第340話 1人目
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「まずは誰が行く?」
美影さんが仔ドラゴン達を順番に見て聞けば、橙地が1歩前に出た。
「おいらが行く。いっつもセキレイが一番乗りだから、今回はおいらだ」
「別に抜け駆けしてるわけじゃないだろ?」
「ククシナ姉ちゃんの時は?」
「ごめんて」
清ちゃん巻き込んでついてきたもんね。ラタナさんに場所聞いてさ。
「レンゲ。ドラゴンはどの辺りにいますか?」
「山を1つ越えた先じゃ。近場じゃから自力で行くか?」
福丸さんの問いに答えた漣華さんが聞くと、橙地は頷いた。
「それくらいひとっ飛びだ! 行ってくる!」
そう返すや否や、橙地は空に飛び立っていった。
「気をつけてねー!」
「無理はするなよー!」
見送る緑織達に気づかれないように、肩にいる清ちゃんに声をかける。
「清ちゃん、ついていってくれる?」
「任せて」
ウインクした清ちゃんが、足音を立てずに森の中へ駆けていく。みんなから見えない場所で空に昇るんだね。そういえば、どうやって狩ってる仔らの様子を見るんだろう?
「漣華さん漣華さん、橙地の様子はどう確認するんですか?」
漣華さんと福丸さんの間に飛んでいって確認すれば、これじゃ、と目の前に魔法陣を描かれた。
「妾のユニークスキルの応用でな、遠くの景色を見ることができるんじゃ。妾だけならば目の中に発動させればいいだけじゃが、他の者にも見せるならばこのようにするんじゃよ」
「あら凄い」
何それ面白い。まるで中継テレビだな。……いつもタイミングよく動いてたのはそれでこっちを見てたからか。なるほど。
「ほれ、そなたらにもつくってやる。見てみるがいい」
勇啼さんと美影さんはもちろん、仔ドラゴン達やアースレイさんの目の前にも魔法陣が描かれる。シシュティさんなんか飛び跳ねちゃってるよ。異世界物でなかなか見ないからね、テレビって。
『凄い凄い! ダイチが飛んでるのが見えるよ! アース見えてる?!』
「見えてるから落ち着いてくれよ。恥ずかしいから」
「んにゃあ、レンゲ殿にこんにゃ特技があったとはのう。さすがじゃ」
「まるで目の前を飛んでるみたいですね。これにゃら何が起こるのかはっきり見えますよ」
ニャルクさん達もちょっと興奮してるみたい。私のいた世界ではテレビは普通にある家電だけど、こっちじゃ珍しいよね。
橙地はかなりのスピードで飛んでいって、ものの10分足らずで山の反対側に到着した。キョロキョロと辺りを見回して、ドラゴンの姿を探してる。そしてある一点を見据えると、そっちに向かってまた飛び始めた。
「見つけたんですかね?」
「どうでしょうねぇ?」
福丸さんが返事をくれる。漣華さんは魔法陣を凝視したままだ。
魔法陣に映る橙地は飛び続けてる。木陰に解けきれてない雪が残ってるのが見えた。その只中に、太陽を反射するオレンジがある。橙地と同じ色?
「おや、クォーラドラゴンですねぇ」
クォーラドラゴンって確か、橙地みたいなオレンジ色の鱗を持つドラゴンの呼び名だよな。同じ色同士で戦うのか?
橙地を見つけたクォーラドラゴンが咆哮を上げる。吼え返した橙地が体に炎をまとった。
地面から飛び立ったクォーラドラゴンが橙地と向き合う。相手の方が二回りは大きい。大丈夫か?
先手を打ったのは橙地だった。ブレスを放って、隙をつくってから横へと回る。尻尾を大きく振ると、体にまとってた炎が鞭みたいにしなった。
空をうねる炎の鞭がクォーラドラゴンに迫る。クォーラドラゴンはそれをちらりと見ただけで避けてしまったけど、橙地は諦めない。
炎の鞭を携えたまま、橙地はクォーラドラゴンを追いかける。クォーラドラゴンは反撃しようとしたのか振り返ったけど、橙地をじろりと睨むと背中を向けて逃げてしまった。
「あ! 逃げた!」
「なんだよ臆病者! ダイチと戦え!」
「グルルルル……」
仔ドラゴン達からブーイングが上がる。美影さんと勇啼さんが目配せした。
「あのドラゴン、ダイチの魔力の多さに感づいた。だから逃げた」
「仔どもとはいえ、容易く勝てる相手ではないと判断したのだろう。持久力が向こうの方が上ならば追いつけない」
不安がる美影さんを落ち着かせようと、勇啼さんが頬擦りする。その足元にはバウジオがいて、魔法陣に映る橙地とクォーラドラゴンを交互に見てる。
口を大きく開けた橙地が火球をつくった。だけど飛んでいかない。橙地は体を大きく仰け反らせると、炎をまとった尻尾で火球を強く叩きつけた。
物凄いスピードで火球が飛んでいく。その気配を感じ取ったのか、振り返ったクォーラドラゴンが目を丸くして、ブレスを繰り出した。
橙地の火球とクォーラドラゴンのブレスがぶつかった瞬間、爆発が起こった。ニャルクさん達が悲鳴を上げてる。魔法陣越しなのに。
白い煙が視界を塞ぐ。そこに身を隠した橙地がクォーラドラゴンの背後に回った。そのまま一気に距離を詰めて、太い首に噛みついた。
『ゴアアアアアアアアアッ!!』
怒り狂って吼えるクォーラドラゴンに噛みついたまま、橙地はその背中にしがみつく。振り落とされないように爪を食い込ませれば、クォーラドラゴンの鱗を深々とえぐった。
橙地の重さに堪え切れずに、クォーラドラゴンはふらふらと落ちていく。どんなにもがいても橙地は離れない。その表情にはもう仔どものあどけなさはなかった。
クォーラドラゴンの翼から完全に力が抜けたのを見た橙地が口を離す。オレンジの巨体は飛ぶことができない。橙地はもう一度、クォーラドラゴンに向けてブレスを放った。
背中にもろに受けたクォーラドラゴンが、なす術もなく落ちて、地面に叩きつけられる。そこに橙地のブレスが追い討ちをかけて、逃げられない。
クォーラドラゴンの咆哮がか細くなって、途切れ途切れになって、消えた。ピクリとも動かない巨体に橙地が乗る。クンクンとにおいを嗅いで、パッと笑顔になると、空に向かって大きく吼えた。
「勝った! ダイチが勝ったよ!」
「よし! まずは1体目だ!」
紫輝達が大喜びする。ふむ、と頷いた漣華さんが、橙地の近くとクォーラドラゴンの真下に魔法陣を描き上げた。
「ただいまー! おいら勝ったよー!」
「「「「「「おかえりー!」」」」」」
魔法陣に飛び込んで帰ってきた橙地に、わちゃわちゃときょうだい達が群がっていく。美影さん達もほっとしてる。危なげなく終われてよかった。てか、クォーラドラゴンどうするの?
「狩ったドラゴンは王都の解体屋に運ぶとしよう。向こうの方が設備は整っておるからのう」
漣華さんが教えてくれた。なるほど、移動用の魔法陣で運んでくれるのか。それは助かる。
「王都には伝えてるんですか?」
「いや? 何も言っておらんが」
「……今からでも伝えてもらっていいですか?」
「面倒じゃのう……」
めんどくさいなんて言わないでよ。いきなり作業場にドラゴンが降ってくる向こうの人達の気持ちも考えてあげてよ。




