第28話 福丸さんの森
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「ところで、皆さんはこれからどうなさるご予定で?」
福丸さんに聞かれて、ニャルクさんと顔を見合わせた。
「私はあんまり人目につきたくないので、森の中みたいな静かな場所で暮らしたいなと思ってます」
「僕達も同じです。安住の地を求めて故郷を出ました」
ふむ、と頷く福丸さんの肩を、漣華さんが鼻でつついた。
「そなたが寝場所にしておる森などどうじゃ? あそこなら人間も入って来れんじゃろう?」
「ああ、確かに。それなりの広さがありますし、水も豊かですしね」
「え? あのぉ……」
「魔物はどうじゃ? どれくらい出る?」
「そこまでは出ませんが、何分わたくしには近寄って来ないもので……。少なくともドラゴンはいませんね」
「ちょっと……」
「パイアやスパルナならば肉が食えるし、スパルナの羽根は高値がつくからのう。売るのもよかろう」
「植物もよく育ってますから、畑も作れるかもしれませんね。わたくしが植えた林檎は毎年しっかり実をつけてくれていますし」
駄目だ、こっちの話を全然聞いてない。第一ニャルクさん達の都合だってあるんだから、そんな勝手に進められても困るんだけど……。
「人間が入らぬ森か、よいにゃ」
「ええ。しかも水も土も豊かにゃらばにゃおいいですね。イニャトのスキルにうってつけの場所です」
「ばっふばっふ!」
賛成なんかい。
「善は急げ、ですね。行きましょう」
「行きましょうって、その森は隠れダンジョンのすぐ近くなんですか?」
もしかして、めっちゃニアミスしてたとか?
「どうでしょう? わたくしはあなたの掌紋に喚ばれて来たので、ここが王都から見てどの位置なのかわからないです」
「妾のユニークスキルでつくった庭は好きな場所に出られるのじゃ。凄いじゃろう?」
「前も同じことを言って隣国に放り出されたんですよ。大変な目に遇ったんですから」
「あれはそなたが妾の知らぬ場所を指定したからじゃろうが! 文句を言うでないわ!」
言い合う福丸さんと漣華さんからニャルクさん達が距離を取る。言葉が通じる相手でも、図体がでかいから怖いんだろうな。
「漣華さん、福丸さんが言う森に案内してもらえませんか? 福丸さん、ぜひお邪魔させてください」
兄弟猫と黒犬を庇いつつ尋ねれば、福丸さんがにへらと笑った。
「ええ、もちろんです。歓迎しますよ」
ふん、と鼻を鳴らした漣華さんの正面に魔法陣が浮かび上がった。
「ほれ、早うせい」
福丸さんが通り抜けるのを追って魔法陣をくぐると、今までとは雰囲気が違う森に出た。
目の前にはせせらぎが流れていて、苔むした石が転がっている。小さな白い花がそこここに咲いて、仄かに甘い匂いがする。
魔法陣から出てきたニャルクさんとイニャトさんが、森の景色をくるくると見回した。
「にゃんと美しい森でしょう。故郷とはまた違った景色ですね」
「ふにゃあ、いい匂いじゃのう。腹が空いてくるわ」
「ばっふばっふ」
水の匂いと花の匂いを堪能していると、おい、と声をかけられて振り返れば、漣華さんが魔法陣から頭だけ出していた。
「フクマルよ。後は任すぞ」
「おや? 来ないんですか?」
「済まさねばならぬ野暮用があるでな。さらばじゃ」
漣華さんが頭を引っ込めると、パッと魔法陣は消えてしまった。
「まあ、用があればまた来るでしょう。皆さん、ついてきてください」
福丸さんがせせらぎに背を向けて歩き出す。私達も後を追って、木々の間に入っていった。




