第26話 久しぶり青空
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結果的に言うと、ウナギ男は隠れダンジョンのボスじゃなかった。というか、この世界のダンジョンは、先客がいる場合ボスがいる階そのものが立ち入り禁止になるってイニャトさんが教えてくれた。
ボスがいる階だと仮定した上で、イニャトさんがウナギ男を先客だと思ったのは、ここがダンジョンとして未熟だから誤作動が起こったと思ったらしい。それぐらいウナギ男の擬態が見事だったってこと。
ボス階はその次の階で、ボスはエゼクという襟巻きがついた蛇だった。襟巻きを震わせて神経毒を撒き散らすのが特徴で、地中に迷路みたいに掘った穴を通って獲物の背後を狙うらしい。
ニャルクさんからそう説明されたけど、結局エゼクの狩りは見られなかった。だって一緒に降りてきたドラゴン? みたいな魔物が土魔法で地面を揺らしてプチってしちゃったんだもん。
その後すぐにボス階の地面全体に魔法陣が浮かび上がって、気づいた時には地上だった。
「にゃあニャオよ、あやつらどうするんじゃ?」
周囲を見回している魔物と熊を横目で見ながら、イニャトさんがこそこそと聞いてきた。
「あやつらって、私に喚ばれたっていう2人ですよね? どうするって聞かれても……」
魔物を2人と数えるのは違うと思うけど、2体とはなんか呼びづらいな。
「あの魔物達、たぶん戦争に加勢した方達ですよ」
ニャルクさんもこそこそと言った。
「戦争って、神々が見守った戦争?」
「ええ。先代のアシュラン王と共に戦った6体の魔物と4体の精霊、その内の2体です」
戦争って400年前だよね? まだ生きてるんだ。
「そなたら、こそこそと何をしておる?」
魔物が長い首を伸ばして見下ろしてきた。ニャルクさん達がびくついて私の後ろに隠れる。
「ほらほら、そんなに怖がらせてはいけませんよ。もっと離れて」
「怖がらせてなどおらぬ。人聞きの悪いことを言うな」
「あなた、ご自分の顔面理解してます?」
「なんじゃと?!」
「ちょちょちょ、待ってください!」
目の前で喧嘩が始まりそうになって慌てて止める。戦争に加わった魔物同士の喧嘩なんて巻き込まれたくないよ。バウジオなんか私の脚の間に潜り込んでるし。
「あの、私に喚ばれたって言ってましたよね? 全然そんなつもりなかったんですけど、どういう意味です?」
喧嘩をさせまいと話題を振れば、熊の方が教えてくれた。
「あなたのユニークスキルで喚ばれたんです。ほら、その掌紋で」
鋭い爪が生えた指に指された掌には、うっすらと魔法陣が浮かんでいる。
「ユニークスキル〈水神の掌紋〉。水に触れた状態で願い事をして、水神に認められれば叶うという特殊なものです」
「水神の加護を授かった者の内1人だけが持つ唯一無二のスキルじゃ。誇れよ小童」
「え? いやぁ私、スキルとか加護とかなんにも持ってないはずですけど……」
隠すことではないから素直にそう言えば、首を傾げられてしまったから、異世界から召喚されたこと、ステータスがすっからかんだったから放り出された上に、人間とは言葉が通じないことを説明する。
「なんと、あの馬鹿共はまだそのようなことをしておったのか」
「あなたのその髪質も、異世界の方なら納得です。ですがこれで確信しました」
熊と魔物が頷き合う。
「〈水神の掌紋〉は召喚された人間にのみ発現するスキル、ということじゃな」
「ええ。戦争の時に1人。その前はアシュラン王国建国の時に1人。どちらも異世界人でした」
「まあそもそもこのスキルが示す水神が異世界の神なのだから当然と言えば当然か」
「あなたも異世界の水神から加護をもらったから姿が変わったんでしたね?」
「いかにも。以前の妾もそれはそれは美しかったが、この姿になってからはより一層美が光り威厳を感じさせるようになった。クラオカミ様は素晴らしい神じゃ」
ふふん、と魔物が得意気に鼻を鳴らす。じゃあ元々は普通のドラゴンだったってこと?
「皆さん、もう少し詳しくお話ししたいのですが、お時間は大丈夫ですか?」
「あ、はい。私は大丈夫ですけど」
ニャルクさん達を見れば、うんうんと何度も頷いている。本能的に逆らえないのかな?
「では場所を移動しましょう。ほら、早くやってください」
「……そなた、妾を都合よく使おうとするな」
「使えるものはなんでも使えと言われましたので」
「ふんっ」
プイッと顔を背けた魔物の前に大きな魔法陣が現れる。魔物がそれをくぐると、姿が消えてしまった。
「どこに行ったんですか?」
「彼女のユニークスキル〈空間生成〉です。彼女自身と、彼女が許した者しか入れないので安全ですよ。さあ、行きましょう」
〈空間生成〉? 新しい空間を作っちゃうってこと? やばくない?
熊に背中を押されて魔法陣の前まで行くけど、ニャルクさん達がついてきてなかったから声をかける。だけど、兄弟猫もバウジオも根が張ったみたいに硬直して動かなかったから、熊がまとめて抱っこして、一緒に魔法陣をくぐった。




