第286話 予想外
ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、誤字報告ありがとうございます。
昨日はたくさんの誤字報告をいただきました。投稿前には確認をしてはいるのですが、自分で書いた文章のせいかなかなか見つけられず、ご迷惑おかけします。
皆さんのおかげで訂正できて嬉しいやら、お手数おかけして申し訳ないやら……(´-ω-`;)ゞ 本当に助かります。ありがとうございます。
2、3、4階も同じような階層が続いて、出てくる魔物のサイズもせいぜい黄菜達が小さい頃に狩ってた牛ぐらいしかいなかった。時々ロアナって名前の二足歩行の牛みたいな魔物が出たけど、そいつの落とす素材は結構使い道があるらしくてアースレイさんと政臣さんが積極的に狩りにいってた。手伝うって言ったのに、いざって時の為に控えといてなんて言われたら前には出られないよね。おかげでまだ獅子獣人の姿になってすらないよ。
「ニャオさん、次の階層から景色が変わるわ。気温は下がるけど、大きにゃ川沿いを上るようににゃるから水棲の魔物に気をつけにゃいと」
「何が出るの?」
教えてくれたミレーニャさんに、清ちゃんが尋ねる。水のステージなら私達にとってはなんてことないけど、情報はほしいな。このダンジョンならいきなりワニのグスターブなんてのは出てこないだろうけど。
「えっと……、サハギンとケルピー、それとフーアね」
「あー……。大丈夫そうです」
漣華さん達に出会うきっかけになった隠れダンジョンにもフーアっていたよな。ここでも命を落とした冒険者が少なからずいるのか、そもそもダンジョンがつくり出した魔物なのか。まあ、あの時と違ってたくさん仲間がいるし、そこまでの驚異にはなりえないよね。
『ニャオ君、ロアナは狩り尽くしたよ。周辺を見てみたけど誰もいない。次へ行こう』
「お疲れ様です政臣さん。次の階層は水辺らしいですよ」
『それなら問題ないね。君がいるから』
おっと、私口説かれてる?
「そうだね。ダイチ達も泳げるし、苦労はしないね」
「儂は嫌じゃあ……」
あ、イニャトさんが萎れた。水に濡れるの嫌いだもんね。
「バウジオ、イニャトさんを乗せてもらえる? 濡れんで済むように」
「ばっほい!」
イニャトさん、行かないって選択肢はないんだよ。
▷▷▷▷▷▷
川の幅は福丸さんの森にある川よりも狭かった。対岸にちらちらと見える植物にイニャトさんが興味津々で困る。
「のうキイニャや、ちと儂を乗せてはくれんかのう? 向こう側を見てみたいんじゃが」
「いいよー」
そう会話するや否や、イニャトさんはバウジオから黄菜に跳び移った。未だに肩に乗ってる清ちゃんに声をかける。
「清ちゃんもついてってくれる?」
「うん、わかった」
階層地図を見る限り、対岸には目ぼしい物は何もない。わざわざ危険を冒してまで渡る理由がないからパーティーを捜しに行く必要はないんだけど、イニャトさんの植物への好奇心は止められない。
「向こう側の気配を探れればいいんですけどねぇ……」
イニャトさんと清ちゃんを乗せて小さくなっていく黄菜を見送りながら言えば、アースレイさんに首を振られた。
「仕方がないよ。探知系の力はダンジョンの中だと効果が弱まるからね。どんな種族でも例外じゃない。マサオミさんだって使えないぐらいなんだから」
アースレイさんのセリフに政臣さんは苦笑した。
「あ、責めてるわけじゃないからね? 気を悪くしたならごめんよ?」
『いやいや、気にしてなどいないさ。ただ、これほどに浅いダンジョンですら気配を探れないとは思わなかったからね。少し驚いているよ』
ダンジョンは謂わば自然から分離して生まれた特大の魔物。その腹の中にいるんだから使える魔法にはいくつもの制限があるって、出発前にそのさんが教えてくれた。自分の魔力を燃やす火魔法とかなら大丈夫らしいけど、自然から力を借りる水魔法とか土魔法は、それなりに魔力を持ってないとダンジョン相手に力負けしてまともに操れないんだとか。水神さんから加護をもらってる私とは力の系統が違うから関係ないけど。
「なあ、次の階層に下りる階段はどこだ?」
「ここもつまんない。次に行こうよー」
早急に飽きてきてる橙地と緑織がせがんできた。気持ちはわかるけど、袴を上に引っ張るのはやめなさい。生脚が晒されるでしょうが。ミレーニャさんに笑われたじゃん。
「もうちょっと川沿いを上っていけば着くわ。だから」
「んにゃあああああああああっ!!」
突然の悲鳴に全員で対岸を振り返った。びっくりした顔の黄菜と清ちゃんがこっちに向かって飛んでくる。黄菜にしがみついてるイニャトさんは必死の形相だ。
「え、何事?」
「わからないけど、なんか音が……」
対岸に生える木々がミシミシと音を立ててるのが聞こえてくる。清ちゃん達が川を半分渡った辺りで、音の主が姿を現した。
「グスターブ?!」
「グルルルル! ばっふばっふ!!」
巨大なワニを見てアースレイさんが叫んだ。バウジオも吠える。いらんフラグを回収してしまった。
懐にしまってた“バンパイアシーフの短剣”を抜いて、魔力を流し込む。獅子獣人に姿を変えて、2枚の扇を構えた。
清ちゃん達が私達の背後に隠れる。川を泳いでついてきてるグスターブが川面から頭を出したところで、右の扇を横に薙いだ。
三日月型の光の刃がまっすぐ飛んでいく。避けられなかったグスターブの首がさっくり斬れて、血飛沫が噴き上がった。
「しょわねぇか?」
「うん、大丈夫……」
「びっくりして逃げてきちゃった……」
怖がってはないけど、心底驚いたんだね。そういうこともあるって。
「にゃんであんにゃのが出るのよ? 《トラーシャの雫》にはグスターブが出た記録はにゃいわよ?」
「わからんよぉミレーニャ殿……。儂、尻尾ついとるか? 喰い千切られてにゃいか?」
「ちゃんとくっついてるわよ!」
「くぅ~ん」
黄菜から降りてへたり込んでるイニャトさんの頬をバウジオが舐めた。その向こうでは険しい表情のアースレイさんと政臣さんが話してる。
2枚の扇を閉じて、対岸に目を向ける。変化するダンジョンもあるって聞いたけど、ここもそうなのか?
「対岸を調べましょう。前までとどこが違うのか、パーティーがいないか」
そう言えば、みんな頷いてくれた。Cランクのパーティーならグスターブが相手だと苦戦するかもしれない。下手をすれば喰われてるかも。考えたくはないけど、もしそうだったら遺留品ぐらいは持って帰りたい。
水神さんにお願いして、川面に道を作ってからみんなで渡る。どんな魔物が潜んでるかわからない。充分気をつけないと。




