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余話第60話 曇天の下で

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。


今回から少し余話が続く予定です。

〖へえ、モモコは君と似た力を発現させたんだ〗

〖結晶化させるのに時間がかかるし、一度にたくさんはできないから完全に下位だけどね〗


 今にも雪を降らせそうな暗い曇天の下を、ククシナはクァーディーニアを連れ立って飛んでいく。その背後からは魔鳥が群れを成して追ってきているが、2人の精霊は気にも留めていない。ガン無視である。


〖もっとも、私は魔石や宝石に邪悪な魔力を込めてウルスナに渡してるけど、モモコは自分で結晶化させちゃうからその点ではあの仔の方が上ね〗

〖ふーん。ならこれから少しずつ練習させたらいいじゃないか。いい相棒になると思うよ〗

〖野良精霊の私の相棒が牛ぃ? ……悪くないわね。あの仔の背中、お昼寝するのに丁度いいのよ〗

〖どんな理由なのさ〗


 ふむぅ、と頷くククシナに、クァーディーニアはカラカラと笑った。ムッと顔をしかめたククシナは、顎に当てていた手を軽く払う仕草をする。その一瞬後に、背後の魔鳥の群れは1体残すことなく真っ二つに薙ぎ払われ、ぼとぼとと地面に落ちていった。


〖で? スィグ・ツァリドナは何を狩りに行ったんだい?〗


 魔物の雨に振り返ることもせず、クァーディーニアは問いかけた。


〖ニャオはトルエイとヤクママを狩りに行ったわ。どちらも水棲の魔物だからニャオ達が適任よ〗

〖そうとは言い切れないんじゃないかい? 仔ドラゴン達だって水中で戦えるんだろう?〗

〖そうね。ミオリが同行してるから、あの仔も戦うはずよ。モモコとソノはお留守番かしら〗


 トルエイとはエイに似た魔物で、ヤクママは巨大な蛇の魔物である。2体とも水中を縄張りとする為生半可な冒険者では挑むことすら難しいが、水神の加護を授かるニャオやレンゲ、その気を卵の時から間近に浴びて育った仔ドラゴン達にとっては陸の魔物と大差はない。

 今回の騒動の発端である魔術師が、なぜそのような魔物にもニャオの髪を植えつけることができたのか。それは、陸で使役した両生の魔物に植えつけさせたからである。

 魔術師の目的は単純なもので、町や村に魔物をけしかけて金品を奪い、他国への逃亡を目論んでいたのだ。その為の準備を整えている最中に、魔術師はニャオの髪を指で遊ばせる男、トリアドと出会ったのだった。

 黒い髪の束を見た瞬間、魔術師はそれが普通の髪ではないと察し、大金を積んでトリアドから買い取った。財産の3分の2ほどをつぎ込む結果となったが、計画を実行すればそれ以上の金を得られるのは明白だったので、魔術師は出し惜しみはしなかった。

 全ては順調に進んでいたのだが、最終的には魔術師は死ぬことになる。あと1体、手駒となる魔物を用意すれば実行できる、という時になって、何かに追われるように現れた魔物、サイクロプスに踏み潰されたのだ。

 魔術師の術は完成されなかった。しかし、ほとんど完成していたことが禍し、半端な形で発動してしまい、魔物達は暴走してしまったのだ。


〖まあ、その班にはレンゲもいるから大丈夫だろうね。他のみんなは?〗

〖大体4、5人で組んでるわ。フクマルとマサオミは違う班だし、ミカゲはイサナと一緒だから相性もいいはず。その班にはノヅキもいるから、端から見たらその班だけ異様でしょうね〗

〖ドラゴンの番とネメアン・ライオンだもんね。普通は近づかないよ。……あ、いたよ〗


 会話を句切り、クァーディーニアはククシナの顔の横に移動して正面を指差した。

 先ほどとは違う魔鳥の群れ。その中に1体だけ毛色の違うモノがいる。

 一見すると人間であるそれの両腕は翼となっており、鉤爪は鋭い。魔鳥達の間を縫うように飛んだかと思えば、ぶつかりそうになった魔鳥に奇声を上げながら飛びかかり、首に喰らいついて両目を潰してしまった。

 絶叫する魔鳥を蹴りつけたそれは、何事もなかったかのように再び飛び始めた。難を逃れた魔鳥達は、落ちていく仲間を見送るだけで、助けには行かない。否、行けないのだ。


〖横暴なハーピィだね〗

〖元から喧嘩っ早い種ではあるけど、あの乱暴さはやっぱり魔術師が原因でしょうね〗


 ため息をついて、ククシナは両手を胸の前にかざし、円を作った。

 小さな魔法陣が描き上げられ、小指の爪ほどの水球が生まれる。ククシナの指にはじかれたそれは、真っ直ぐハーピィの方へ飛んでいき、耳をくすぐるようにはじけた。


「キィィイイイィィィィィッ!!」


 怒り狂ったハーピィの奇声を浴びた数体の魔鳥が落ちていく。残っているのは強い個体だけ。その内の2体がククシナ達に迫り、攻撃を仕かけて来たが、ククシナの片手の一振により生まれた水の輪に体を捕らえられる。もがき逃げようとする魔鳥を見て、クァーディーニアは首を傾げた。


〖あの魔鳥、群れ意識が強くて仲間の危機には駆けつけるのが普通だけど、今は怯えてるみたいだね〗

〖いつもとは違うハーピィの様子が怖いみたいね。本来なら近づかない限りは襲ってこない、比較的大人しい魔鳥なのに……〗


 向かってきたからには容赦はしない。しかし、できることなら戦闘は避けたい。ククシナは新しい魔法陣を描き上げると、そこから何本もの水の矢を放った。

 矢に射貫かれた魔鳥達は死ななかった。射貫いたままだった矢が形を変えて、縄のようになり、魔鳥の体を縛り上げる。矢から逃れたハーピィは、手駒を失ったことを悟り悔しそうに頭を搔きむしった。


「ギィイイィィィイイルルルルゥッ!!」


 鋭い牙を剥き出しにして迫ってくるハーピィに、ククシナは再び矢を放った。易々と躱したハーピィがにやりと笑う。が、その笑みは硬直した。


〖小さいからって侮らないでよね〗


 ハーピィの死角に潜っていたクァーディーニアが、針のような剣をうなじに突き刺した。ガタガタとハーピィの体が震え始める。目から、口から、鼻から、耳から血を噴き出したハーピィは、断末魔を上げることすらできず、自身が殺した魔鳥のように、地面に落ちていった。


〖何をしたの? てっきり風で首を斬り落とすかと思ったのに〗

〖なぁに、体の中でつむじ風を起こしてやっただけさ。ほら、これがいるんだろう?〗


 恐怖でしかなかったハーピィから解放され、逃げていく魔鳥達に手を振ったクァーディーニアが、もう片方の手に握っていた物をククシナに差し出した。ニャオの髪である。


〖そうよこれよ。モモコにあげるわ〗

〖君が魔石か宝石に魔力を込めればいいのに〗

〖そういうわけにもいかないのよ。だって異世界の水神様の気が混ざってるんだもの。下手に当たれば精霊の私に何かしらの形で返ってきちゃう〗

〖祝福はあげたのに?〗

〖それとこれとは違うのよ〗


 ふん、とそっぽを向いたククシナは、懐から取り出した麻袋にニャオの髪をしまった。


〖それじゃ、次へ行きましょう〗

〖そうだね。そいつを狩ったらスィグ・ツァリドナと合流しよう〗


 そう言って、クァーディーニアはククシナの肩に座った。


〖私を乗り物にするなんてあなたぐらいだわ〗

〖いいじゃないか〗


 全くもう、と返すククシナは微笑んでいた。

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