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第332話 月光

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。


ようやく終われそうです(笑)

 無視されてたマラクが怒ったように吼えると、口の中に紋様が浮かび上がった。あれがレアスキル? 逃げねば。

 真横に避ければ、さっきまでいたところの空間がわずかに歪んだ。私に噛みつこうとしたギータが運悪くそこに入ってしまって、ぐいっと引っ張られる。重力なんか関係なしに、ギータはマラクの口に飛び込んでしまった。

 マラクがギータを喰らう。バキ、ボキ、と音が聞こえてきて、その目は私を睨んでる。次こそ喰ってやるって顔だな。やられてたまるか。

 弓を握り締めて、マラクのレアスキルの正面に行かないよう気をつけながら、同時に魔物達の攻撃も避ける。地面に立ったままの勇啼さんが、群れの中でも大きめのギータに狙いを定めてブレスを放った。

 仔ドラゴン達とは比べ物にならないくらい太いブレスが魔物を呑み込む。勇啼さんはそのまま頭を横に振って、近くにいた魔物達を焼き払った。焦げて落ちたのは大柄な個体だけ。普通のサイズと小柄な個体は消し炭にすらならなかったらしい。凄い威力。でもさぁ……。


「あああああ!! 駄目です駄目ですイサニャさん! 町の方に向けてブレスを使っちゃ駄目ですぅぅぅっ!!」

「む、すまん」

「……ねえ、今屋根が吹き飛ばにゃかった? あたくしの気のせいかしら?」

「んにゃ、儂も見たぞ。あの高さはたぶん教会じゃろうにゃあ。後で修理費と一緒にお布施を渡しに行こう」


 そういう問題じゃないんだよ。


「ゴアアアアァァァァグルルルルルゥゥゥッ!!」


 喰いかけのギータを吐き捨てたマラクが勇啼さんに向かって口を開けた。矢をつがえて棘が目立つ後頭部に射る。はじかれるかと思ったけど、意外に深々と刺さったみたいでうめき声が聞こえてきた。


「お前はこっちやって!」


 叫びながら次の矢を射ろうとしたら、マラクはブレス攻撃じゃなくて体当たりを仕かけてきた。まあ当たらないけどね。真横を通り抜ける瞬間にこめかみ辺りを蹴りつけて挑発してやれば、面白いぐらいに引っかかってくれた。


「グルアアアゥゥッ!」


 吼えた芒月が地面を蹴って高く跳んだ。飛んでるマラクに届いちゃったよ。口はやばいって本能で悟ってるのか、爪を立てて這い登って背中側に回った。ナイスだ芒月。

 バニガン町の明かりが増す。魔物が出たからみんな隠れてたんだろうけど、教会らしき建物が壊される音を聞いて出てきたのかな。すまんねうちの仔が。

 強い風の音が聞こえてきて、振り返ろうとしたら風圧に押されて流されてしまった。体勢を立て直して強風が吹いた方を見てみれば、勇啼さんが地面から飛び立ったところだった。


「狩りが長引くのは好きではない。終わらせてもらう」


 そう言った勇啼さんの鱗が1枚1枚輝き始めた。反射してるんじゃなくて、鱗そのものが光ってる。危険を察知したのか、吼えたマラクが勇啼さんにブレスを放ちかけて、芒月の大き過ぎる前足で鼻の頭をガリリと引っ掻かれてた。

 勇啼さんの姿が二重に見える。と、思ったら、2つにわかれた。勇啼さん本人と、勇啼さんよりも一回り大きい光でできた勇啼さん。分裂した?


「か、か、か、〈輝く影〉じゃと?!」

「凄い……」

「は、初めて見ましたわ……」


 イニャトさん達の驚く声が聞こえる。ちらっと見れば、アリソンさん達や冒険者達があんぐりと口を開けてた。

 みんなの反応からしてユニークスキルか。漣華さんの兄のシラドが使った〈置き去る影〉に似てるけど、あれとは違って勇啼さんの影は自分の意思で動いてるみたい。戦力が一気に2倍になった感じだ。

 光り輝く分身と一緒に、勇啼さんは魔物達を追い込んでいく。突然2人になった巨大なドラゴンに怯えるワイバーン達は逃げ惑うしかない。

 円を描くように飛ぶ勇啼さんと分身に、魔物達はその中心に追い込まれていく。オードさん達の近くに漣華さんの魔法陣が描かれた。そこからエルゲさんとアーガスさん、イヴァさんとライドさんが飛び出してくる。その瞬間、2本のブレスが夜空と大地を照らし出した。


「分身までブレスを使うんか……」


 これはびっくりだ。エルゲさん達の目も真ん丸になっちゃってるよ。

 魔物達が逃げ出さないように、勇啼さん達は飛び回りながらブレスを放ち続ける。そうしている内に、分身の光が弱くなり始めた。なるほど、体の光を使ってブレスを放ってるのか。

 弓を刀に変えて、芒月ともがき合ってるマラクの方へ飛ぶ。芒月が太い首に噛みつけば、鱗が割れる音がして大量の血が飛び散った。刀に魔力を込める。青緑の刀身が白く輝いて、長さを増した。


「芒月降りろ!」

「グルミャウ!」


 最後の一撃とばかりに、芒月はマラクの眉間を引っ掻いて飛び降りた。怒り狂ったマラクが追いかけようと下を向く。その背後に回って、2倍の長さになった刀を振りかざした。


「悪いなぁ」


 こいつも巻き込まれた側とはいえ、人里まで出てきたからには狩らねばね。

 焦げ臭い臭いが鼻をつく。夜を照らしてた光が消えた。勇啼さんは終わったらしい。こっちも終わらせよう。

 体を回転させながら刀を薙ぐ。マラクの唸り声がぷつりと消えた。

 激しい音と、土埃。芒月が勝利の咆哮を上げる。深々と息を吐いて見上げた夜空には、もう月が高いところで淡く光ってた。

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