第264話 シラドのユニークスキル
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今回のシリーズは余話の更新が頻繁になるかと思われます。
漣華さんに連れていかれたのは福丸さんの森と外の境だった。この辺りにはCランクぐらいの魔物が結構来るみたいで、福丸さんがよく見回りに行ってるし、ペリアッド町に滞在してる冒険者がお金稼ぎにも来るらしい。仔ドラゴン達の初期の狩り場でもあった場所だ。
そんなそこそこ危ないエリアに、なんとも異様な物があった。あったと言うか、福丸さんのユニークスキルに突き刺さってる。しかも2つも。なんぞあれ?
「なんですあれ? 物凄く見覚えのある形なんですけど……」
「まーう?」
「見覚えがあって当然じゃろう。あれはシラドの抜け殻じゃ」
抜け殻? ユルクルクスって脱皮すんの?
「シラドのユニークスキル〈置き去る鱗〉は、全身の鱗を剥がすことであらゆる結界を通り抜けるというものじゃ。しかし短時間で何度も使うことはできぬ。できて往復ぐらいじゃな」
「あらま、それで福丸さんのユニークスキルを通ってこれたんですね?」
「いや、本来なら通れぬ。フクマルの持つ魔力量はかなりのもので、一度に使える量もそれを持続する力もシラドを超える。妾も、クラオカミ様の加護を授かる前ならば負けておった」
なんと、半端ないな福丸さん。
「ならなんで入ってこれたんです? 福丸さん、ユニークスキルに異常はないって言ってたのに」
「ラドンの毒じゃ。そなたらが四景のララカで狩ったであろう? あれの毒のせいじゃ」
え、ラドン? なんで今さら?
「確かに、フクマルならばラドンの毒など取るに足らぬものじゃ。しかしあの毒は、肉体には影響はなくとも体内に宿す魔力の流れには多少は作用したらしい。それこそ、シラドの侵入を許す程度の歪みを生み出すぐらいには」
なるほど。でも森の近辺にはランクの高い魔物はいないから、毒の影響が残ってるって気づかなかったわけか。シラドがすぐに立ち去ってくれて助かった。もし暴れられてたら大変なことになってたよ。
「さてニャオよ、これをどうする?」
「どうするって……」
ユニークスキルのあっちとそっちで、侵入してる抜け殻と脱出してる抜け殻を顎で示しながら漣華さんが言ったけど、私にこれをどうしろと言うのさ?
「とりあえず、引っこ抜いてもらっていいですか? このままにしとくと狩りに来た冒険者が驚くんで」
「わかった」
そう言って頷いた漣華さんが、こっちを向いてる抜け殻の首を咥えて森に引きずり込んだ。向こうを向いてる抜け殻は尻尾。改めて見てみてもでかいな。
「まう? まうー?」
興味津々って感じで、清ちゃんが空洞になってる抜け殻の中に入っていく。歪んだガラスみたいだな。清ちゃんがぼんやりしてら。
「これってその内消えるんですか?」
「うーむ……。いつもならとうに消えておるはずなんじゃが……。もしかしたら、ラドンの毒が影響したフクマルの魔力と混ざった為に、霧散できんのではなかろうか」
「そんなことってあるんですか?」
「聞いたことはないが、ないとは言い切れん。強い魔力を持つ者同士、どのように影響し合うかわからんからのう」
マジかー。これずっと残るの? 邪魔なんだけど。
「消えなかったらどうします? いつかのブルードラゴンみたいに川に沈めときます?」
「それはそれで目障りじゃのう。目に見えるところになくとも目障りじゃ。……ふむ、やはりブルードラゴンと同じように扱おう」
「あ、じゃあ沈めに行きます?」
ついでに塩まこう塩。
「いや、せっかくのユルクルクスの抜け殻なんじゃ。もっと有意義に使わねば」
「有意義に?」
ブルードラゴンの亡骸って、なんかいい使い方したっけ? 確か川に沈んだままだったのをイヴァさんが王都に持って帰って、博物館に展示されてるんだったよな。あ、そっか。
「王都に持っていくんですね?」
「そうじゃ。ユルクルクスの抜け殻なぞそうそう手に入る物ではない。さぞいい値がつくじゃろうて」
ふふん、と漣華さんが笑った。酔い覚めたっぽいね。
「それなら早速家に帰って、“伝書小箱”で斧のギルマスに伝えましょう。このサイズの物を運ぶならアイテムボックス持ちの人を雇わないと」
「その必要はなかろう」
ん? 嫌な予感がするぞ?
「ほれ行ってこい」
「ちょおっと待ってえええぇぇぇぇっ?!」
パクッと襟を咥えられたと思ったら、魔法陣にぽーんと放り込まれる。空中で体をひねって着地すると、周りから悲鳴が上がった。
見回してみると、大勢の人がこっちを見てた。みんな豪華なドレスとか、シンプルだけど絶対にお高い服を着てる。町並みもペリアッド町よりも遥かに立派だ。まさか王都? 王都に来ちゃった?
『✕✕! □✕▽!?』
どこからか走ってきた防具を着た人達に囲まれる。ここが王都で合ってるなら騎士団か? と思って両手を上げたら先頭にいる男の人が目を見開いて、後ろにいる人達に武器を下ろすよう指示を出した。ああ、掌紋が丸見えなのか。
「下がれ人間共。よもや〈水神の掌紋〉保有者を斬りつけるつもりではあるまいな」
お、漣華さんも来た。チンアナゴ状態だけど。
『✕、✕△……、□○……?』
「黙れ小僧。貴様に用はない」
「いやいや、そんな言い方しちゃ駄目ですよ」
この状況、私って思いっ切り不法侵入してるんだからね? 牢屋にぶち込まれてもおかしくないからね?
「漣華さん、確認なんですけどここってどこですか?」
「王都じゃが?」
「やっぱり……。王都みたいな王国の要にいきなり人間がぽんと現れたら捕まえに来るに決まってるでしょう? この人達は全くこれっぽっちも悪くないんだから漣華さんは怒っちゃ駄目です」
「むう……」
むくれないの。
『◎○! □◎△○!』
聞き慣れた声がして振り返れば、なんとライドさんだった。懐かしいしすんごい安心した。
「おお、ライドか。丁度いいところに来た」
『△、□◎? ○△◎??(^∀^;)』
「うむ、ちと用があってな。ほれ、これを受け取れ」
漣華さんが空中に新しい魔法陣を描き上げると、シラドの抜け殻が2つ、ゆっくり出てきた。尻尾で押してるのか? 清ちゃん入ったままだし。
「おいで清ちゃん」
「まうー!」
駆け寄ってくる清ちゃんを見た王都の人達から歓声が上がった。なぜに?
『△○、□◎?( ・ω・)』
「これか? これは妾の兄であるユルクルクスの抜け殻じゃ。ブルードラゴン同様博物館に飾るがいい」
゜ ゜ ( Д )
あれま、ライドさん目が飛び出しちゃってるよ。面白い顔だな。
「では後は頼む。妾は私用を済ませねばならんからな」
「あ、それじゃあライドさん、よろしくお願いしますね」
長居は無用だ。さっさと帰ろう、と思って漣華さんに近づいたら、漣華さんはするりと首を引っ込めて、魔法陣を消してしまった。
「……あら?」
「まう?」
どゆこと? まさかの置き去り? どうやって帰れって?
ゆっくりとライドさんを見れば、シラドの抜け殻に釘づけになってて私が残されてることに気づいてない。王都の人達も目が点だ。
「清ちゃん、どうしよっか」
「まうー……」
迎えに来てくれると信じて、まずは宿を探そうかな。




