら渡れるね。早速試してみよう。

 私にしがみついていた仔ライオンを福丸さんに預けて、川に近づいて掌を濡らす。合掌すると、掌紋が光り出した。

 水神さん水神さん。川を渡らせてください。みんなのところに帰りたいです。

 滴り落ちた雫が川面に波紋を広げると、掌紋と同じ紋様が浮かんだ。それがどんどん連なっていって、対岸に届く。

 立ち上がって、紋様に乗ってみた。シシュティさんの短い悲鳴が聞こえたけど、大丈夫。


「乗れます! 川渡れますよ!」

「ありがとうございます。さあ、渡りましょう」


 福丸さんが兎人姉弟と香梅さんを川に促した。恐る恐る足を下ろしてくるシシュティさんの手を取って、にっこり笑って見せる。頷いたシシュティさんは紋様に下り立って、笑い返してくれた。


『○◎○! ○△△◎!!』

「わかったわかった! 自分で下りるから引っ張らないでくれないかい?!」


 興奮したシシュティさんに手を掴まれたアースレイさんが踏ん張りながら叫んだ。腰引けちゃってるよ。


「コウメさん、ですね? お先にどうぞ」

「ブルルッ」


 頭に緑織を乗せて、右腕に仔ライオンを抱えた福丸さんが先を譲ると、香梅さんも川に下りた。

 今回は私を先頭にして川を渡っていく。紋様のところだけが凪いでいて、左右の流れは速いままだ。


「紋様以外はそのままだから、踏み外さないよう気をつけてください。アースレイさん、シシュティさんと香梅さんにも伝えてもらっていいですか?」

「わかった」


 そこからは慎重に進んだ。アースレイさんは周りを警戒しながらついてきてるし、シシュティさんは私の手を離さない。もっと後ろを見れば、福丸さんが二足歩行でついてきてた。器用だな。

 そんなこんなで真ん中辺りまでくると、仔ライオンがみゃうみゃう鳴き出した。


「福丸さん、どうしました?」

「怖いみたいですね。無理もありません」


 福丸さんは鼻先で仔ライオンの額を小突いた。


「大丈夫ですよ。今のわたくし達には水神がついてくださっていますから。落ちさえしなければ流されることはありません。安心なさい」

「みゃうううぅぅぅ……」


 福丸さんの頭から身を乗り出した緑織が、同じように仔ライオンをつついた。


「だいじょーぶだよー。おちたらあたしがひろったげるー」

「みゃぅ……」


 騒いでいた仔ライオンは、むう、と唸って黙ると、もぞもぞ動いて福丸さんの腕の中に収まった。前足で顔を隠してる。可愛い。


「もう半分で陸地ですから、焦らずに進みましょう」


 福丸さんが言うと、アースレイさん達が頷いた。香梅さんも鼻を鳴らす。首筋が総毛立った。

 バッと顔を上げて上空を見れば、大きな影が通り過ぎた。旋回して戻ってくる。

 青い鱗のドラゴンだ。


「ブルードラゴン?!」


 アースレイさんが叫ぶ。身構えるシシュティさんと香梅さんの向こうで、福丸さんは鼻をひくひくさせた。


「おや、ずいぶんと若い個体ですね。ここいらでは見ない顔です」

「福丸さん?! そんな悠長に構えてていいんですか?!」


 逃げ場なんてないんだけど。すんごい威嚇してくるし、どうしたらいいの?


「狙いはミオリさんですね。正確にはミカゲさんですが」


 え? どゆこと?


「仔ドラゴンを連れている雌ドラゴンは、雄ドラゴンに狙われやすいんです。仔ドラゴンを殺すことで発情を促して、自身の仔を孕ませようとするんですよ」

「緑織を殺そうとしてるってことですか?!」


 そんなんさせるか!!


『✕✕▽!』


 シシュティさんが私の手を離したと思ったら、両手の指を絡め合いながら強く握り締めて目を閉じた。次の瞬間、川面に映っていたブルードラゴンの影が起き上がった。

 実体を持った影のドラゴンが本体に突進する。ブルードラゴンは呻き声を上げながら川に落ちた。


「え? 何? 何が起きたの??」

「姉さんのユニークスキル、〈影借り〉だよ。対象の影を切り取って自在に操ることができるんだ」

「すっごい、何そのスキル?」

「以前そのスキルを持つ人間を見たことがあります。確か本体と同等の能力を持つんですよね?」

「はい。僕の〈万能言語〉で相手を油断させて、姉さんの〈影借り〉でとどめを刺す。今までそうやって戦ってきました」


 話している間に、ブルードラゴンが飛沫を散らしながら顔を出した。ドラゴンブレスが放たれる。避けた影のドラゴンはブルードラゴンに飛び乗って再び川に沈めた。


「急いで渡ろう。姉さんはネメアン・ライオンとの戦闘でかなり魔力を消耗してる。あの影もすぐに消えてしまう!」

「走ろう!」


 集中しているシシュティさんを引っ張るけどびくともしない。アースレイさんが叫ぶように呼んでもブルードラゴンを睨んだままだ。香梅さんが私を追い抜いて、のそのそとやってきた福丸さんが、空いている左腕にシシュティさんを軽々と抱え上げた。


「さあ、行きましょう」

「「はい!」」


 きょとん顔で仔ライオンと同じように福丸さんの腕に収まったシシュティさんをそのままに、私とアースレイさんは振り返っている香梅さんを追って対岸に向かって走り出した。

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