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第49話 ニャルクさんのうっかり

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

「いいのがあってよかったですね」

「はい、大満足です!」


 ラミラさんにお風呂道具一式を扱っているお店を教えてもらってから1時間。期待以上の買い物ができてほくほくしながらお店を出た。

 最初に選んだのはやっぱり石鹸。匂いつきの物ばかりだったから、鼻のいいニャルクさん達にどんな香りなら嗅いでいても問題ないか確認して、ルーサという花の体用石鹸と洗髪用石鹸を購入した。

 他にも見て回ったら木桶とボディータオルもあったから購入。なんと顔パックやクリームまで売ってた。

 例の王様がん無視の異世界人が開発したのかな? とりあえずクリームだけ買った。


「さて、お目当ての物も買うたし、後はどうする?」


 バウジオに乗って林檎を齧りながらイニャトさんが聞いてきた。


「そうですねぇ。イニャトさん達はほしい物とかないんですか? やっておきたいこととか」

「特ににゃいのう」

「やっておきたいこと……ああ゛っ!!」


 前足を口に当てて考えていたニャルクさんが、聞いたことのない濁声を上げたからびっくりした。そんな声出るんだ。


「イニャト、バウジオ、ニャオさん……。申し訳にゃいんですけどギルドに寄っていいですか?」

「ギルドに? 一体にゃんの用が……お前さんまさか?」


 私と同じぐらい驚いていたイニャトさんに、ニャルクさんは耳をぺたんと下げた。


「ギルドカードの更新を忘れてました……」




 ▷▷▷▷▷▷




 この世界のギルドカードは免許証みたいに更新する必要があるみたいで、更新しないと無効になるらしい。

 無効になったギルドカードはもちろん使えなくなるから、村とか町に入るのにも時間がかかるし、何よりギルドの所属から外れるから、商人ギルド所属だと商売が、冒険者ギルド所属だと依頼が受けられなくなるんだとか。

 ギルドカードの有効期間は4年で、期間の長さにランクは関係ない。更新期間は2ヶ月。ニャルクさんの更新期限はなんと明後日だった。


「気づけてよかったのう。このままじゃと再発行せねばにゃらんかったとこじゃぞ?」

「うう、すみません……。フアト村の時には覚えてたんですが、レイエル町に着いてからでいいかと思ってしまって……」

「先延ばしにするから忘れるんじゃろうが」

「再発行って、何か罰則があるんですか?」

「罰金じゃよ。ギルドカードを持つ上での基本を忘れる馬鹿に払わせるんじゃ。しかも5万エルもかかる。加えて基礎のおさらいという名の説教30分じゃ」

「うわぁ……」


 5万払って説教喰らうのか……。絶対やだな。


「ニャルクよ。お前さん、前も儂が聞かねば忘れるところじゃったろうが。いい加減自分の更新日ぐらい覚えんか」

「すみません、思い出しはするんですけど、更新期間に入ったらにゃぜか忘れてしまって……」

「そんにゃんじゃあいつか本当に説教喰らう羽目ににゃるぞ。いいんか?」

「いやぁ、それは……」

「まあまあ、思い出せたんだからいいじゃないですか。次からは気をつけるってことで」

「ふむぅ……。まあ、ぐちぐち言っても仕方ないしのう。次はちゃんっと覚えとくんじゃぞ?」

「はい、肝に銘じておきます……」

「ばっふぅ」


 ギルドの扉を開けば、また視線が集まる。しかもフードを脱いでいるから余計に。

 行ってきます、と駆けていったニャルクさんに手を振って、冒険者ギルド側にあるテーブルについた。


「何か食べるかの?」

「フライドポテトがほしいです」

「はいよ。では買ってくるでの。動くでにゃいぞ」

「ばっほい!」


 イニャトさんを見送って、椅子に座ったままバウジオの頬をむにむにする。うん、本日の手触りも良好です。


『◎△○□?』


 突然声をかけられて振り返れば、にこにこと笑うおじさんがいた。商人ギルドの制服を着てる。


「あー、すみません。言葉がわからなくて」


 どうせこっちの素性は知られてるだろうから普通に喋る。人間相手だとにゃんにゃん言ってるようには聞こえないのかな? そうであってほしいけど。


『◯◎△□、◎◎』


 おじさんは微笑んだまま何かを言って、頭を下げてきた。え? これどうしたらいいの?


「ニャオ、どうした?」


 皿いっぱいのフライドポテトを持ったイニャトさんが、私達とおじさんの間に入る。おじさんはイニャトさんにも頭を下げた。


「ふむふむ……。ほう……。にゃんと、そうじゃったのか」


 うんうん、とイニャトさんは頷いた。


「ニャオよ。この者はジョルジュといって、ダッドらとは旧知の仲らしい。困窮しておったあの一家をどうにかしたいと悩んでおったところに儂らが来たらしく、その礼を言いたかったようじゃ」

「ああ、そうだったんですね」


 お礼が言いたかっただけか。なんか身構えちゃったよ。

 もう一度頭を下げてきたジョルジュさんは、バウジオの頭を撫でて仕事に戻っていった。少ししてニャルクさんが戻ってくる。


「お待たせしました。無事に更新できましたよ」

「よかったですねぇ」

「では、これを食べたら帰ろうかの」


 ニャルクさんも椅子に座って、みんなでフライドポテトを食べる。もちろんバウジオも。前は塩分とか気にしてたけど、完全な犬じゃないから問題ないって言われてからは食事をそのまま分けるようにしてる。

 10分ほどで食べ終わって、お皿を返してから出口に向かう。


「はあ……。帰りはレンゲ殿か……。どうにか避けられんものか」

「腹をくくるしかにゃいですよ。逃がしてくれるようにゃ方じゃにゃいでしょう……」

「きゅ~ん……」


 ああ、みんなの気分が沈みまくってる。ニャルクさん達にとって未知の体験だったんだろうなぁ。

 もう少しで出口というところで、また嫌な予感がした。フードを目深に被った2人組が扉の近くに立ってひそひそ話してる。顔は見えないけど、肩幅からして男だ。

 マジックバッグに手を入れて、“バンパイアシーフの短剣”を握る。

 男達との距離が近くなる。一瞬だけ視線が絡む。

 もっと近くなると、片方が懐に手を入れた。マジックバッグの中で短剣を抜く。

 すれ違いざまに何かを放られた。赤黒い石だ。兄弟猫も黒犬も気づいていない。

 短剣を引っ張り出して、刀身で打ち返す。放ってきた奴に顔面直撃。

 元卓球部なめんなよボケが。

 コーン、といい音がして驚いた顔をするニャルクさん達と、ハンッ、と鼻を鳴らした私の目の前で、石が当たった男はポンッと消えた。

 ……消えた?


「……なんなん?」


 冒険者も商人も、ぽかんとした顔で私達を見てる。呆然としていたフードの男がギルドを飛び出ると、冒険者達が武器を持って追いかけていった。


「え、なんなん? 何があったんです?」

「ニャオ、お前さんは下がっておれ。ニャルク」

「大丈夫、いつでも応戦できます」

「ヴヴヴゥゥゥゥ……」


 ニャルクさんが先頭に、イニャトさんが私の真ん前に立った。バウジオはニャルクさんの隣で唸ってる。


「あの、なんなんですか?」


 わけがわからずそう聞けば、イニャトさんが振り返って教えてくれた。


「あやつ、お前さんを拐おうとしよった」

「……うっそぉ」


 マジで?

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