第66話 食料探し
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「そういえば、グリンブルスティには名前ってあるんですか?」
道がない森の中を移動しながら、前を歩くアースレイさんに尋ねた。
「いや、聞いてみたけど特にないみたいだよ。魔物の中には個体名をつけない種もあるからね」
「へぇ~。じゃあなんて呼んでるんですか?」
「君とか、彼女、とかだね」
そうですか、と返して、アースレイさんよりも前を行くグリンブルスティを見た。
森を抜ける為にどっちに行けばいいのか、アースレイさん達も知らなかった。そもそもこの2人が森に入ったのも、危険な魔物を追ってきたかららしい。
がむしゃらに走って魔物を倒して、一息ついた頃には既に迷子。だけど兎人は人間以上に森に慣れてるから、そこまで深刻には考えなかったんだとか。
で、他にお金に変えられそうな魔物がいないか探していた時に、グリンブルスティに出会ったらしい。
小走りできるようになったグリンブルスティに、森から出るにはどっちに行ったらいいか聞いたら歩き出したから、ついていってる最中だ。
ちなみに緑織はグリンブルスティの背中で爆睡中。シシュティさんにはしんがりを務めてもらってる。
「グリンブルスティはこの世界の神話で神の騎獣として描かれてる生き物なんだよ。狩る冒険者もいるけど、いい顔をされないことが多いね」
「神の? でも魔物に分類されてるんですよね?」
「そうだね。神話の最後は神々が天に昇る場面なんだけど、その時に地上に残された神獣の一種がグリンブルスティなんだ。神に仕えた獣でも、神に連れて帰ってもらえなかった獣として扱われてるんだよ」
なんとまあ。
「アースレイさん達は呼び名をつけようとは思わなかったんですか?」
「うーん、思わなかったね。考えもしなかったよ」
そうだったんだ。でも名前はあった方がいいと思うんだよね。
「じゃあ、私が考えてもいいですか?」
「もちろんだよ」
アースレイさんが笑った。
ふむ、猪か。政叔父さんの友達に飼ってる人がいたな。でもあの人は育てて食べるって言ってたから名前はつけてなかったし、参考にはならない。
やっぱり格好いいのがいいかな? でも雌なら穏やかな名前もいいな。実際大人しいし。
うーんと考えながら歩いてたら、ガサッと音がして真横を見た。むすっとしたシシュティさんの顔がすぐ近くにある。
「ぉおっ?」
「姉さん、何してるんだい?」
腰の剣に手をかけたアースレイさんが呆れ顔で言った。
『✕△▽! □◎○!』
「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。姉さんは〈万能言語〉持ってないんだから」
『✕! □○△◎!』
「ほら、どうにもならないこと言ってないで、早く行こう」
この話は終わり、とでも言うようにアースレイさんが手を振ると、シシュティさんは頬を膨らませた。これじゃあ兎人じゃなくてリス人だよ。
「あの、シシュティさんはなんて言ったんです?」
気になって聞けば、はぁ、とため息をつかれた。
「あんたばっかり話してズルい、自分もお話ししたい、だってさ」
「そりゃあどうにもなりませんな」
こればっかりはどうしようもないよ。
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「香梅さん、重くなかったですか?」
香梅、と呼ぶことにしたグリンブルスティから緑織を降ろしながら聞くと、ブルルッと鼻を鳴らされた。何を言ってるのか、向こうにはなんとなくわかるみたい。思い返してみれば、バウジオも会話できないのに理解してることあったもんな。
森を1時間ほど歩き続けて、休憩を取ることになった。兎人姉弟は近くに何もいないか確認してくる、と言って駆けていってしまったから、残った3人で身を寄せる。
「おうちついたー?」
ぱちっと目を開けた緑織が聞いてきた。
「ごめんなぁ。まだ家じゃないんよ。もうちょっと待ってな」
「うー……。ママはー?」
「ママに会いたいなぁ。私もみんなに会いたいよ」
寝そべった香梅さんにもたれかかって、木の葉に切り取られた空を見上げた。数時間もしない内に暗くなるだろうから、そろそろ寝る場所を探すべきかもしれない。
「食べる物は……。林檎はあと2つしかないから、罠でも仕かけようかな。つってもニムザの実を置くだけなんだけど」
マジックバッグからニムザの実を入れておいた袋を取り出す。香梅さんがクンクンとにおいを嗅いできたけど、害があると気づいたのかすぐにやめた。
緑織を香梅さんの背中に戻して、少し離れてみる。過去に大型の魔物が暴れたのか、へし折れて苔むした倒木が何本もある場所に出た。
倒木の陰から鶏に似た鳥が逃げていった。あれ食べられるかな。とりあえず実を置いてみるか。
鳥がいた倒木の近くと、そこから離れた場所にも置く。食べられる動物がかかるといいな。でも兎は今はやめてね。
よし、と声に出して緑織達のところに戻ろうとしたら、視界の端で何かが動いた。鳥じゃない。
腰に下げた“バンパイアシーフの短剣”を抜く。このまま戻ればついてくるかもしれない。それだけは駄目だ。
香梅さんの脚は治ってはいるけど、トップスピードを出せるかって聞かれたら頷けない。緑織も戦えるとは思うけど、危険に晒すわけにはいかない。
音を立てないように、ゆっくり、ゆっくり動いた何かに近づいていく。一瞬だったけど、倒木の陰に隠れたそれの大きさは緑織とさほど変わらないと思う。でも油断はできない。
充分近づいた。あとは私が怯まずに一撃決めるだけだ。
土を蹴る。1歩、2歩、3歩で倒木に左手をつく。
左手を軸にして倒木を飛び越えて、小さなそれに短剣を振り下ろした。




