第279話 団欒
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ようやく一区切りつきました。次からも頑張ります。
「どうして起こしてくれなかったんだよ。僕も行きたかった」
『無理言わないで。あたしだって目が覚めたら王都だったんだよ? 何が起こったのかわからなかったんだから』
珍しくむくれてるアースレイさんに詰め寄られて、さすがのシシュティさんもたじたじだ。
「クルルル? クルルルルル?」
「ママー、この人がパパなのー?」
「そう。虹のパパ」
「真っ白だね」
「パパ、はじめまして!」
「ねえパパ、一緒に狩りに行こうよ!」
「駄目だよセキレイ、パパ翼のとこ怪我してる」
「治ってからじゃないと飛べないぞ?」
こっちはこっちで騒がしい。美影さんの旦那さん、仔ドラゴン達の元気のよさに驚いてるよ。
「あにゃた達、これから町へ行くわよ町へ。上着1枚しか羽織ってにゃいにゃんて信じらんにゃい。服を買い足しに行くわよ」
「ぅにゃあぁぁぁ~、儂らはこれでいいんじゃよぉ……、ミレーニャ殿、放っておいてはもらえんかのう?」
「いいわけにゃいでしょう! ケット・シーだってお洒落を楽しむ時代にゃのよ? 最寄りはペリアッド町だったかしら? そこにいいのがにゃければ違う町へ行くわ。あたくしが直々に似合う服を選んであげる」
「ほんの数ヶ月前までは着てすらいにゃかったのに……」
「ぬぁっ?! 馬鹿ニャルク!」
「にゃんですって?!」
……ミレーニャさん、すっかり馴染んじゃってるよ。マイペースなイニャトさんも圧されてら。それにしてもミレーニャさん、お説教してる間も林檎を小さくカットする前足が止まらないのは見事です。
「ばっふばっふ」
「モォ~~~~」
「お、バウジオに百子。賑やかになったなぁ」
お腹に擦り寄ってきたバウジオの頭を撫でて、袖を噛んできた百子の角をなぞる。百子や、あんたどこまで大きくなる気? 女の仔にしちゃ角も立派になっちゃって。
〖ねえミレーニャ、王都に戻らなくていいの? 繋げてあげるわよ?〗
ふわふわと近づいてきたククシナさんに、ミレーニャさんの肩がびくつく。ピャッと逃げたミレーニャさんは、バウジオの腹の下に逃げ込んだ。
「あ、ああ、あの、いいいいきにゃり真後ろに出てくるのはやめていただけません? ここここの人達と違ってあたくしはあにゃたに慣れてにゃいの! ……いやいやいや、攻撃されるとか酷い目に遭わされるとかこれっぽっちも思ってにゃいけどびっくりしちゃうの!」
〖わかってるわ。ごめんね驚かせて。次からは正面から声をかけるわね〗
ミレーニャさんの驚きっぷりにククシナさん笑っちゃってるよ。まあ私でも笑うけど。
〖それで、どうするの? 仕事をしてるならそろそろ帰った方がいいんじゃない? 準備もあるだろうし〗
「それはそうだけど……。ねえニャルクさん、そこにある“伝書小箱”って使わせてもらってもいいかしら?」
「構わにゃいですけど、王都に直接送ることはできませんよ? ペリアッド町の“伝書箱”にしか送れません」
「王都に送るにはどうしたらいいかしら?」
「転送してほしいと儂が一筆添えてやろう。料金は後日払うと書き足せばよかろうて」
ふふん、と胸を張ったイニャトさんを、ミレーニャさんはじろりと睨みつけた。
「後日? 違うでしょう? これからよこれから。手紙だけ先に転送してもらってすぐに払いに行けばいいわ。服を見に行くんだから問題にゃいでしょう?」
「忘れておらんかったか……」
「そこまで呆けちゃにゃいわよ」
バウジオの腹から出たミレーニャさんが、イニャトさんの鼻をつつく。ふにゃって鳴いたイニャトさんが私の背中に隠れた。
「ニャオさん、あにゃたは人間でしょう? この兄弟に服の指南ぐらいしにゃさいよ。今時裸にゃんて信じられにゃいわ」
そんなこと言われましても。
「服を着る着ないは本人の自由ですからね。まあ最初にケット・シー用の服を見た時はかなり興奮しちゃいましたけど。それより、早く手紙書きましょう? はい、紙と書く物」
「全くもう……。ありがとう、使わせてもらうわ」
納得してない顔のまま、ミレーニャさんはさらさらと手紙を書いて、半分に折ってイニャトさんに手渡した。受け取ったイニャトさんは、折り畳まれた手紙の外側にギルマス宛てのメッセージを1文書き足す。そしてそのままぽてぽてと歩いていって、“伝書小箱”にカタンと投函した。
「ほれ、これでよかろう。……のうニャオや、昼には戻ってくるから、町へ出てもいいかのう?」
「もちろんですよ。収穫は任せてください」
イニャトさん、諦めた顔しちゃってるよ。そうだね、ちゃっちゃと服の1枚や2枚買っちゃって満足してもらった方が早いもんね。抵抗してたら余計長引くもんなぁ。
「よし、そうと決まれば早速出かける準備じゃ! ニャルク、マジックリュックには必要にゃ物は入っとるか?」
「ええー……、本当に行くんですか……? コホン、大抵の物は入ってますよ。早く行きましょう」
「待て。まだ町の店が開くには早過ぎる。もう少ししてから出発せにゃあのう」
「え? 町まで距離があるんでしょう? 移動する時間を考えたらもえ出発した方が……」
〖私が魔法陣で門まで繋げるから心配ないわ〗
「……ありがとう、ククシニャさん」
そうだね、漣華さんはまだ帰ってきてないし、福丸さんはうたた寝してる。ククシナさんにお願いするしかないね。仔ドラゴン達はパパに夢中だし、芒月と清ちゃんは狩りに出かけたから、今日は町へは行かないだろうしね。そういや政臣さんもまだ起きてこないな。珍しい。
「おや、見ない顔がいるね」
「あ、そのさん、今朝戻りました」
「うん、おかえり。無事で何よりだよ」
頭上の枝を伝って這ってきたそのさんが肩に飛び降りてくる。チロチロと舌を出して、不思議そうな顔をした。
「あんたからシラドの魔力を感じるんだけど、何かあったのかい?」
「ああ、実はですね」
そのさんに事情を話すと、目を真ん丸に見開かれた後、けらけらと笑われた。
「そうかいそうかい、シラドの能力を手に入れたのかい。しかもノヅキの父さんの能力を上書きせずに済んだとくれば、これ以上の結果はないね」
「もっと練習しないとですけどね」
あの時は勢いだけで乗り切った感が強いからなぁ。使いこなせるようになっとかないと。
“伝書小箱”から、カサッと軽い音がした。返事が来たかな? 午前休みたいな制度があればいいけど。




