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第345話 5人目①

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。

 泣きすがるイヴァさんを、竜人になったままの私とアーガスさんの2人でようやっと引き剥がしてから、赤嶺は漣華さんの魔法陣をくぐっていった。地面に膝をついてさめざめ泣いてたイヴァさんは、心配して近づいた藍里の翼に顔を埋めて嗚咽をもらしてる。そんなにうちの仔らが巣立つのが嫌か。


「おお、赤嶺がレッドドラゴンと出会したぞ。……じゃがあれは……」

「……あれはまずいんじゃにゃいですか?」


 さっさとイヴァさんをほっぽった兄弟猫がテレビもどきの魔法陣を覗き込んで唸った。私も急いで漣華さんの隣に戻って魔法陣を見れば、赤嶺がドラゴンと睨み合ってる場面が映ってた。レッドドラゴン、には変わりないんだろうけど……。


「なんか、どす黒い赤ですね……」


 赤嶺は10メートルもありそうな崖の縁に立ってる。見下ろす先にいるドラゴンは、赤嶺よりも、私がこの世界に喚ばれて初めて出会ったドラゴンよりも深い、まさに深紅と呼べる鱗をしてた。


〖……トワ・ドラゴンだなんて、厄介な相手を選んだわね〗

〖ほんと、嫌な奴〗


 ……ククシナさん達の反応を見るに、戦い安い相手ではないらしいね。


「トワ・ドラゴンってどういう種なんですか?」

「ドラゴンの中でも、レッドドラゴンだけが変異することがある個体です。どういう経緯を経てそうなるのかはわかりませんが、共通しているのはより多くの獲物を狩ったことがある個体、ということですね」

『様々な魔物の肉を喰らい、血を飲んだ為に赤い鱗に染みて出た、と言う人間達もいるよ。そしてトワの二つ名をつけられたレッドドラゴンは総じて狂暴だ。セキレイにとっては辛い相手だね』


 なんちゅうドラゴン選んでくれてんの漣華さん?


「トワ・ドラゴンか……。俺も一度戦ったことがあるが、かなり手強かった」

「私は追いかけられた。木々や岩場を通り抜けてどうにか逃げられたけど、凄く怖かった」


 追いかけられた時のことを思い出してるのか、美影さんは少し頭を下げてしまってる。勇啼さんが頬擦りするけど、睨むようなその目は魔法陣から離れない。


「トワ・ドラゴンなんてSランクのパーティーでも尻込みする相手なのに、セキレイ1人だなんて無茶だよ」

『だからって、あたし達が行っても戦力にはなれないわ。ねえレンゲさん、相手を変えちゃ駄目なの?』


 アースレイさんとシシュティさんが振り返るけど、漣華さんは首を縦に振ってくれない。


「セキレイに相応しい相手じゃ。今さら喚び戻しなどせん。それに、本人はやる気のようじゃぞ?」


 漣華さんが魔法陣を顎でしゃくって指す。赤嶺の奴、自分から仕かけていってるよ。そもそもあの仔、トワ・ドラゴンって知ってるのか?


(ニャオ、ぼくも上空で待機してるからね。危なくなったらすぐに行くから、安心してよ)


 頼んだよ清ちゃん。私も、いざって時は魔法陣でほっちに行かせてもらうからね。


(ぼくがやるからニャオの出番はないもーんだ)


 こんにゃろめ。

 崖の縁を掴んで踏ん張った赤嶺がブレスを放つ。だけどずいぶん短い。続け様に放ったブレスは、避ける為に飛び立ったトワ・ドラゴンに見事に命中した。


『◎○~! ◎○◎~♪』

『○△○△、□□◎』


 二段構えの赤嶺の攻撃を見て、シシュティさんとイヴァさんがハイタッチしてる。アースレイさんとアーガスさんは魔法陣に釘づけだ。エルゲさんは……、なんかぶつぶつ呟いてる。

 ブレスを真正面から受けたトワ・ドラゴンは、全く怯んでなんかなかった。先に狩った4体のドラゴンは、こういう時緑織達に向かって吼えて反撃してたけど、あいつは違う反応を見せてる。ただただ赤嶺をじっと睨んでるだけだ。

 トワ・ドラゴンの反応が予想と違ったのは赤嶺も同じみたいで、威嚇の声を上げながら翼を広げて飛び立つと、相手と距離を取りながら赤い炎を吐いた。だけどそれも赤黒い鱗を滑るようにはじかれてしまう。


「勝ち目はあるんですか?」


 漣華さんに聞けば、当然とばかりに頷かれた。


「確かにあやつは長く生き、多くを喰らったトワ・ドラゴンじゃ。その分知恵もあり、経験も豊富。しかし赤嶺が妾達のもとで培ったものは、本来のドラゴンには得難いものばかり。それを活かせれば勝機はある」


 勝機はって……。でも、赤嶺はきょうだい達の中でもリーダー格だし、強いっちゃ強い。それはわかる。だけどまだ2才になってないんだよ? トワ・ドラゴンなる魔物は2才未満で挑んでいい相手なの? 勇啼さんが手強かったって言い切る相手だよ? そこんとこわかってる?


「ねえあんた、本気でセキレイがトワ・ドラゴンに勝てると思ってんのかい?」


 そのさんが片目を細めて漣華さんを睨んだ。芒月が不安そうに鼻を鳴らしてる。キュートなお耳もしょんぼり下がっちゃってるよ。


「馬鹿正直に正面から挑めば危ういが、あやつには妾達や人間の傍で育ったが故の知恵がある。それを活かせぬようであれば、セキレイを巣立たせるわけにはいかん」


 セキレイを? どういうこと? 他の仔達の時はそんなこと言わなかったのに……。何か理由があるのか?

 そのさんが漣華さんをまた睨む。芒月は赤嶺のところに行きたいのか、丸めた前足でちょんちょんと漣華さんの横っ腹をつつくけど、相手にされなかった。


「頑張れセキレイ。そなたには素質がある」


 口の中で転がすみたいな囁き声で漣華さんが言った。近くにいるみんなにだけ、辛うじて聞こえる程度の声。その表情に、そのさんはもう何も言えなくなった。

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