第305話 蜜より蜂蜜
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ようやく一区切りつきました。次からどうしよう……。
〖それで、あなたが考えた必要最低限が私とソノもフクマルってわけね?〗
その通りです。
「レンゲの奴は気づいてそうだけどねぇ。あとマサオミも」
「マサオミさんはエルフの中でも群を抜いてますからねぇ。まあ、さすがに水神様が隠した物には気づけなかったようですけど」
「地図に描かれてたバレンドの黄樹は見えてなかったみたいですけど、マジックバッグにしまった枝からは何かしら感じ取ったっぽいですよ? ダンジョンから出た後ガン見されたんで」
クエシュ属とダンジョンを出てすぐ、漣華さんに魔法陣に放り込まれて一足先に森に戻ってきた。今いる場所は福丸さんの寝床。赤嶺達はパパドラゴンの勇啼さんのご飯を狩りに行ってて、当の勇啼さんと美影さんは自分達の寝床でうたた寝中。シシュティさんとニャルクさんは新しい依頼を受けて一緒に行ってるらしい。忙しいこって。
「アースレイさん達置いてきちゃったし、エルゲさん達にもろくに挨拶できなかったからなぁ。悪いことしてしまった……」
〖レンゲが無理矢理帰したんでしょう? だったら気にすることないわ。レンゲのせいなんだから〗
「そうさ。全部あいつが悪い」
「ミクマリノカミ様が描かれた階層地図もイニャトさんに預けることができたんでしょう? だったら気に病むことはありません。有無を言わさず帰したレンゲに非があります」
うーん、酷い言われよう。
「ほら、そろそろ蜜が溜まってきたよ。ニャオ、受け皿で採っておくれ」
「お、もうですか?」
地面に置いた木のコップに生けたバレンドの枝にはたくさんの花が咲いてる。福丸さんの血を吸わせて、そのさんが魔力を注いで咲かせた花の中央が潤ってる。これが蜜か。
「バレンドの黄樹の蜜って美味しいんですか?」
福丸さんは苦手って言ってたけど、実際の味はどんなのだろう? もちろん栽培はしない。でも聞くだけなら問題ないよね?
「何言ってんだい、食べちゃいけないよ。多少なりとも毒があるんだからね」
「え? 毒?」
〖ニャオ、ソノのユニークスキルは〈転じる毒〉。毒を別の効果のある何かへと変えるスキルなのよ? わかる?〗
そういやそうだったな。
「つまり、バレンドの黄樹の毒をいじって、福丸さんの薬に変えるってことですかね?」
「そのつもりで話してたんだけどねぇ」
「すみません、聞いてなかったわけじゃもちろんないんですけど、そこまで考えてなかったです」
「まあいいよ。ユニークスキルってのは独特なものが多い。あたしもこれだけ生きてきたけど、その全部を知れることなんてこの先もないだろうしね」
仕上げとばかりに、そのさんは受け皿に掬ったバレンドの蜜に魔力を少しだけ注いだ。ほんのり黄色い蜜が淡く光る。その様子を見守ってたククシナさんは、光が収まるのを待って受け皿を持つと、予め用意してた果肉たっぷりの林檎ジュースに蜜を残らず垂らした。
〖ほら、飲みなさいな。ニャオ達が頑張って行ってきてくれたんだから、飲まないなんて言わないわよね?〗
「もちろん飲みますとも。ええ、それはもうゴクゴクと」
「せめてコップを持ってから言いなよ……」
そのさんが呆れた顔で言った。つーか福丸さん、味が苦手ってことは毒の魔樹を味見したってことだよね? 腹壊さなかったのかな。
〖早く飲みなさい。アースレイ達が帰ってきたらどうするの? 片づける時間もいるんだから〗
「聞こえはいいけど、とどのつまり証拠隠滅だね」
〖言い直さなくてよろしい〗
アースレイさん達はもちろん、シシュティさん達もそろそろ帰ってくるんじゃない? 鼻がいい人達ばっかりだから、匂いでばれないようにしないといけないから急ぎたいな。
ククシナさんに無理矢理コップを持たされた福丸さんが、中の液体をじっとり睨みつけてる。仔どもか。
「福丸さん。苦手なのはわかりますけど、お早めにお願いします」
「おや、なぜ苦手だとご存知で?」
「ダンジョンに出発する時に聞こえちゃいました」
正直に言えば、そのさんとククシナさんがぶふっ! って吹き出した。逆に、福丸さんは申し訳なさそうに項垂れる。
「すみません。食べられないことはないんですが、どうにも苦手で……」
「……毒なんで普段は食べないでください」
今回みたいな時だけだよ食べていいのは。
結局福丸さんは10分ぐらいもだもだしてからようやく飲んでくれた。その間に口直しの林檎を大量に用意したり、擦り林檎をたくさん作ったりして大変だった。
「ちゃんと飲み干したね。偉いよフクマル」
〖ほら、蒼い林檎も採ってきたわ。皮剥く?〗
「そのままください……」
苦い薬を飲んだ子を褒める大人みたいになってらっしゃる。気持ちはわかるけど。
「福丸さん、こっちのジュースもどうぞ。コーカルゥセイボウの蜂蜜入りですよ」
「ああ、そっちを先にください。どうにもバレンドの蜜が口の中に残ってる気がしてならないんです」
「歯の隙間にでも張りついてるんですかね……?」
嫌いな味っていつまでも残るよね。わかるわかる。
〖あら、シシュティ達が戻ってきたみたいよ? お出迎えに行く?〗
「あ、行きたいです。ニャルクさんも帰ってくるんですよね?」
「ノヅキもいるよ。コウメのとこから早めに帰ったらしくて、ニャルク達と魔物狩りに出かけてるんだ」
あら芒月ちゃん、ニャルクさん達と一緒なのね。何を狩りに行ってるんだろう。
「それじゃあお出迎えに行ってきます。福丸さん、しばらくは安静にしててくださいね?」
「ええ、わかりました」
シャリシャリと音を立てて、福丸さんは林檎をどんどん平らげていく。こりゃ追加も用意した方がよさそうだな。
その後、お出迎えに行ったら帰ってきたシシュティさんに抱きつかれて動けなくなった。まだ早い時間だから収穫作業に行きたかったのに、全然離してくれなかった。
ニャルクさんに、お疲れでしょうから休んでてくださいって言われてしょうがなく休憩を取ることにした。ゴロゴロ喉を鳴らしながら、体当たりの勢いで頬擦りしてくる芒月に潰されそうになりつつ河原に移動して、腰を下ろす。
福丸さんの体の毒も、もう心配ない。イニャトさん達が帰ってきたら、福丸さん自身の回復力のおかげで自然に治癒したって伝えるよう口裏を合わせてある。
すんなり信じてくれるかはわからないけど、バレンドの黄樹の枝もククシナさんが遠くに埋めに行ってくれるって言ってたし、まあなんとかなるでしょ。




