第41話 ただいま!
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アンピプテラは凍ったまま地面にめり込んでいた。威嚇したまま固まってるから顔が怖い。
「ふむ、まだ生きておるな」
「え? この状態で?」
思わず漣華さんに聞けば、ああ、と頷かれた。
「そなたの氷は妾達が使う魔法とは根本が異なる故、こやつの鱗も跳ね返せなんだ。しかし元が頑丈な魔物じゃから即死は免れた。じゃが、このままにしておけば息ができずに死ぬであろう」
前足で巨大な氷を揺らしながら漣華さんは答えてくれた。
少し離れたところに騎竜隊が降り立った。不安げな様子のユラン達から降りた騎竜兵の1人が近づいてくる。
『○○○△、□△○?』
「いかにも。妾はユルクルクスじゃ」
『△△○、□▽○○』
「そなたらを救うたのは妾ではない。この異世界人ぞ」
『『『!!』』』
遠くにいた2人も驚いた顔をする。話題に上げなくていいのに……。
『✕✕、□○□△、○✕□▽?』
「ふむ……、そうじゃったのか」
漣華さんが私を見下ろした。
「あやつらの目的はアンピプテラの血らしい。新たなポーションを作る為の材料として捕まえに来たんじゃと」
「ああ、そうだったんですね」
「で、じゃ。報酬は払うからこのアンピプテラを譲ってはくれぬかと聞いてきておるよ」
「私はいいですよ」
持って帰ったらニャルクさん達悲鳴上げそうだもんな。バウジオなら喜びそうだけど、使い道ないし。
「構わぬそうじゃ。支払いはぺリアッド町のギルドを通すがよい。3日後には一度訪ねる故、それまでに用意せいよ」
漣華さんが言うと、3人の騎竜兵は揃って頭を下げた。
その後、騎竜兵達はユランの鞍に取りつけていたマジックバッグから縄を取り出してアンピプテラを縛り始めた。3頭で協力して運ぶんだろうけど、大丈夫かな?
「あれ、運んでる間に動き出したりしません? 大丈夫ですか?」
「どうじゃろうな。王都までは距離がある。あやつの息が続いていたなら、氷が溶けて薄くなった瞬間暴れるであろう」
「それまずくないですか?」
「騎竜隊は王国を守る騎士団に属する者ぞ。その程度対処できんでどうする」
うーん、でもさっきの戦いぶりからあんまり慣れてないように見えたんだけどなぁ。
「ポーションの材料って、生き血じゃないと駄目なんですかね?」
「知らぬ」
「聞いてみてもらえたりとか……?」
「なぜそんなことをせねばならん」
ああ、そっぽを向いてしまった。
そんな話をしている間も、騎竜兵達はアンピプテラを縛る作業を続けている。だけど大きさが大きさだからうまくいかないみたい。
空中に浮けば結びやすいのになぁ。と、思ったら、アンピプテラがふわりと浮いた。
騎竜兵達が騒ぎ出して、ユラン達が飛び退く。漣華さんからじろりと睨まれた。
「……おい」
「私のせい……?」
今のってお願いしたことになんの?
警戒していた騎竜兵の1人が私をちらっと見て、仲間に号令を出した。それを合図に3人がかりで手早く縄をかけていく。
ものの数分もしない内に、アンピプテラは三つの持ち手がある荷物に早変わりした。
『○○◎○、△△◎○!』
号令を出していた騎竜兵が私達に向き直って叫ぶと、全員で乱れのない所作で敬礼してきて、それぞれのユランに跨がった。
持ち手を掴んで舞い上がったユラン達は、よろけることなく日が暮れた空に飛び去っていった。
「ほれ、そなたも乗れ。帰るぞ」
「はーい」
かがんでくれた漣華さんの背中によじ登ると、正面の斜め上に魔法陣が浮かび上がる。漣華さんがジャンプしてそこに飛び込めば、福丸さんの寝床が目の前にあった。
「なんじゃこれは……」
目を真ん丸にした漣華さんが呆れたように言った。まあしょうがないよね。昔馴染みの寝床が実りに実りまくった20本の林檎の木に囲まれてればそんな反応もしちゃうよね。
せせらぎを越えて私とニャルクさん達の家がある方に行くと、みんなも丁度帰ってきたところらしく、マジックバッグを下ろしてる最中だった。
「ニャオさん、おかえりにゃさい」
「ばっふばっふ!」
「ただいま。皆さんもおかえりなさい。あの後大丈夫でした?」
「問題にゃいぞ。食料も買うたし、ほれ、ハンモックもいいのがあった」
「あ、いいですね」
「これは明日かけるとしましょう。ところでレンゲ、どこに寄り道を?」
ありゃ、福丸さんにばれてら。直帰しなかったこと。
「どこでもよかろう。じゃが3日後は必ずギルドによるようにせい」
「何かあるのかの? レンゲ殿」
イニャトさんに聞かれて、漣華さんはふふんと鼻を鳴らした。
「アンピプテラを王都の連中に引き渡した。その報酬が支払われるのじゃ」
「アンピプテラ?! にゃんでそんにゃ魔物を?」
「騎竜隊が襲われていたところをニャオが捕まえたのじゃ」
「ニャオさんが?!」
どういうことです?! と兄弟猫に詰め寄られる。
「あの、説明はちゃんとするんで待ってくださいよ」
「にゃらぬ! 今説明せい!」
「教えてくれにゃいとパンあげませんよ!?」
「ええ?! せっかくのジャムが!?」
「食いたいにゃら説明せんか!」
服の裾を引っ張ってくる兄弟猫と、便乗して遊ぼうとするバウジオに揉みくちゃにされながら漣華さんを見れば、木に成った桃をそのまま食べ始めていた。
「なんと、美味いなこれは!」
「そうでしょう? ニャオさんが水神に頼んで育てた果実なんですよ。特に林檎が絶品です」
「いいや、桃じゃ。桃が一番美味い」
「林檎です」
「桃じゃと言うておろうに」
「林檎ですってば」
ちょっと、そんなことで喧嘩してないで助けてよ!
結局ぺリアッド町を出てからの全部を説明するまで解放してもらえず、ジャムにありつけたのは日がとっぷり暮れてからだった。




