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第346話 5人目②

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。


遅くなりました。

 次に動いたのはトワ・ドラゴンだった。赤嶺達がやるみたいに、赤黒い鱗に紋様が浮かび上がって光り始める。トワ・ドラゴンの全身を覆うように広がった光は辺り一面を赤く染めて、赤嶺の鱗まで侵されてるみたいで不気味だ。

 清ちゃん、その光は何? わかる?


(そいつが今まで喰ってきた魔物達の魔力が混ざり合ってる感じ。なんていうか……、上手く自分のものにできてない気がする)


 それってつまり、コントロールできてないってこと?


(うーん、そうじゃない。どっちかって言うと、爆弾抱えたまま戦ってるって感じかな。こいつ、トワ・ドラゴンの中でも下位だろうね。上位だったら今の赤嶺は勝てないよ)


 下位のトワ・ドラゴン? それでも充分強いんだよね?


(強いのは強いよ。でも漣華は赤嶺なら勝てるって思って宛がったんだ。大事なのはどう立ち回るかだよ)


 ……うん、そうだね。漣華さんや美影さんに鍛えられた仔なんだから、きっとやれるよね。

 赤い光に照らされた景色がかげろうみたいに歪んだ。輪郭が朧気になった岩場の陰から何かが覗いてる。形を保てなくなってる、あやふやな影。トワ・ドラゴンに喰われた魔物の魔力が立体化したモノか?

 確認できるだけでも4、5体の魔物の影がいる。大きさや形も様々だ。まさかトワ・ドラゴンに加勢して赤嶺を襲うのかと思ったけど、ただただ岩陰でゆらゆら揺れてるだけみたいだ。


「漣華さん、あれは?」

「そなたの想像しておる通り、トワ・ドラゴンに喰われた魔物の残滓じゃ。あやつが力を使えば顔を覗かせるだけの、哀れな者共の成れの果てよ」


 残滓……。残留思念みたいなもの? つまり、トワ・ドラゴンが生きてる限りは囚われ続けてるってことか。

 トワ・ドラゴンが動いた。鋭く長い尻尾をゆったりと振ると、その動きにそぐわない赤い刃が赤嶺に迫る。飛んでいた赤嶺は軽々避けたけど、その刃はくるりと方向を変えて赤嶺を追いかけ始めた。


「追われよるぞセキレイ! 早う逃げよ! 逃げんか!!」

「あああ危にゃい危にゃい! どどどどうすれば?!」


 パニックになりかけてるニャルクさん達が、隣に立ってるアーガスさんの脚にしがみついてる。その傍ではアースレイさんに抱きつくシシュティさんにイヴァさんか抱きついてる。みんな目を魔法陣から逸らせれない。トワ・ドラゴンってやっぱり珍しいのか。

 赤い刃から逃げながら、赤嶺は周囲を見回してる。そして体の向きを変えると、地面から突き出た岩場の方へ飛んだ。

 体を絶妙にくねらせながら、赤嶺は岩すれすれを飛んでいく。赤い刃は避け切れずに岩にぶつかる度に刃こぼれしていって、終いには真っ二つに割れて消えた。

 仔ドラゴン達が歓声を上げる。バウジオが嬉しそうに吠えた。でも赤嶺の表情は固い。真後ろに、トワ・ドラゴンが迫ってる。

 トワ・ドラゴンがブレスを放った。至近距離にいた赤嶺は寸でのところで避けることができたけど、運悪く岩にぶつかってしまう。よろけたところを見逃さなかったトワ・ドラゴンが、赤嶺の後ろ脚に喰いついた。

 深紅のドラゴンが大きく頭を振りかぶる。ぐわり、と持ち上げられた赤嶺は、その勢いのまま地面に叩きつけられた。

 地面が大きくえぐれる。土埃が舞った。仔ドラゴン達の歓声が途切れて静寂に包まれる。咳き込んでる赤嶺に、トワ・ドラゴンが迫った。

 背中から落とされた赤嶺が立ち上がろうと四つん這いになった時、トワ・ドラゴンに覆い被さられた。自分よりも二回りも大きな相手に乗られた赤嶺は身動きが取れない。舌なめずりするトワ・ドラゴンに、ぞわり、と怖気が立った。


「漣華さん、私も」

「ならん」


 赤嶺のところに行かせてほしい、とお願いしようとしたら、ばっさり断られた。


「危機的状況に遭った時、あやつらは常に助けが入った。親であれそなたらであれ、それこそきょうだいであれ、加勢をどこかで望んでおる。それがないとわかった時、力を得られるかで未来は変わる。そなたがあの場へ行くことは許さん」


 マジか。

 牙を剥き出した赤嶺が吼えてブレスを放つ。それを軽々と避けたトワ・ドラゴンは、赤嶺の喉に狙いを定めた。

 鈍く光る牙が、赤い鱗に喰らいつく。逃げようともがく赤嶺は、トワ・ドラゴンに地面に押さえつけられた。

 勇啼さんと美影さんが唸る。悲鳴を上げた仔ドラゴン達の体が、それぞれの色に輝き始めた。


「おや、これは……」

「まさかねぇ……」


 福丸さんとそのさんが目を丸くする。驚いた顔をした政臣さんは、仔ドラゴン達を見て微笑んだ。

 6色の光がラタナさんの湖にきらめいて、やがて消える。何が起こったのかと思ったら、赤嶺の方に異変があった。

 赤嶺の体が赤く輝く。そこにきょうだい達の6色が混ざって、虹色のオーラになった。目を見開いたトワ・ドラゴンが赤嶺を解放して空へと上がる。むくりと起き上がった赤嶺は、首を伝う血をそのままにトワ・ドラゴンを睨み上げた。

 大きく開かれた赤嶺の口に、7色のオーラが集まっていく。辺りを照らす深紅を上塗りして、より鮮やかな景色へ変える。狙いを定めた赤嶺は、7色のブレスを空へ放った。

 虹色の光線は、普通のブレスよりも遥かに速かった。トワ・ドラゴンが反応できないほどの速さだ。トワ・ドラゴンは、かすかな声を上げてブレスに呑まれる。空へと昇った赤嶺のブレスが雲の向こうへ消えた頃、トワ・ドラゴンの姿はどこにもなかった。


「え? 消えた?」

〖焼け消えたのよ。消し炭すら残せず、ね〗


 ふわりとやってきたククシナさんが、後ろから抱きついてくる。


〖きょうだい達のブレスを1発にまとめた威力なんだもの。いくらトワ・ドラゴンと言えど、真正面から喰らえば勝ち目はないわ〗

「なんつー技なんですか……」


 てゆうか、こんなに離れた位置にいるのにどうやってブレスをまとめたの? これも魔法か?


「レアスキル〈血の絆〉。血の繋がりのある者から魔力をわけ与えてもらうことができる特殊なレアスキルです。ですがそれは一度に大量の魔力を身の内に宿すことになります。つまり……」


 福丸さんが言い淀む。魔法陣の向こうから、どさりと音が聞こえた。

 目を戻せば、赤嶺が地面に倒れてる。血が流れて土に染みていく。呼吸が浅いように見える。


「か、か、か、回収じゃあーーー!!」


 イニャトさんの叫び声に、ぽかんとしてた緑織達が慌てふためいた。漣華さんとククシナさんが、赤嶺のところに繋がる魔法陣を描き上げる。他の魔物が血のにおいを嗅ぎつける前に連れて帰らないと。

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