第342話 3人目
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「ただいまー」
「「「「「「おかえりー!」」」」」」
帰ってきた青蕾に仔ドラゴン達が群がる。揉みくちゃになってる7色の団子から藍色が転がるように出てきた。
「ねえねえ、次あたしが行っていい?」
美影さんの脚に藍里が擦り寄る。
「いいわ。ねえイサナ?」
「ああ。気をつけて行ってこい」
勇啼さんに鼻で頭を撫でられた藍里がくすぐったそうに笑う。その隣に漣華さんの魔法陣が描かれると、藍里はひょいとくぐっていった。
「ランリはどこに行くんだ?」
「そなたらが狩りに行ったことのない場所じゃ。夏でも雪が解け残る、雲の如き高き峰よ」
赤嶺の質問に答えた漣華さんの言葉の通り、魔法陣に映る景色には厚い雪が光ってた。少し眩しい。そんなに高い標高なのに、数本の木が生えてる。どれも落葉して丸裸だけど。
「こんな場所にも木が生えるんですね」
〖違うわ。あれは山の精霊の仕業なの〗
ん? どういうことラタナさん?
〖あの山を守る精霊が、山頂にも緑がほしいって言って麓から何本も植え替えたのよ。だけど結局根づかなくてね。葉は落ちてしまったけど、気温の低さのせいで幹が凍りついて、まるで氷の樹みたいになっちゃったってわけ〗
「なんとまあ」
そりゃ寂しいね。根づけない場所に移された木も可哀想だけど、殺風景な場所に緑がほしいって気持ちはわかる。
魔法陣に映る藍里は空気中のにおいを嗅いでる。しばらくすると、何かを嗅ぎつけたのか雪を踏み締めながら歩き始めた。でっかい足跡だな。ちょっと前までは可愛いお手々だったのに、もう大人の足だ。成長って凄い。
雪は足音を消してくれるって言うけど、回りが静か過ぎると逆に聞こえやすいな。飛べば早いんじゃないかと思うんだけど、藍里は飛ばない。ゆっくり、周囲を警戒しながら歩いていく。
そうしてる内に、藍里は泉にたどり着いた。ここも凍ってる。凄い透明度だ。水底まではっきり見えるし、分厚い氷の底の凍ってない水中を泳ぐ小魚も確認できる。何を餌にしてるんだろう? てかよく生きてられるな。
興味津々って感じで藍里が泉を覗き込む。お前、余裕だね。なんてちょっとだけ呆れてたら、激しい音と一緒に積もってた雪が舞って、視界が真っ白になった。
「「んにゃああぁぁぁああああっ!!」」
「キャインキャイン?!」
「グルアヴヴヴヴッ!!」
「なんだあれは?!」
『✕✕△✕?!』
魔法陣を見つめてたニャルクさん達が飛び上がった。魔法陣に向かって身を乗り出す政臣さんの頭にそのさんが跳び移る。
「ちょいとレンゲ。ランリの相手はゾーラドラゴンじゃなかったのかい?」
怒った様子でそのさんが漣華さんを振り返る。ゾーラ……。確か、古代語で日暮れって意味だったよな。
「ゾーラドラゴンに違いない。まあ、今までとは毛色が違うがな」
ふん、と鼻を鳴らした漣華さんがそっぽを向く。仔ドラゴン達も美影さん達も、不安そうに魔法陣を凝視してる。
藍里は無事だった。空に飛んで難を逃れたらしい。舞い上がった雪が、そこだけ竜巻が起こってるみたいに巻き上がってる。何がいるんだ?
『クァーーーーウウウウーーーー』
枯れ木の間を抜けていくような、木枯らしみたいな音がした。鳴き声だ。雪の中に何かいる。
ザン、と不思議な音を立てて、雪が落ちる。白をかぶった藍色。翼はない。トカゲみたいな姿。リンドドレイクだ。
「何あいつ!」
「わかんない……」
「雪に潜ってたのか?」
「ランリ、大丈夫かな……」
緑織達も不安がってる。清ちゃん、いざって時は頼むよ?
(任せて。いつでもドデカイ雷撃てるからね?)
藍里は巻き込まないでね?
(そこまで狙い悪くないよ!)
そりゃ悪かった。
藍里の相手のゾーラドラゴンに飛ぶ術はない。一見有利に見えるけど、こんな場所で生き抜いてきた猛者だ。どんな魔法を使うかわからないんだから、よく観察しないと。
藍里よりも面長な顔を上げて、ゾーラドラゴンは瞬きをした。目尻から涙がこぼれ始める。キラキラした何かがゾーラドラゴンの回りを舞い始めた。目を凝らしてみると、それは鋭い雪の結晶だった。
ゾーラドラゴンが尻尾を左右に振る。生み出された雪の結晶が風に巻き上げられて、藍里に迫った。
藍里は藍色の炎を体にまとった。これで雪の結晶は解けてなくなるはず。と思ったけど、炎の鎧を貫いて藍里を襲った。
仔ドラゴンと言っても鱗は頑丈。なのに雪の結晶は藍里の鱗にさっくり傷をつけてしまった。
「にゃあああっ!! ランリに傷があああっ!!」
「レンゲさんレンゲさんレンゲさん! どうしたらいいんですかどうしたらぁぁぁ!!」
ニャルクさんとイニャトさんが漣華さんに駆け寄って前脚をポカポカ叩いてる。
「騒がしいわ馬鹿たれ共。キイナ達の方がよっぽど肝が据わっておるではないか」
されるがままの漣華さんがため息をついた。兄弟猫がバッと顔を上げる。
「何を言ってるんですか! きょうだいの危機に平然としていられるわけ、が?」
「遥か遠い地で家族が怪我を負っているというのに落ち着いていられるわけにゃかろう! のうセキレイ! ……セキレイ?」
仔ドラゴン達を振り返ったニャルクさん達が目を丸くする。
赤嶺達は静かだった。誰も何も言わずに、魔法陣に映る藍里を見つめてる。美影さんと勇啼さんは、藍里と一緒にそんな我が仔達を見守ってる。
藍里の鱗についた傷は浅かった。血が出るほどでも、肉が露出するほどでもない。藍里はゾーラドラゴンを睨みつけて大きく口を開けた。
ブレスが放たれる。ゾーラドラゴンも張り合うようにブレスを放った。だけど、藍里の方が太い。
拮抗し合うブレスが、少しずつ押し負け始める。ゾーラドラゴンのブレスが短くなる。雪に翼のないドラゴンの体がわずかに沈む。ゾーラドラゴンは、ブレスを切ると同時に雪に潜ろうとした。
急降下した藍里が、前脚でゾーラドラゴンの首と背中を掴んで急上昇する。ゾーラドラゴンは逃げられない。藍里はキョロキョロと辺りを見回して、あそこだ、と言わんばかりに飛んだ。
向かった先は、山の天辺。他の場所よりも雪が落ちて、黒い岩肌が剥き出しになってるところ。藍里は物凄いスピードで飛んで、その天辺にゾーラドラゴンを叩きつけた。
天辺が崩れる。標高が下がってしまった。ごきり、と嫌な音がする。
「折れた」
仔ドラゴン達の誰かが言った。
「折れたね」
「折れた折れた」
「折れちゃった」
口々に仔ドラゴン達が言う。うむ、と漣華さんが頷いた。
「見ての通りランリの勝ちじゃ。で? そなたら、まだ妾を叩くか?」
「……いいえ」
「すまんのう……」
しょんぼりしたニャルクさんとイニャトさんが、謝るように漣華さんの前脚を撫でた。その向こうで、政臣さんがホッと胸を撫で下ろしてるのが見える。
これで3人目。次で折り返しだ。まだ半分も残ってるんだし、信じようじゃないの。




