第50話 物騒
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(`・ω・´)ゞ
男が放ってきたのは“はじき石”っていうマジックアイテムで、“受け石”っていうマジックアイテムと対で使う物らしい。
“はじき石”と“受け石”には同じ術師の魔力を注ぐ必要があって、使用者がこれを運ぶ、あれを運ぶって念じながら対象に“はじき石”を当てると“受け石”のところへ転送させる仕組みで、いわゆる運搬用のマジックアイテムとして長く使われてきたみたいだけど、簡単に持ち運びできて隠しやすいせいで、盗みや誘拐に使う輩が増えたから使用禁止になったんだとか。
あの男は人間に使うって念じながら“はじき石”を使ったみたいで、私はそれを“バンパイアシーフの短剣”を使って打ち返したから、直接触れなかったおかげで効果が発揮されなかったらしい。危ない危ない。
冒険者達に早々と捕まった男はフードを脱がされてギルド前に座らされていた。騒ぎを聞きつけて出てきた斧と杖のギルマスが男を問い詰めている。
近くで話を聞いていたニャルクさんがギルド内に戻ってきた。
「あの男、ロスネル帝国の術師です」
「ロスネル……。厄介にゃところが出てきたのう」
イニャトさんが唸った。
「ロスネルって、悪い国ですか?」
「悪いも何も、神々が見守った戦争でアシュラン王と戦った国の1つじゃ」
「ドレイファガスの本山がある国です」
うっわ、最悪。
「召喚の儀を行った教会が持っていた“伝書箱”で成功を伝えたようで、ニャオさんの噂を聞いた現皇帝が連れてくるよう命じたそうです」
「え、あいつそこまで話しちゃってるんですか?」
「はい」
ぺらぺら喋っていいもんなのそれ?
「あやつらにとっての正しきことは自分のやることじゃからの。他人がどう言おうが関係にゃい。じゃから禁じられた儀式もするし、マジックアイテムも使うんじゃよ」
私の表情を見て、イニャトさんが教えてくれた。
窓越しにロスネルの男に目を向ける。屈強な冒険者達に囲まれて、2人のギルマスに見下ろされているからか、俯いてしまって顔が見えない。
ついさっき出会ったジョルジュさんが、1枚の紙を持って杖のギルマスに近づいていった。杖のギルマスは紙に目を通して、さらさらと短く書き足してからジョルジュさんに返す。ジョルジュさんはその紙を持ってギルドに戻ると、奥の部屋へと駆け込んでいった。
「王都にこの件を報告するんでしょう。“伝書箱”は各町村の杖のギルマスの部屋に置かれていますから」
ニャルクさんが説明してくれた。
もう一度男を見ればわずかに顔を上げていた。気味の悪い笑みを浮かべている。
青筋を浮かべた斧のギルマスが怒鳴り声を上げた。なめられたと思ったんだろうけど……違う。
あれは余裕の笑みだ。
ニャルクさん達の制止を振り切ってギルドを飛び出す。敵国に入るのになんの策も持たないはずがない。ギルマス達の首根っこを掴んで思い切り引っ張った。
直後、ギルマス達が立っていた場所に氷の柱が落ちてきた。つららだ。私の身の丈もある巨大なつららが降ってきた。
騒然となる冒険者達の真上を影が走る。見上げれば、巨大な鳥が旋回していた。
「ウィンディゴ?! にゃぜあんにゃ魔物が町中に?!」
追いついてきたニャルクさんが叫んだ。
「ニャオ! ギルドに戻れ! あれの狙いはお前さんじゃ!」
ギルドの入り口でそう叫ぶイニャトさんの脇からするりと出てきたバウジオが、牙を剥き出しにしてウィンディゴに吠えた。
「ァオオオオオオオオーーーーンッ!!」
聞き覚えのある、バウジオの〈七聲〉。ウィンディゴは奇声を上げて地面に落ちた。
冒険者達に隙ができて、ロスネルの男が拘束から抜け出す。男は両手を大きく広げて叫んだ。晴れている空にいくつもの魔法陣が浮かび上がり、そこから何羽ものウィンディゴが現れる。
「ニャオさん早く! 早く戻って!」
ニャルクさんに手を引っ張られてギルドに走る。だけど目の前にまたつららが落ちてきて、退路を断たれてしまった。
「ピィィィィィィィィッ!」
ウィンディゴ達の中でも一際大きな1羽が下りてきた。まっすぐ私を睨みつけながら体を低く構えてくる。
ギルマス達を見たら、剣と杖を手に他の冒険者達と一緒に戦っている。こっちには誰も気づいていない。
やばい、かな?
巨大ウィンディゴが翼を広げて威嚇してきた。低空飛行で迫ってくる。
ニャルクさんが風魔法を放とうとしたら、私達の両脇から見覚えのある前足が生えてきて、頭上に影ができた。
「グオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!」
見たことのない形相で吠えた福丸さんが、止まれなかったウィンディゴの頭を叩き潰した。
▷▷▷▷▷▷
それからは福丸さん無双だった。
巨大ウィンディゴの骸に怯えた他のウィンディゴ達が空に逃げたと思ったら、福丸さんの毛がバリバリとはじけて、何本もの雷が突き上がって魔物達を貫いた。
黒焦げになって落ちてきたウィンディゴ達の頭を、福丸さんは1つ1つ踏み潰していった。無言で。
卵みたいに割り尽くした後、腰を抜かしているロスネルの男の正面に仁王立ちする福丸さんの背中を見て、止めねば、と思って間に入って右前足をぎゅっと握り締めて早10分。
「福丸さん。もう一度言いますね」
「……」
「人間の処理は人間に任せましょう」
「……」
「ギルマスさん達にも立場ってものがあるんですから、ここで死なれちゃ困ると思うんです」
「……」
「助けてくれてありがとうございます。本っ当に助かりました。だから後のことはここの人達にお任せしましょう」
「……」
「頷いてくれないと今晩の林檎ジュースお預けですよ」
「それは困ります」
ああ、やっと喋った。
その後、福丸さんの目を男から逸らせる為に残っていた林檎で飾り切りを披露した。兎はもちろん、扇、木の葉、頑張って薔薇まで作ってみせた。
今日ほどこれを覚えといてよかったと思ったことはないね。
冒険者達が男を縛って連行していくのを横目で確認して胸を撫で下ろしてたら、バッサバッサと音を立てながら漣華さんが下りてきた。口にはでっかいでっかい魔物を咥えてる。
「……何をしておる、そなたら」
ぼと、と魔物を落として、呆れたように漣華さんが言った。
「まあいろいろありまして。で、それなんですか?」
「これはジノ・テウェク。異世界から召喚された魔物じゃな」
異世界の魔物か……。テナガザルをもっと凶悪にしたような見た目だな。
「ここにおった異国のたわけ者が喚んだのじゃ。そなたらを襲わせるのが目的と見た故、フクマルに先に町へと向かわせたのじゃが……。たわけ者はどこにおる?」
「……どうするおつもりで?」
「もちろん殺す」
うーん物騒。隠してもらっといてよかった……。
林檎に釣られてくれない漣華さんを説得するのは難しくて、言い合いみたいな話し合いが30分を超えた時点で、水神さんにお願いして大きな水玉を漣華さんの顔面にぶつけて強制的に頭を冷やしてもらった。
周りにいた冒険者やら商人やら町民やらがぎょっとしてたけど、私悪くないもんね。




