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第348話 7人目①

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。

「ほれキイナ、こっちへ来い。そなたが最後じゃ」


 漣華さんに呼ばれた黄菜が、重い足取りでぽてぽてやって来た。


「レンゲ姉ちゃーん、あたしやりたくないよう……」


 あらら、項垂れちゃった。


「キイニャ、お前さんの気持ちは充分わかる。じゃがこれはお前さんにとって大切にゃ経験にゃんじゃよ。ミオリ達も無事にこにゃしたんじゃから、ちっと頑張ってみんか?」

「僕達も故郷を出ると決めた時は不安でいっぱいでした。旅の準備をしている間は、ちゃんと旅ができるのか、危険にゃ目に遭わにゃいかと心配で心配で……。ですが、いざ出発してみると楽しいことの方が多かったんです。バウジオやニャオさんに会えましたし、キイニャ達が生まれる瞬間にも立ち会えた。故郷にとどまっていたら、そのどれもに出会えにゃかったんです。あにゃた達にもそんな景色を見てほしいと、僕は思うんですよ」


 黄菜の鼻を撫でながら、イニャトさんとニャルクさんが言った。兎人姉弟もうんうんと頷いてる。福丸さんの森にいるのって、生まれ故郷から出てる人達ばっかりだもんな。私に至ってはこの世界の生まれですらないし。


「キイナ、おいら達が頑張ったの見てたんだろ? お前の番が来ただけだって」

「いつも通りやれば大丈夫だよ」

「私だって不安だったけど、意外と平気だったんだ。レンゲ姉ちゃんやママ達が狩り方を教えてくれたからだよ」


 藍里達もこっちに来た。黄菜は仔ドラゴン達の中でも成長が遅かったからな。余計に不安なんだろうね。


『◎○△~? □□◎~?(*゜∀゜*)』


 イヴァさんが猫撫で声で黄菜に寄ってきた。漣華さんがムッとする。なんだ? なんて言ったんだ?


「イヴァの奴、1人になるのが嫌なら王都で騎士団に入ればいい、とキイナに言ってるよ。最初っからそれが狙いだったんだね」


 林檎を食べてる福丸さんの頭に乗ってるそのさんが言った。勧誘されちゃってるんだ。まあ意思の疎通ができるドラゴンなんてそうそういないみたいだから、騎士団みたいな人達が黄菜達を戦力にほしいって言うのは当然だろうね。


「うーん……。やだ」

『✕?!Σ(; ゜Д゜)』


 ……黄菜よ、ずいぶんばっさり断ったなぁ。


「イヴァのことは好きだよ? でもどこどこに行ってあれを狩れ、何を何頭狩れって指示されるのは嫌。あたしは狩りたい時に狩りたい魔物を狩りたいだけ狩るのがいい」


 そうだよね。ドラゴンだもんね。お願いならまだしも、命令されるのは嫌だよね。


「レンゲ姉ちゃん、あたし頑張ってみる。魔法陣つくって?」

「わかった」


 ショックを受けてるイヴァさんをアーガスさんが引き摺っていくのをガン無視した黄菜の真横に、漣華さんが魔法陣を描き上げた。ふう、と息を吐いた黄菜がそこをくぐる。テレビもどきの魔法陣に目を戻せば、そこは綺麗な花畑だった。


「え、絶景……」


 色とりどり、様々な種類の花が我こそはと咲き誇ってて、遠くには雪をかぶった山々が連なってる。日の光を反射する山頂は魔法陣越しにも眩しく感じるほどだ。ここにドラゴンがいるのか?

 黄菜自身も、予想外の場所に出たのかキョロキョロと周囲を見回してる。きょとんとした顔が可愛い。と、呑気に思ってたら巨大な火球が黄菜を襲った。

 直前で危険を感じ取ったのか、正面に飛び出すように黄菜は火球を回避した。綺麗な花畑に大きな穴が空く。そこを巨大な影が通り過ぎた。


『ゴアアァァアアアアァァァッ!!』


 狂暴そうな咆哮に鼓膜が震えた。魔法陣が映す景色が変わる。黄色というより、金色に近い鱗のドラゴンが黄菜を追いかけ始めた。


「黄菜の相手はイエロードラゴンじゃなかったんですか?」


 漣華さんを振り返ったけど、答えてくれたのは福丸さんだった。


「あの個体もイエロードラゴンですよ。鱗の色が微妙に違うだけです。黄金の鱗を持つエルシェ・ドラゴンという魔物もいますが、あれはもっと輝いていますから、一目でわかりますよ」


 そうなんだ。あれもイエロードラゴンか。赤嶺の時みたいに違うのかと思って驚いちゃったよ。

 黄菜はイエロードラゴンをちらりと見て、山に向かって飛び始めた。花畑から出ようとしてるのか。花が好きな仔だから、散らせたくないんだろうね。

 追いかけるイエロードラゴンがブレスを放つ。易々と避けた黄菜は尻尾に紋様を浮かばせて、左右に何度も振った。

 何枚もの黄色く輝く光の刃がイエロードラゴンに迫った。だけど、浮かび上がった土塊に簡単に砕かれてしまう。紫輝が狩ったラベンダードラゴンみたいに、黄菜の相手も土魔法を操れるらしい。

 イエロードラゴンの目が鋭く光る。その瞬間、猛スピードで飛んでた黄菜がピタリと止まって、真下に叩きつけられた。


「キイナ?!」

「どうしたの?!」


 青蕾と緑織が驚いて叫んだ。じっと魔法陣を見つめてた政臣さんが唸る。


『重力だよ。あのイエロードラゴンは、土魔法の中でも高度な重力魔法を操れるんだ。あれではキイナ君は飛び立てない』

「そんな……」


 飛べないなんて、どうやって戦うんだ?

 不可視の力に押さえつけられた黄菜がもがく。花が潰されて、土がえぐれる。黄菜の真後ろに降り立ったイエロードラゴンが、どこか楽しそうに目を細めた。

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