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第275話 相棒

ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。

 シラドが落ちた地面は窪んでるように見えた。シラドはうまく動けないらしく、頭すら持ち上げられない様子でこっちを睨んでる。


「何をした、小童」

「何したんやろうなぁ」


 何をしたのかあやふやだけもど、シラドがどんな状態にあるのかはわかる。

 矢で射った鱗に、掌紋と同じ紋様が光ってる。そこからシラドの体内に水神さんの気が流れ込んでるのが感覚で理解できる。水神さんがこいつを止めてくれてるんだ。

 清ちゃんから降りてシラドに近づく。シシュティさんに止めらそうになったけど、ククシナさんが遮ってくれた。


「ただのマジックアイテム程度が我を害するわけがない。異世界の神の力を頼ったか?」

「水神さんの加護を授かっとるからな。頼り切ることはせんけど、いざって時はお願いさせてもらいよるよ」


 自分とか身内とか、悪くない人に害が及びそうな時には遠慮してないよ。


「ニャオ、こいつどうするの?」


 ふわふわと上半身を伸ばしてきた清ちゃんが私の隣に前足を置いた。シラドが唸る。でもまだ起き上がれない。


「漣華さんがおればどうするか聞くんやけどなぁ。うちらで決めていいことやないわ」

「そういうもんなの?」

「そういうもんなの。漣華さんの身内やからね」


 漣華さんは今弟の方に行ってるけど、終わったらこっちに来てくれるかな?


「そのように悠長に構えていていいのか? 貴様らは我の牙が届く位置にいるのだぞ?」

「頭すら上がらん奴に言われとうないわ」


 そう返した後、違う、と感じた。

 シラドはもう動ける。〈超回復〉で動けるようになってる。敢えて動かないんだ。私達が油断するのを待ってる。ククシナさんも察してくれて、シシュティさんを来させないんだろうな。


(近づくと危ないよ?)


 清ちゃんの声が聞こえてきた。念話だ。

 わかっちょる。清ちゃんこそ近づき過ぎんでな?


(ぼくは大丈夫だよ。でもニャオはこいつのでっかい口なら1口だよ?)


 肉食ではあろうけどなぁ……。

 ユルクルクスって人間食べるのか? 殺しはせんとは言ってたけど、怪我ぐらいはさせにくるかもしれない。


〖レンゲを喚んでみる? もしかしたら終わってるかも〗

「うん、お願い。ぼく達は見張っとくからさ」


 ククシナさんが言えば、清ちゃんが振り返る。ぐわり、とシラドの口が開いた。

 避ける暇はなかった。瞬いた瞬間体の上半分が上顎と下顎に挟まれてた。シシュティさんの悲鳴と、ククシナさんと清ちゃんの怒号が聞こえてくる。

 弓にしたままだった“バンパイアシーフの短剣”を元の形に戻して、右手で逆手に持つ。左手はマジックバッグに突っ込んだ。腹に噛みつかれる寸前に“バンパイアシーフの短剣”を柔らかい舌に突き刺せば、シラドは鈍いうめき声を上げて怯む。その隙に、左手で掴んだ物の封を切って喉の奥に放り込んだ。

 シラドが大きく頭を振る。“バンパイアシーフの短剣”を引き抜いてするりと顎から逃れれば、清ちゃんに襟を咥えられて背中に放り上げられた。


「何するんだ?!」

『✕✕▽~!!』

〖祝福を与えた精霊の目の前で喰い千切ろうだなんて、いい度胸ね〗


 私とシラドの間に3人が立ちはだかった。シラドが不敵な笑みを浮かべる。


「ユゼを思って手を抜いたが、もうやめだ。人間ごときに鱗に土をつけられるなぞユルクルクスの名折れ。まとめて屠ってくれるわ!!」


 シラドが吼える。全身がビリビリと震えるほどの咆哮に、シシュティさんが身震いするのが見えた。


「引いちゃあくれんか? あんたの今後を決めるのは漣華さんやと思うんやけど」

「黙れ! 我に指図をするな!」


 シラドの口から炎が漏れた。舌には“バンパイアシーフの短剣”が刺さった痕が見える。血はもう出てない。敵が持ってると厄介なレアスキルだな、〈超回復〉って。


「私は黙らんよ。あんたを黙らせる」


 ククシナさん達の前に出て、握ったままだった“バンパイアシーフの短剣”を握り直してから、切っ先をシラドに向ける。刀身が白く光り始めた。


「ただのマジックアイテムって言いよったけど、私の相棒を舐めてもらっちゃあ困る」


 光が静まると、青緑の刀身に白い紋様が刻まれていた。漣華さんの魔法陣に似てるけど、細かいところが違う。


「こいつは攻撃した相手の血を吸って能力を奪うことができる。で、たった今あんたの血を吸った。言いたいことはわかるな?」

「まさか……!」


 シラドが驚愕の表情で目を見開く。今度は私が笑って見せた。

 静まったはずの刀身の光が強まっていく。背後から息を飲む音がした。


「自分の影は強かったか? なら光はどうやろうね?」


 “バンパイアシーフの短剣”が形を変える。刀じゃなく、弓でもなく、2本の扇に。


「使いこなしちゃるわ。あんたの光」


 ザッと音を立てて、2本の扇を開く。右手の扇にはドラゴンが、左手の扇には龍が描かれていた。

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