第63話 姉弟
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今更な話↓
作者は修学旅行以外で東京に行ったことがない田舎者なので、都会での果実の価格がわかりません。それなりに高めの価格設定をしてますが、おかしくはないでしょうか?
都会に住まわれてる方、「高級ならこれくらいの価格はする」というのがあれば教えていただけると嬉しいです。
泣きじゃくっていたシシュティさんは涙を拭いて立ち上がると、力強い目で私を見下ろした。
『○✕△、□△◎!』
「えーっと、なんて言いよるんかな?」
うーん、全然わからない。ニャルクさん達がいたら翻訳してくれるんだけど。
「えーっとねー、たすけてっていってるよー?」
顔をしかめていたら、緑織が教えてくれた。
「助けてって、何かあったんかな? 聞いてくれる?」
「いーよー。ねーねー、なにかあったのー?」
緑織が尋ねれば、シシュティさんは大袈裟な身振りで森の奥を指差した。
「えーっと、このおくでねー、おとうとがけがをしたこをまもってるんだってー。ポーションもつかいきっちゃって、でもなおらないんだってー。だからたすけてほしいんだってー」
弟? えっと、名前は確か……。
「アースレイ、だったかな……」
そう声に出して確認すれば、シシュティさんに手を引っ張られた。無理矢理立たされたと思ったら、右肩に担ぎ上げられる。続け様に緑織を左の小脇に抱えたシシュティさんは、跳ぶように森の中へ駆け込んだ。
▷▷▷▷▷▷
どれくらい走ったかわからない。というか、気にする余裕なんかなかった。
道がない森を走るのがどれほど難しいかは身をもって経験してるからわかる。だけどシシュティさんはものともせずに駆けていく。凄いと思うけど、枝や葉が頭やら背中やらを引っ掻いて正直痛い。漣華さんみたいな安定感がないから、余計にしがみつく力が入ってしまって体力を奪われる。
怖がってないか心配になって緑織を見れば、目をキラッキラさせながら流れていく景色を眺めていた。楽しそうで何よりです。
その後も倒木を跳び越えたりちょっとした崖を飛び下りたり、出てきた魔物を踏みつけたりしながらシシュティさんは走り続ける。
そしてようやく止まったのは、岸壁に開いた洞窟の前だった。
「弟さん、ここにいるんですか?」
地面に降ろされて、目を細めて洞窟の中を見るけど暗過ぎる。入り口の近くしか見えない。
「だれかいるよー?」
足元に来た緑織が言った。
「見えるん?」
「うん、ふたりー」
洞窟に入ろうとする緑織を抱き上げる。私達を知らないアースレイさんが斬りかかるかもしれないから、用心しないと。
シシュティさんが洞窟の中に入っていく。1分もしない内に、男性の兎人と一緒に出てきた。
『○✕△、□▽?』
『✕……、✕▽……』
アースレイさんの暗い表情に、シシュティさんの顔も強張る。 怪我した子の容態が悪いのかな?
「なぁ緑織。なんて話しよるか聞こえる?」
「うーんとねー」
「呼吸が浅くなってる、と言ったんだよ」
突然アースレイさんが言った。は? 通じた?
「初めまして。僕はアースレイ・ラングエルディ。こっちは姉のシシュティ。君は冒険者の間で話題になってる異世界人だね?」
「へ? あ、はい。そうです」
斬りつけられる心配はないかな……。とりあえず、緑織を下ろそう。
「私は星峰直央です。みんなからはニャオって呼ばれてまして……」
「ああ、ケット・シーが元だろう? あの種族は喋り方が独特だからね。じゃあ、僕達も倣った方がいいかな?」
「はい、お願いします。あの、なんで言葉がわかるんですか?」
今まで言葉が通じる人間はいなかった。全員もふもふした人達ばっかりだったから、アースレイさんと話せることに心底驚いてる。でも同じ兎人のシシュティさんとは話せない。なんで?
「僕のユニークスキルだよ。〈万能言語〉っていうんだ。あらゆる言葉を理解して、話すことができるんだよ」
「異世界の言葉も理解できるって凄いですね」
「僕も今知ったよ。でも植物とか、言葉を持たない生き物とは話せない」
「例えば?」
「……ミミズとか」
うん、ミミズの声は聞かなくてもいいかな。
「で、君は〈水神の掌紋〉を持ってるんだよね?」
「あ、はい。これです」
掌を見せれば、アースレイさんは口に手を当てて考える素振りを見せた。
「……そのスキル、回復もできるのかな?」
「さあ、試したことはないですけど……。怪我をした子がいるんですよね?」
そう聞けば、アースレイさんは頷いた。
『✕✕▽、□▽?』
「待って姉さん。今話してるから」
不安そうなシシュティさんを宥めて、アースレイさんはこっちを見た。
「出会ったばかりで申し訳ないけど、力を貸してほしい。僕達がなんとかしないと死んでしまう」
「もちろんです」
即答すれば、目を真ん丸にしたアースレイさんはプッと吹き出した。
「ありがとう。じゃあついてきて」
アースレイさんに続いてシシュティさんが洞窟に入っていく。見上げてくる緑織を呼んで、暗がりに足を踏み入れた。




