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第329話 さすが猫

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。

 ドゥなんとかって店は少し奥まった通りにあった。中に数人お客さんがいるのが見える。冒険者が多いな。


「ちょっと待っててね? 店主にニャオさんが入っていいか聞いてくるから」

「すみません、お願いします」


 ミレーニャさんが古めかしい扉を開けると、カランカランと乾いた音が鳴った。うん、古風な感じが結構好き。


「ここは冒険者はもちろん、商人や貴族にも人気の店だそうですよ。ただ面白いことに、客足は途切れにゃいけど混み合うほどのお客は来にゃいそうです」

「何かしらの不思議にゃ力があるんじゃろうか? 儂らも恩恵にあやかりたいもんじゃのう……」


 イニャトさん、遠い目をしてらっしゃる。時々ペリアッド町で屋台を出して売ることがあるけど、行列必至だもんな。嬉しいけど凄く疲れる。


『○◎△□? □□□◎?』

「うむぅ。残念じゃが、王都で果実を売る予定はにゃいんじゃよ。さすがに手が回らんでのう」

「すみませんライドさん、ご期待に添えず……。ああ、ですが今回お世話ににゃったので、お礼にたくさん果実やジュースを贈りますよ。楽しみにしててくださいね?」

『◎○~♪』


 ライドさん、凄い喜びようだな。前にあげたやつ、もう食べ終えたのかね?

 ニャルクさん達がライドさんと、しれっと混ざってるオードさんから好きだった加工品や果実の種類を確認してるのを眺めてたら、ガランガランッ! って激しい音を立てて扉が開いた。


「ちょっ! 落ち着いて! 落ち着いてってば!」


 ミレーニャさんの慌てる声に、懐に入れてた“バンパイアシーフの短剣”を抜き取る。振り返り様に威嚇目的で切っ先を向けようと身構えて、やめた。


『◎○◎◎ー!!』

『○◎○○ー!!』


 飛び出してきたのは猫人の男女だった。三毛柄とアメショ柄。笑顔が可愛らしい2人組。


「ニャオさん避けて!?」

「ちょおおおおおおおおっ?!」


 ミレーニャさん、遅いっすわ言うのが。

 満面の笑顔で飛びついてくる男女に短剣を向けることなんかできなくて、急いで納めたはいいものの、そのせいで手間取ってしまって真っ正面からタックルを受けてしまった。

 人間よりも力が強い。しかもほとんど不意討ちだったからうまく脚に力が入らなくて踏ん張れなかった。で、転けた。


「にゃ、何事じゃあ……?」

「……お店の方、ですよね?」


 また雪雲が覆い始めた空を背負った兄弟猫が見下ろしてくる。こりゃ今晩は降るかな。じゃなくて。


「ミレーニャさん、この人達は?」

「ごめんにゃさいねぇ、止められにゃくって。男の方が店主で兄のニャトレイ、女の方が妹で副店長のコニャット。悪い人達じゃにゃいんだけど、猪みたいに止まらにゃい兄妹にゃの」


 うん、わかる。身をもって知ったばかりだから。

 体を起こせばニャトレイさんとコニャットさんが両側から頬擦りしてきた。たまにいるよね、フレンドリー過ぎる猫。この人達はまさにそれだ。


『✕△✕▽!』


 呆気に取られてたオードさんが一喝すると、猫人兄妹はビクリと毛を逆立てて立ち上がって、私から離れていった。コニャットさんはそのまま店内に逃げ帰って、ニャトレイさんはその店を守るみたいに扉の前に立ちはだかってる。


「あの、私は大丈夫です。ちょっと驚いただけなんで」


 元いた世界の、親戚の家の警戒心マックスな猫を思い出しちゃったよ。結局最後まで懐いてくれなかったな。まああの仔は保護猫だったし、飼い主にもよそよそしかったけども。


「ニャオよ、猫人や猫獣人というのは悪いことをしたら一度強く叱ってやらねばいかんのじゃよ」

「自由過ぎる種族ですからね」


 兄弟猫よ、あんた達が言う?


「ちょっと、クルスレイ兄妹。お店に入っていいの? 悪いの?」


 前足を組んだミレーニャさんが不機嫌そうに聞けば、ニャトレイさん達は首が取れそうな勢いでブンブンと縦に振ってくれた。受け入れてはくれるんだね。前の店と反応が違うだけなんだ。


「ふむ、それでは入ろう。早く選ばねば閉店の時間ににゃってしまうぞ」


 それもそうだね。日も暮れ始める時間帯だし、急いで選ぼう。

 扉を開けてくれるニャトレイさんに会釈をして店内に入れば、私を見た冒険者達がさっと避けた。そんなあからさまに避けなくてもいいじゃん。獲って喰ったりしないよ。こんな姿だけど理性は失くしてないんだからね?


「ほう、品揃えが豊富じゃのう」

「いろいろありますねぇ。お礼だけじゃにゃく、個人的にも何か選びたいですね」

「結構掘り出し物があるのよ? 閉店までじっくり選びにゃさいにゃ?」


 ミレーニャさんに言われて、ニャルクさん達はぽてぽてと陳列棚に歩いていった。

 さて、私も選びますかね。と思って店の奥に目をやると、キラリと何かが光った。

 翼をこれでもかと折り畳んで、商品にぶつからないよう気をつけながら奥まで行くと、鍵がかかったガラスケースの中の1つに目がとまった。

 私がすっぽり映るサイズの大きな姿見。縁の装飾も見事だし、こんな立派な鏡はこっちの世界じゃ見たことないな。しかもこれ、自立タイプじゃなくて壁かけだ。貴族が欲しがりそうな感じがするけど、誰も買わなかったのかな?


(それにするがいい)

「んぉ?」


 突然の念話に変な声が出た。真後ろにいたコニャットさんに不思議そうな顔をされる。なんでもないよーってにっこり笑って鏡に向き直った。


(その店にある、どのマジックアイテムよりも古い物じゃ。ちと特殊な鏡故、ウルスナも気に入るじゃろうて)


 漣華さん、特殊っていうとどんな効果があるんですか?


(記憶を見返すことができる鏡じゃよ。正式な名前もあるが、それを知る人間はとうにおらんじゃろうな。それほどに古い鏡なんじゃ)


 記憶ってことは……。ああ、アリシナさんと会えるってことですね?


(左様。あやつやククシナにとって、その鏡は宝石や金よりも価値があるじゃろう。買ってやるがいい)


 ありがとうございます。璃桜には何がいいか、助言いただけません?


(それこそ果実じゃ。海にはない甘味をくれてやれば舞い踊って喜ぶじゃろう)


 海溢れません?


(海はそれほど柔ではないわ)


 そっか。ありがとうございます。


「ニャルクさん、イニャトさん、これを……。……おう」


 買いますって言おうとしたら、兄弟猫はまたミレーニャさんに捕まってた。有名なデザイナーの古着が入荷されてたみたいで、それを試着しろって追い回されてる。全力で逃げながらも棚にぶつからないのはさすが猫だな。

 店内を見回せば、他にも興味がそそられるアイテムがたくさんある。あっちはまだ時間がかかりそうだし、コニャットさんに鏡がほしいって身振りで伝えて、私も時間を潰そうかな。

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