第242話 決着
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「グルルルルアーーーヴヴヴヴヴゥゥゥゥッ!!」
怒り狂った芒月の咆哮が響き渡った。たてがみだけじゃなく、砂漠のそこここにある窪みからも炎が噴き上がる。芒月が駆け回ってできた足跡だ。
「ほおおおぉぉぉぉーーーーーーぉぉぉん!!」
天を向いた清ちゃんの啼き声に反応するみたいに吹いた風が、芒月の炎を巻き上げていく。蛇みたいにうねる炎がラドンに迫った。
傷ついたラドンの鱗を炎の蛇が這い回ると、肉の焦げる嫌な臭いがした。ヘドロが焼けるような強烈な悪臭に鼻をつまむ。ヒャインヒャインと鳴いて身悶えるバウジオを、福丸さんがユニークスキルで守るのが見えた。
「ヒイイイィィィィーーーーーーゥゥウッ」
ラドンが鳴いた。でも断末魔じゃない。心底煩わしそうに鳴いてる。
コウモリみたいな翼を広げたラドンが一度だけ羽ばたくと、炎の蛇はかき消された。砂の上で燃えてた炎も消えて、清ちゃんの風も千切られたように感じる。悔しそうな清ちゃんの声が聞こえてくるから間違いじゃないだろうね。
唸るラドンが芒月を睨みつけた。新しい矢をつがえて気を込めて射れば、その一矢だけでラドンの首が飛んだ。
血を散らしながら落ちた首に、おおー、と言いながらククシナさんが拍手した。でも数秒も経たずに新しい首が生えてくる。私の矢で狩れるのか?
「100回首を落とすしかないかな……」
「それもいい。だけどみんなが怪我をするかもしれない」
つい呟いたら美影さんにそう返された。そうか、狩りが長引けば長引くほどこっちの疲労も溜まるもんな。その分隙も生まれやすい。福丸さん達は大丈夫そうでも、私とか仔ドラゴン達が危なくなる。やっぱり一気にとどめを刺した方がいい。
「美影さん、ラドンに近づき過ぎないように飛んでもらってもいいですか? 次の矢に目いっぱいの気を込めてみます」
「わかった」
とは言ったものの、さっきの矢にもそれなりに気を込めてはいたんだよな。でも効かなかった。さっき以上に気を込めるとなるとそう何本も射られない。何か手を打たないと。
美影さんがラドンから距離を取ってくれた。私達の周りでは仔ドラゴン達とクァーディーニアさんがその他の魔物を狩り続けてくれてる。早く決着をつけないと、こっちの体力もたないな。
矢をつがえようとした手を止めて、両手で弓を握り締めた。深呼吸をして、薄く瞼を閉じる。体中の気を、右手から弓に流し込んで左手に帰す想像をする。次かその次、そのまた次ぐらいまでには決着をつけたい。つけないといけない。私の手で、だ。
胸の辺りが温かくなった。緊張してた心が落ち着いてくる。ガルネ騎士団の野営地を出る時に政臣さんに触られたおでこに気が集中するのがわかった。
ゴトリ、ゴトリと音が聞こえる。福丸さん達がラドンの首を斬り落とす音だ。その合間にククシナさんのちょっとだけ焦るような声とかバウジオと芒月の威嚇とか福丸さんの不機嫌そうな声が混じる。こっち側も無傷じゃないらしい。急がないと。
ーー落ち着いて
頭の中に声が聞こえてきた。
ーー急いて仕損じれば被害は大きくなる。確実に仕留めるんだ
政臣さんの声だ。
ーー君の準備が整うまでの時間を稼ぐことぐらい、彼らには造作もないことだよ。信じなさい
はい、信じてますとも。
瞼を開けて、ラドンを見下ろす。対峙してる福丸さんの傷が増えてた。バウジオと芒月を庇うように立ってるから、そういうことなんだろう。2人も怪我してる。早くポーション届けないと。でも先にラドンだ。
ふーーー、と長く息を吐いて、新しい矢をつがえる。弦を引いて照準を合わせた。
水神さん水神さん、力を貸してください。
そうお願いして、矢に集中する。今まで以上に矢に気が流れていくのがわかる。呼吸がし辛くなってきた。
大きく鳴いたラドンが空へ飛んだ。口の端から炎がこぼれてる。芒月達が吼えるのを福丸さんが抑え込んで、その正面に回ったククシナさんが両手を突き出して結界を張った。
美影さんとラドンは同じ高さにいる。照準を合わせ直して矢を射る。体の中身を全部持っていかれるような感覚があって、跨がってる美影さんの背中に倒れ込んでしまった。
高い音を立てながら矢が飛んでいく。気づいたラドンが頭を反らして避けようとしたけど、矢はその動きを追って首を射貫いた。
「ヒイイイィィィィーーーーーー……」
首は落ちない。矢に射貫かれた箇所に〈水神の掌紋〉と同じ紋様が浮かび上がった。紋様は木に絡む蔓みたいにラドンの首に巻きついていって、その範囲は顔にも、胴にも広がっていく。
翼をばたつかせながらラドンが砂漠に落ちていった。大量のヘドロが血みたいに吐き出される。視界が霞んでいく。それでもラドンの断末魔ははっきりと聞こえた。
「勝った……」
言えたのはそれだけだった。仔ドラゴン達の歓声も、バウジオの遠吠えも、閉じた窓越しみたいにくぐもって聞こえる。
真っ暗になりかけた視界が明るくなる。それが朝日だと理解した瞬間、意識を手放した。




