第38話 お願いだから……
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「そなたら。このような小さき者達相手に何をしておる」
漣華さんの長い尻尾が私達をくるりと囲う。ゆったりとした動作だけど、冒険者達は仰け反るように飛び退いた。
「よもや、見るからに非力なこの者達に無体を働こうなどと考えてはおるまいな?」
牙を剥き出しにした漣華さんが、グルルル、と喉を鳴らす。汗だくになった冒険者ギルマスが1歩前に出た。
『✕▽□、✕✕□……』
「それがこの者であると?」
『○△□○?』
「ならぬ。妾がこのまま連れ帰る。今後も手出しすることは許さぬ」
『✕✕△! □✕□□?!』
「黙れ小童。ここの長か知らぬが、妾をユルクルクスと知って楯突くのであれば容赦はせぬぞ」
わーお、穏やかじゃない。一緒に尻尾に囲われてしまったダッドさん一家が微動だにしないんだけど。
てゆーかユルクルクスって何? 漣華さんそんな名前あったの?
「ニャルクさん、あのギルマスさん? はなんて言ってるんですか?」
……返事がない。
「ニャルクさーん?」
「ニャオよ、勘弁してやっておくれ。今ニャルクは叫ばんようにするのに必死にゃんじゃよ」
あれま、そうなのね。
「じゃあイニャトさん、漣華さんとあのギルマスらしき人は何を話してるんです?」
「じゃあって……。はぁ、まあよいわ」
イニャトさんは呆れ顔でため息をついたけど、教えてくれた。
なんでも、ギルマスさん達は異世界から召喚された人間が来たら足止めするよう王都から伝達されてたんだとか。その特徴が、2匹のケット・シーと黒犬と同行していて、黒髪の直毛。うん、私だね。
「で、なんで漣華さんは怒ってるんです?」
「さあのう。ともかく、ギルマス達が引かぬ限り儂らはこの尾っぽから抜け出せぬぞ」
「ギルマスさんが引くこと確定なんですか?」
「ただの人間がドラゴンに敵うわけにゃかろう」
まあそうだな。でもずっとここにいたくないんだけど。早く帰りたい。
『□△▽✕! ○□✕✕!』
商人ギルドの方からおじさんが走ってきて、漣華さんを見てビタッと立ち止まった。持ってきた紙をグシャッと握り締めて、だらだらと冷や汗をかき始める。可哀想に。
駆け寄った商人ギルマスが紙をむしり取って目を通すと、そのまま後ろにバターンッ! と倒れてしまった。
「え? どしたの? 貧血?」
「わからん。じゃが見てみよ。斧のギルマスも青ざめておるわ」
斧のギルマス? 冒険者ギルマスのこと? 確かに受付嬢に介抱されてる商人ギルマスの手から抜き取った紙を見て真っ青になってるけども。なんて書いてあるんだろう?
「届いたようじゃな」
ふふん、と漣華さんが満足げに笑った。何が届いたのさ?
「さて、小童共。まだこやつを足止めするか?」
漣華さんが聞けば、冒険者ギルマスがぶんぶんと首を横に振った。何かを察したのか、出口側にいた冒険者達が左右に避ける。通してくれるみたい。
「ほれ、出るがいい」
尻尾の囲いを外した漣華さんが鼻で外を示した。固まってるニャルクさんを抱き上げて、ダッドさん達の背中を押しながら外に向かう。
そんなに時間は経ってないはずなのに、外の空気がとんでもなく美味しく感じる。傾きかけた太陽が眩しい。
「ああ、ニャオさん。ここにいらしたんですね。グーロを捕まえたので持ってきました。どこで引き取ってもらえるんでしょうか?」
……犬とも猫ともつかない魔物の死骸を両脇に抱えた福丸さんが、ギルド前の広場でにこにこ笑っていた。町の人達が物凄く遠巻きにこっちを見てる。私もそっちに行きたい。
そーっと横を見てみたら、魂が抜けかけたダッドさんがふらふらしてた。
どうしようかねこの状況。
「おい。妾はどうやってここを出ればいい?」
聞かれて振り返ったら、たった今出てきたギルドの扉から頭だけ出した漣華さんが私達を見上げていた。
「……もっぺんユニークスキル使ってください」
「面倒じゃのう。このまま壊してしまえば」
「そんなことしたら水神さんに叱ってもらいますよ」
「……うぬぅ」
お願いだからこれ以上騒ぎを起こさないで。




