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第65話 昼食

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 グリンブルスティの脚は治っていた。傷痕は残ってないし、歩くのにも問題ない。しばらく安静にすれば前みたいに走れるようになるだろう、とアースレイさんは言った。


「なんてお礼を言ったらいいか……。お金を払おうにも、今は持ち合わせがなくて」

「いやいや、気にしないでください。お役に立てて何よりです」


 笑いながら首を横に振れば、え? みたいな顔をされた。


「いや、これだけのことをしてもらったのにお礼をしないわけにはいかないよ。何かないかな? ほしい素材でも、倒してほしい魔物でもいれば遠慮なく言っておくれ」


 離れたところでグリンブルスティに乗る緑織を撫でていたシシュティさんが、アースレイさんの声に気づいて近づいてきた。


『○◎▽□?』

「姉さん、お礼がしたいって言ったら断られたんだ。どうしよう……」


 なんでだろう、アースレイさんの垂れ耳が余計に垂れたように見える。対するシシュティさんは両耳をピンと立てた。


『✕△○! □▽◎✕?!』

「うわうわうわ、なんでなんでなんで?!」

「なんではこっちのセリフだよ」


 シシュティさんに両肩を掴まれて何かを叫ばれた。はあ、とアースレイさんにため息をつかれる。


「冒険者にとって傷を負うことは死活問題だ。仲間の傷も同じ。それを治してもらったのにお礼はいらないなんて、聞いたこともないよ」


 えええ、そんなこと言われても……。


「私は加護をくれてる水神さんにお願いしただけなんですけど……」

「そのお願いがなければ彼女は元気にならなかったんだよ」


 ピシャリと言うアースレイさんに、シシュティさんがうんうんと頷く。まあそりゃそうだけど。

 あ、それじゃあ……。


「じゃあ、森から出たらぺリアッド町の斧のギルマスのとこに一緒に行ってくれません?」

「いいけど、なぜだい?」

「私、斧のギルマスにお二人を捜すよう依頼されてたんです。どこにもいないから心配してて……」

「ああ、そうだったんだ」


 わかったよ、というアースレイさんの言葉に被さるように、ぐぅぅぅぅ、とお腹が鳴る音がした。

 アースレイさんと顔を見合わせて、音がした方を向く。シシュティさんが恥ずかしそうに自分の耳で顔を隠していた。


「おなかすいたのー? あたしもおなかすいたー」


 グリンブルスティに乗ったまま緑織が言った。悪いとは思ったけど、堪えきれずに吹き出してしまった。


「も、もうお昼ですからね。ご飯にしましょうか。ふ、ふふっ」

『~~~○◎✕!』


 毛がなかったら真っ赤になってるだろうシシュティさんが背中をバンッ! て叩いてきた。痛い。




 ▷▷▷▷▷▷




 少し場所を移動したら、白い花が咲く開けた場所に出た。見張らしもよくて魔物の気配もないから、ここでお昼にすることになった。

 転がっていた岩に腰かけて、マジックバッグを開く。シシュティさんがすぐ隣に座った。近くない?


「お昼って言いましたけど、林檎しか持ってないんですよね。これでいいですか?」


 いつもの林檎を取り出せば、シシュティさんとグリンブルスティが鼻をヒクヒクさせた。


「僕達はパンを持ってるよ。携帯食料だけど」


 アースレイさんが腰に下げた小さめのマジックバッグから袋を取り出した。


「あ、じゃああれ作ろうかな……。お二人は火魔法使えますか?」

「使えるよ」

「お力お借りしてもいいですか? 簡単ですけどジャムを作りたいんですけど」

「もちろんだよ」


 よっしゃ、早速作りましょう。

 火が燃え移ったら大変だから、なるべく草が少ないところに移動する。石を円形に置いて、マジックバッグに入れていた鍋を設置して、林檎を細かく切って入れていく。そこに砂糖を適量入れて、アースレイさんの火魔法でゆっくり煮詰める。

 柔らかくなった果肉をスプーンの背で潰しながら蜂蜜をプラス。一煮立ちさせる間にもう1玉を角切りにしておく。

 ある程度水分が飛んでから火を消してもらって、冷ましにかかる。冷えるまで待って、と言ったら、アースレイさんがシシュティさんにも伝えたらしく、水魔法で鍋を冷ましてくれた。そんなにお腹空いてたのか。

 わくわくしてるシシュティさんにお礼を言って、角切りにした林檎を入れて軽く混ぜる。これでできあがり。


「アースレイさん、パンをもらえますか?」


 声をかければ、携帯食料の黒パンをくれた。黒っていうより焦げ茶色で、外側を固く焼いてある。

 少し厚めに切って、真ん中の部分をスプーンを使って凹ませる。そこに果肉入り林檎ジャムを入れて、みんなに配った。グリンブルスティにはそのままの林檎だ。


『~~~~~!!』

「……おいしい!」

「おいしーねー!」

「ブルルッ!」


 携帯食料は美味しくないっていうのが異世界小説の定番だからね。ジャムならパンに染み込めばしっとり柔らかくなるし、果肉はシャキシャキしてるから食感も楽しめて、これなら美味しく食べられるはず。

 狙いは当たったみたいで、兎人姉弟は凄い勢いで食べている。緑織と3人でおかわりしてくるもんだからジャムはすぐになくなってしまった。

 私はグリンブルスティにもたれかかって仲よく林檎を丸齧り中。気に入ってもらえてよかったよかった。

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