表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

321/418

第277話 毬

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。

「事情はわかった。それで、このデカブツをどうするつもりじゃ?」

「そこまで考えてなかったです」

「正直者じゃな」


 それほどでも。

 漣華さんが合流する頃には空が白み始めてた。美影さんもいるし、あの白い大きなドラゴンもいる。人間の私でもわかる。このドラゴンイケメンだ。


「このまま放っておいてもよいが、それはそなたらが困るじゃろう?」


 漣華さんが声をかけたのはガレンさんだった。離れたところから首を縦に振ってる。デカブツことシラドはまだ目覚めない。

 ククシナさんが王都に張った結界はとっくに解かれてる。こっちに来てるのは騎士団員がメインで、隊に所属してる人達は野次馬が近づかないように抑えてくれてる。その中にはアーガスさんの姿も見えるし、私達に混ざりたそうな顔のイヴァさんもいた。


「仕方がない。どこぞの谷にでも捨て置くか」

「いいんですか? そんな扱いで」

「それで死ぬならば、それがこやつの運命よ」


 そんなもんかね。

 漣華さんが地面に大きな魔法陣を描いていく。もう少しでシラドを通せるサイズになるってところで、漣華さんは魔法陣を描くのをやめた。


「漣華、どうしたの?」


 清ちゃんが聞けば、ふむ、と漣華さんは首を傾げた。


「この光の膜、初めて見るのう。ニャオよ、どうやってつくった?」


 どうやって、と言われましても。


「こうしよう、ああしようって考えてやったんじゃないんです。直感で動いたというかなんというか……」

「そうか。そなたは魔力そのものは少ないが、魔法を使う才能はあるようじゃな。実に惜しい」

「ニャオさん、魔法使えたらよかったのに」


 そうだね美影さん。でも私は今のままでいいかな。


「そなたが魔法をまともに使えたのであれば、妾がじきじきに鍛えてやったというのに」

「いやぁ、遠慮しますわ」


 絶対スパルタやん。


「クルルルル……」

「ぅお、びっくりした……」


 苦笑いしてたら白いドラゴンが鼻先で頭の天辺をつついてきた。穏やかな目をしてる。


「食べちゃ駄目。ニャオさん、私達の家族」

「クルル?」

「そう。人間だけど家族。他にも家族たくさん。食べちゃ駄目」


 言いながら、美影さんと白いドラゴンは頬擦りし合ってる。可愛いな。


「美影さん、そのドラゴンってもしかして……」

「私の番。虹の父親。やっと会えた」

「旦那さんかー」


 そういや聞いたことなかったもんな。会えてよかったねぇ。


「レンゲ姉さん、フクマルさんに聞いてくれた。森に連れて帰っていいって。虹、初めて父親に会える」

「そうですよね、初めてですもんね」

「うん、嬉しい」


 美影さんの目が細くなる。白いドラゴンは首を伸ばして、漣華さんの影に隠れてたシシュティさんの頭をつつき始めた。固まっちゃってるよシシュティさん。


「ほれ、落とすぞ」


 漣華さんの声に振り返れば、大きく広がった魔法陣にシラドが呑まれてる最中だった。胴が落ちて、眠ったままの頭が消える。やっと終わった。


「ありがとうございます、漣華さん」

「元はと言えば妾が原因じゃ。迷惑をかけてすまんのう」

「いえいえ、いい勉強になりました」


 得難い経験だったよ本当に。あ、そういえば……。


「漣華さん、“バンパイアシーフの短剣”でシラドの能力吸っちゃったんですけど、これって消えるんですかね?」

「消す必要があるのか? 役立つとは思うが」

「そうですけど、芒月パパの血を上書きしちゃったから……」


 どっちかって言うと、慣れた方を残しときたいんだよね。


「確かに、そのマジックアイテムは血を吸わせれば前の能力は上書きされる。しかし今、ノヅキの父の血は残っておる」

「え? どうしてわかるんです?」

「そなたの姿が獅子のままじゃからのう」


 そりゃそうだけど。


「短剣からは微弱じゃがネメアン・ライオンの魔力を感じる。シラドの魔力に隠れてはいるがな。案ずるな。ノヅキの父はそこにおる」


 漣華さんがそう言うと、ぷつっと目の前の景色が消えた。

 暗がり中に球体が浮かんでる。見覚えがあるな。ああ、水神さんがくれた毬だ。私の胸に入ってきたやつ。

 その向こうに大きな影が揺れた。ネメアン・ライオン。芒月パパだ。

 芒月パパは頭を下げて鼻で毬に触れた。大きな影がするりと毬に吸い込まれていく。次に現れたのはシラドの影だ。危ない感じはしなくて、ただ毬の隣に静かに立ってる。


「……水神さんのおかげみたいです」


 視界が元通りになった。漣華さんが不思議そうな顔をする。


「ミクマリノカミのか?」

「はい。前にお会いした時にある物をいただいて、それが能力をしまっておける袋の役割を持ってるみたいです」

「ほう、それはいいのう」


 これなら芒月パパの力もシラドの力もストックしておけるね。でもこれ何個ぐらい能力を入れておけるんだろう。たくさん持ち過ぎないようにしないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ