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第59話 ウッソでしょ?!

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

「人捜し?」


 斧のギルマスの部屋で、前みたいに向かい合って座りながら、ニャルクさんが翻訳してくれた言葉を繰り返した。


「ええ。斧のギルマスが言うには、美影さんと出会った頃、この町を訪れていた冒険者パーティーから冒険者が2人抜けたらしくて、それ以来行方知れずみたいにゃんです」

「若い冒険者の中で一番伸び代がある者達で、2人共個人でSランクに到達できるほどじゃと言っておる」


 へぇ、凄い人達なんだねぇ。


「で、どうしてその人達が行方不明に?」

「うーむ、まあ、やっかみじゃな」

「やっかみ?」

「その冒険者パーティー、《夢の先》というんじゃが、覚えとるか?」


 《夢の先》? 聞いたことあるような……。


「あ、美影さんを討伐するはずだった人達ですよね」

「そうじゃ」


 イニャトさんは頷いた。


「《夢の先》はその2人の功績が認められて、今回Sランクへの昇格試験を受けるようににゃっとったようじゃが、どうやら他のメンバーが不満を覚えたようでにゃ。試験前にそやつらを強引にパーティーから追い出したらしい」

「斧のギルマスは試験を受けさせることに反対したそうですが、最終的には4人だけで送り出したと言っています。で、その後はもうわかりますよね?」

「はい、失敗したんですよね」


 討伐予定のブラックドラゴン、私と漣華さんが連れて帰っちゃったもんねぇ。


「うむ。その後、《夢の先》はもう一度経験を積み直す為に王都に戻ったらしいんじゃが、追い出した2人がどこに行ったのかわからんのだそうじゃ」

「それで私達に捜してほしいと?」


 うん、なして?


「どこをどう捜しても見つけられんから、〈水神の掌紋〉の力を借りたいらしい」

「はぁ~、なるほど」


 そういうことならお手伝いしましょう。


「わかりました。やれるだけやってみます」

「そうか。斧のギルマスよ、ニャオは引き受けてくれるらしいぞ」

「冒険者ギルドに登録してるのは僕だけにゃんで、僕が受ける形でいいですか?」

「ええ、お願いします。でー……」


 ニャルクさんに頭を下げた後、ちらっと、斧のギルマスに目を向ける。


「聞いてますかね? ギルマス……」

「聞こえとるとは思うがのう……」


 さっきから一言も喋らない。てゆうかめっちゃ顔が強張ってる。

 ソファーで背筋をピンと伸ばしてる斧のギルマスの両脇には黄菜と緑織が陣取っていて、顎を太股に置いて寝息を立てていた。ソファーの背には赤嶺が乗っていて、ギルマスの髪をがじがじ噛んでいる。その上右足の靴紐を紫輝が、左足の靴紐を青蕾が引っ張って遊んでいて、橙地と藍里はその回りをぐるぐる回って遊んでる。

 うん、仔ドラゴンのおもちゃになってるね。


「ほらお前達、戻っといで」


 手をパンパンと叩くと、寝ていた2人も目を覚ましてこっちに来た。


「ねーねー、このおいちゃんうごかないよー?」

「ねてるのかなー?」

「ちゃんと起きとるよー。みんながいっぺんに近づいていったけぇ驚いとるんよ」

「おどろいたのー?」

「ばー! っていってないのにー?」

「へんなのー」


 散々な言われようだなぁ。無邪気って怖い。

 ハッと正気に戻ったギルマスに改めて依頼を受けると言えば、深々と頭を下げられた。困ってたんだろうねぇ。

 どうやって捜すのかニャルクさんに聞いてもらったら、テーブルの上に地図を広げられた。ペリアッド町周辺が細かく描かれている大きな地図だ。


『◎□△、✕✕▽』

「隣町や近隣の村にはその者達が来たら報告するよう伝達済みじゃが、未だに目撃情報はにゃいらしい。《夢の先》はこの町に来る途中に別れたと言っておったそうじゃから、そこまで遠くには行っておらんと思うんじゃが……」


 うーむ、とイニャトさんが唸る。とりあえず、水神さんに聞いてみようかな。

 マジックバッグから新しい“乾き知らず”を取り出して、滴らない程度に掌を濡らす。そして、掌紋を握り込んだ。


「水神さん水神さん。いなくなった2人の冒険者はどこにいますか? ご存知なら教えてください」


 じんわりと掌紋が温かくなる。目を閉じれば森の景色が見えた。

 ザワザワと音を立てる木の葉。木肌を擦る雑草。地面を駆ける枯れ葉。静かだけど騒がしい森は薄暗い。

 町より少し暗い程度だけど、空を木に覆われてるから同じ時間帯かもしれない。てことは遠い場所じゃないのかな?

 ガサガサと草をかき分ける音がして、凶悪な顔の魔物が歩いてきた。たぶんゴブリン。元の世界で遊んだゲームに出てきた敵キャラにそっくり。

 ゴブリンはくんくんとにおいを嗅いでいる。何か探してるのかな? 

 違う方を見れば、他のゴブリン達も近づいてきてた。全部で10体ぐらい。私より背は低そうだけど、爪とか筋肉とか結構立派だ。

 こんな森にSランクレベルの冒険者がいるの? 2人も? まあそんなに強い人達ならゴブリンなんて敵じゃないんだろうけどさ。何しに来てるんだろう。

 木の葉の音が鮮明に聞こえ始める。森の匂いまでしてきた。これなら違う音とか聞けるかも。

 とりあえず、違う場所に意識を向けてみよう。ガン見してくるゴブリン達は置いといて、川でも探しますかね。

 この世界の人達は川の水も平気で飲むから、もしかしたら川沿いに冒険者達はいるかもしれない。そんなレベルの人達なら“乾き知らず”を持ってるだろうけど、生物の本能として水辺の近くは安心すると思うんだよね。グスターブみたいな巨大ワニが出ない限りはさ。

 ……ガン見?


「は……?」


 パッと目を開けたら木が見えた。ソファーに座ってたはずなのに、いつの間にか正座してる。靴を履いたままだから尻が痛い。

 布越しに土を感じる。木の葉が揺れる音が凄く近い。ゴブリン達と目が合う。

 目ぇ合っちゃってるよ。


「ぅええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 森じゃんここ?! さっきまでギルマスの部屋にいたのに森の中じゃん?! ゴブリンに囲まれてんじゃん?!

 急に大声を上げたせいでゴブリン達が威嚇してきた。ギラッと爪を光らせて引っ掻こうとしてきたから慌てて後ろに飛ぶ。1体のゴブリンを尻に敷いたけど、そのまま全力で逃げる。


「ギャギャギャギャギャァァァァッ!!」


 ゴブリン達が追いかけてきた。木に登ることも考えたけど、行く先の木々は細過ぎる。あれじゃあ私でも登れない。


「無理無理無理ぃぃぃ! 助けてぇぇぇ!!」


 走りながら叫ぶと、ボウッと火の玉が飛んでいった。

 ゴブリンの悲鳴が聞こえてくる。立ち止まって振り返れば、私とゴブリン達の間に緑織がいた。


「いじわるしちゃだめー!」


 そう叫んで、また火の玉を吐く。2匹目のゴブリンが火だるまになって絶命すると、残ったゴブリン達は奇声を上げながら逃げていった。


「だいじょーぶー?」


 足元に来た緑織が見上げてくる。ハッハッと短い呼吸を繰り返しながら膝をついて、命の恩人を抱き締めた。

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