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第290話 自己防衛

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「そこそこの数おったな」


 足元に散らばる野良精霊達の骸を見下ろして言えば、清ちゃんは川から上がったばかりのバウジオみたいに体をブルブルと振るわせた。


「なあ清ちゃん、野良精霊って言いよったけど、倒してよかったんかな?」

「うん、大丈夫だよ。精霊って言ってもこいつらは本体から分離した分身みたいなものだから」


 分身? え、本体がいるの?


「どこに本体がおるん?」

「あそこだよ」


 清ちゃんが鼻で示したのはバレンドの黄樹だった。近づいて幹を見上げてみると、太めの枝の上にさっきは気づかなかったうろを見つけた。


「あそこに本体がいるの。あいつらが出てきたのは自己防衛の為なんだ」


 のしのしと清ちゃんが歩いてきて、私の隣に立った。


「野良精霊って、ククシナさんとは違うんか?」

「うん。この世界の精霊って神様に仕えてるけど、野良は仕えてないでしょ? ククシナみたいに強い精霊なら問題ないけど、そうじゃない精霊は精霊としての意識とか諸々を失くしちゃうんだ。意味合いはちょっと違うけど、天使が堕天するみたいに魔物とか悪魔に近い存在になるんだよ。ククシナが別格なだけでさ」


 そうなのか。


「で、あの精霊はまさにそれ。自分の意思で神様から離れたのか、神様の方から突き放されたのかはわからないけど、魔物化して精霊じゃなくなっちゃったんだ。でもたぶん、最後の意識を振り絞ってこのダンジョンに潜ったんだね。守ってきた人間や動物達に危害を加えないように、傷つけないように」


 なるほど。なんか切ないね。


「で、清ちゃんはなんでそんなに詳しいん? 漣華さんか誰かに習ったん?」


 私もそんなこと知らないよ? どこで知ったの?


「漣華じゃないよ。ほら、ぼくが喋れるようになった時、王都の資料にある情報を全部取り込んだでしょう? あの時野良精霊についてかなり詳しく書いてある資料があったから知ってただけだよ」


 そっか、あの時か。こういう風に役立つとは思わなかったよ。


「それで、この野良精霊は放っといていいんかな?」

「むしろ弄らない方がいいよ。あの野良精霊は眠ってる状態だけど、無意識のままで分身を出して近づく奴らを追い払うだけの力はあるみたいだからね。触らぬ神に祟りなしだよ」


 言い切られてしまった。なんとかしたいけど、これがこっちの世界の摂理なら手を出すべきじゃないんだろうな。


「仕方ない。黄樹は諦めて他の方法を探そう」

「水神さんにも頼れなかったのに?」


 福丸さんの体調不良が判明してすぐに水神さんに治してほしいってお願いしたけど、なんの反応もなかった。治さないんじゃなくて、自分達で解決できる問題だって言われてるような気がして方法を探してる最中にミレーニャさんが階層地図を持ってきてくれたんだよね。


「絶対に解決策は見つかるっちゃ。意地悪であんなことをする御方やない。そうやろ?」

「もちろんだよ。でも黄樹の話を聞いた時、それだ! っておもったんだけどなぁ……」


 それは私だってそうだよ。


「気持ちの切り替えは大事で? ほら、次の階に行こう。行方不明のパーティー捜しが残っとるんやけぇな?」

「……わかった。その階まで行ったらぼくは空から先に見に行ってみるよ。ニャオも来る?」

「加護持ちのうちらが一緒に行ったら片方が手薄になる。今はイニャトさん達を漣華さんが見てくれとるし、タイミング的に仕方がなかったけど、二手に別れる時はそれぞれについていった方がいいと思うけぇ、私は残るわ。清ちゃんには他の誰かについていってもらおう」


 水神さんが描いてくれた階層地図には、ここ以降の階には大型の魔物の名前もちらほら記されてあった。相手のランクがどうであれ、単独行動は控えないと。


「じゃあ橙地達の誰かを誘ってみるね」

「そうしちょくれ」


 ふわりと浮いて階段に向かった清ちゃんの後を歩きながら、バレンドの黄樹を振り返った。足元に落ちてた野良精霊の分身はとっくに消えてる。刀の切っ先をちょいと使って、髪を1房斬り取った。

 近くに生えてた蔓植物の葉っぱを千切って、髪を置く。なんとなくだけど、自然と手が動いた。


「ニャオー、どうしたのー?」

「今行くー」


 階段の前で、私がついてきてないことに気づいた清ちゃんに呼ばれた。黄樹に背を向けて小走りする。

 カサッ、って木の葉が揺れる音が聞こえたけど、聞こえなかったふりをして、階段を駆け下りた。

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