第277話 毬
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「事情はわかった。それで、このデカブツをどうするつもりじゃ?」
「そこまで考えてなかったです」
「正直者じゃな」
それほどでも。
漣華さんが合流する頃には空が白み始めてた。美影さんもいるし、あの白い大きなドラゴンもいる。人間の私でもわかる。このドラゴンイケメンだ。
「このまま放っておいてもよいが、それはそなたらが困るじゃろう?」
漣華さんが声をかけたのはガレンさんだった。離れたところから首を縦に振ってる。デカブツことシラドはまだ目覚めない。
ククシナさんが王都に張った結界はとっくに解かれてる。こっちに来てるのは騎士団員がメインで、隊に所属してる人達は野次馬が近づかないように抑えてくれてる。その中にはアーガスさんの姿も見えるし、私達に混ざりたそうな顔のイヴァさんもいた。
「仕方がない。どこぞの谷にでも捨て置くか」
「いいんですか? そんな扱いで」
「それで死ぬならば、それがこやつの運命よ」
そんなもんかね。
漣華さんが地面に大きな魔法陣を描いていく。もう少しでシラドを通せるサイズになるってところで、漣華さんは魔法陣を描くのをやめた。
「漣華、どうしたの?」
清ちゃんが聞けば、ふむ、と漣華さんは首を傾げた。
「この光の膜、初めて見るのう。ニャオよ、どうやってつくった?」
どうやって、と言われましても。
「こうしよう、ああしようって考えてやったんじゃないんです。直感で動いたというかなんというか……」
「そうか。そなたは魔力そのものは少ないが、魔法を使う才能はあるようじゃな。実に惜しい」
「ニャオさん、魔法使えたらよかったのに」
そうだね美影さん。でも私は今のままでいいかな。
「そなたが魔法をまともに使えたのであれば、妾がじきじきに鍛えてやったというのに」
「いやぁ、遠慮しますわ」
絶対スパルタやん。
「クルルルル……」
「ぅお、びっくりした……」
苦笑いしてたら白いドラゴンが鼻先で頭の天辺をつついてきた。穏やかな目をしてる。
「食べちゃ駄目。ニャオさん、私達の家族」
「クルル?」
「そう。人間だけど家族。他にも家族たくさん。食べちゃ駄目」
言いながら、美影さんと白いドラゴンは頬擦りし合ってる。可愛いな。
「美影さん、そのドラゴンってもしかして……」
「私の番。虹の父親。やっと会えた」
「旦那さんかー」
そういや聞いたことなかったもんな。会えてよかったねぇ。
「レンゲ姉さん、フクマルさんに聞いてくれた。森に連れて帰っていいって。虹、初めて父親に会える」
「そうですよね、初めてですもんね」
「うん、嬉しい」
美影さんの目が細くなる。白いドラゴンは首を伸ばして、漣華さんの影に隠れてたシシュティさんの頭をつつき始めた。固まっちゃってるよシシュティさん。
「ほれ、落とすぞ」
漣華さんの声に振り返れば、大きく広がった魔法陣にシラドが呑まれてる最中だった。胴が落ちて、眠ったままの頭が消える。やっと終わった。
「ありがとうございます、漣華さん」
「元はと言えば妾が原因じゃ。迷惑をかけてすまんのう」
「いえいえ、いい勉強になりました」
得難い経験だったよ本当に。あ、そういえば……。
「漣華さん、“バンパイアシーフの短剣”でシラドの能力吸っちゃったんですけど、これって消えるんですかね?」
「消す必要があるのか? 役立つとは思うが」
「そうですけど、芒月パパの血を上書きしちゃったから……」
どっちかって言うと、慣れた方を残しときたいんだよね。
「確かに、そのマジックアイテムは血を吸わせれば前の能力は上書きされる。しかし今、ノヅキの父の血は残っておる」
「え? どうしてわかるんです?」
「そなたの姿が獅子のままじゃからのう」
そりゃそうだけど。
「短剣からは微弱じゃがネメアン・ライオンの魔力を感じる。シラドの魔力に隠れてはいるがな。案ずるな。ノヅキの父はそこにおる」
漣華さんがそう言うと、ぷつっと目の前の景色が消えた。
暗がり中に球体が浮かんでる。見覚えがあるな。ああ、水神さんがくれた毬だ。私の胸に入ってきたやつ。
その向こうに大きな影が揺れた。ネメアン・ライオン。芒月パパだ。
芒月パパは頭を下げて鼻で毬に触れた。大きな影がするりと毬に吸い込まれていく。次に現れたのはシラドの影だ。危ない感じはしなくて、ただ毬の隣に静かに立ってる。
「……水神さんのおかげみたいです」
視界が元通りになった。漣華さんが不思議そうな顔をする。
「ミクマリノカミのか?」
「はい。前にお会いした時にある物をいただいて、それが能力をしまっておける袋の役割を持ってるみたいです」
「ほう、それはいいのう」
これなら芒月パパの力もシラドの力もストックしておけるね。でもこれ何個ぐらい能力を入れておけるんだろう。たくさん持ち過ぎないようにしないと。




