第244話 祝福
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軽食を食べた後皿を返しに行こうとしたら、部屋から出ない方がいいってアースレイさんに止められた。今ギルドに詰め寄せてるのは、四景のララカに関する素材確保の依頼を出しに来た商人と、その依頼を受けに来た冒険者がほとんどらしいけど、私に興味を持ってる連中も少なからずいるんだとか。
「異世界の神様の加護を授かってる黒髪なんて、珍しいの一言じゃあ済まないからね。僕達が四景のララカに行ってる間も、ニャオさんの姿を一目見ようとしたり写真を撮ろうとしたりする奴らが結構な数いたって、サスニエル隊の鳥人に教えてもらったんだ。彼らが全部防いでくれたんだって」
鳥人って確か、上半身が鳥で下半身が人間なんだっけ。腕も鳥だから飛べるって聞いた気がするな。
「なんとまあ。それはお礼をしないとですね」
『お礼、たくさん、林檎、桃、シュテム、蜜柑、いっぱい』
「そうですね。今は無理だけど、家に帰ったらお礼を送りましょう」
シシュティさんの手話に合わせて、私も単語をメインに返事をする。フンスフンスと鼻を鳴らすのが可愛い。言ったら調子に乗ってマーキングしてくるから言わないけど。
「フクマルさん達は夕方には戻ってくるから、それまでここで休んでておくれよ。さすがにみんなが近くにいたら冒険者達も寄ってはこないからさ」
そりゃそうだろうね。なんせつい4日前にSSランクのラドンを狩ってきたばっかりのメンバーだもの、下手に動くわけないって。またいびきを掻いてるバウジオと、バウジオの耳に顔を突っ込んで眠ってる清ちゃんもそうだけどさ。見た目から危ない奴とは思えないよね。
『ニャオ、ベッド、昼寝、一緒』
袖をクンと引っ張ってきたシシュティさんが、ベッドを指差して手話をした。私さっき起きたんだが?
「さすがにもう眠くないかな。すみませんけど、お昼寝は」
遠慮しますって言おうとしたら、ベッドまで無理やり連れてこられてポンと肩を押された。踏ん張れなくてボフンと腰かける。目をぱちくりさせてる間に膝に頭を乗せられた。やられたぜ。
「人の膝を勝手に枕にするのはこの頭か? ん? この耳か?」
『△✕~~~! ○□▽!』
こしょこしょと耳のつけ根とかうなじをくすぐってやったらシシュティさんは身悶えて脚をばたつかせた。喜んでらっしゃる。シシュティさんが笑うのにつられて笑ってると、ベッドがギシリと音を立てた。
「仲間外れは感心しないね」
隣に座ったアースレイさんも、シシュティさんをくすぐり始めた。私達を相手に逃げるとこもできなくなったシシュティさんが笑い過ぎて涙目になってる。ほどほどにしないと酸欠になるな。
くすぐる手を止めて、ぜえぜえと荒い呼吸をしてるシシュティさんの背中を撫でてたら、いたずらっ子みたいな顔になったシシュティさんにベッドに押し倒されてくすぐり返された。脇はやめなさい脇は。アースレイさんも加勢するんじゃないよ。そっちがその気なら次はあんただからね?
騒がしくしてたらバウジオと清ちゃんが起きてしまった。せっかく寝てたのにごめんって謝ったけど、結局2人も混ざってのくすぐり合いに発展してしまって大騒ぎ。うるさくし過ぎてギルド職員がノックしに来たぐらいだった。ごめんね?
▷▷▷▷▷▷
〖ただいま。あら、私達のお寝坊さんがやっと起きたのね?〗
「長々寝ててすみません」
日が暮れた頃、窓からするりと入ってきたククシナさんが私達を見てくすくす笑った。アースレイさん達ぐっすりだもんね。バウジオはアースレイさんのお腹を枕にしてるし、シシュティさんは清ちゃんを抱っこして丸まってるし、私はその真ん中でドライフルーツ食べてるしで、まあ笑われるわな。
〖仕方がないわ。あなたは宿してる気のほとんどを使ってラドンを倒したんだから。普通の人間なら喋ることすら難しいはずよ〗
「そうなんですか? 私歩けましたけど……」
〖ドライフルーツ食べてる時点でそれぐらい想像できるわよ〗
私の頭の近くに来たククシナさんがおでこを触ってくる。前髪をぱっかり開かれた。やめれ。
〖私に会いに来たのがあなたでよかったって、ずっと思ってたの。ウルスナも、あなただからこそ私のところに寄越したのかもしれないわね〗
どしたのいきなり?
「買いかぶり過ぎでは? 加護持ちとはいえただの人間ですよ?」
〖そんなことないわ。精霊の心を救うなんて、ただの人間にはできないことよ〗
そうか、私はククシナさんの心を救えたのか。そう言ってもらえると嬉しいよ。
〖ニャオ。これから先、あなたはいろんな魔物と戦うことになるでしょうね。望んでも、望んでいなくても〗
自分から望むことはないと思うけどねぇ。
〖ミクマリノカミ様の御力は絶大だけど、使える力や得られる力は多い方がいいと思うの。だからあなたに祝福をあげる〗
「祝福?」
加護と何か違うのか?
〖神々が授ける加護は、授けた者に力をわけ与えることができるものよ。精霊の祝福も似たようなものだけど、加護よりワンランク下って感じね〗
「精霊よりも神々の方が力は当然ありますもんね」
〖そうね。だけど、持っていて損はないわよ? あなたが危険な目に遭えばすぐに駆けつけられるんだもの。だからあなたに私の祝福をあげる〗
そう言うと、ククシナさんは私の返事を待たずにおでこにキスしてきた。あったかい感触があって、胸の方にするりと流れ込んでくる。これが祝福か?
〖ミクマリノカミ様には到底及ばないけど、私もあなたの力になるわ。いつでも頼ってね?〗
「もう頼らせてもらってますよ?」
〖もっと頼ってくれていいのよ?〗
ふふふっ、とククシナさんが笑った。なんか嬉しそう。
「それじゃあ、今以上に頼らせてもらいますね? よろしくお願いします、ククシナさん」
〖こちらこそよろしくね〗
思わぬ形での祝福ゲットだけど、ククシナさんが守ってくれるならもっと安心できるね。迷惑だけはかけないよう気をつけようっと。




