第236話 ずるい
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野営地は大騒動になった。まあ当然だろうね。今まで人間と見知った魔物しかいなかったところにいきなり見たこともない生き物が現れたんだから。清ちゃんの面影はもちろんあるけど、見慣れてない人にはこのでっかい龍と清ちゃんを結びつけるのは難しいかも。
そろそろいい時間だからってことで、アースレイさん達先鋒組を四景のララカに送り出した頃、ガレンおじ様と政臣さんが駆けつけてきた。誰かが呼びに行ったみたい。そりゃそうか。
『◎○、△□◎?』
「まうまうー、まう!」
『▽□□○✕、□○……』
「まーうー」
政臣さんが清ちゃんと話してる。通じてるのか? 私の守護獣なのに? 私を差し置いて? ずるい。
「福丸さん、神の繭って大人になるのは何歳ぐらいなんですか?」
「生後半年ぐらいで繁殖が可能となります。人間達が取引をする個体は2ヶ月ほどだと聞いたことがありますね」
ということは、とっくに大人になってたってことか。
「私が元いた世界では、龍は500年とか1000年生きて位が上がっていくとされているんです。だから生きた歳でいえば清ちゃんはまだ卵の殻をかぶってるような状態ですね」
「そうなんですねぇ。ではこの大きさでもまだ赤ん坊なんですねぇ」
「龍として見れば、ですね。でも神の繭としてはもう大人だから仔ども扱いするのもどうかと……。ん? 清ちゃんってまだ仔ども? それとも大人??」
わからなくなってきた。結局どういう風に接するのがいいんだ?
「少なくとも、精神面ではまだ幼いようですから、今まで通りに接してあげればいいと思いますよ」
ということは、体だけ大人になっちゃった感じかな? 今のところ不安そうには見えないから大丈夫だとは思うけど、帰ったらニャルクさん達とも相談しないと。心が危うくなったら大変だからね。
〖ニャオ、私はガレン達と話してくるから、ラドン討伐に出発する時に合流しましょう〗
「あ、はい。また後で」
ふわふわと飛んでいったククシナさんが、龍になった清ちゃんをわいわいと囲んでる団員達を難しそうな顔で眺めてるガレンおじ様のところに行って、政臣さんと3人で向こうの方に消えた。なんの話をするんだろう?
「ねえねえニャオ、私達はいつぐらいに出発するの?」
おでこを背中に擦りつけてきた緑織に聞かれて、そうやなあ、と返す。
「日づけが変わるまでにまだ時間があるし、かといってあんまりのんびりしとくと黄菜達に負担がかかるし……。そういや美影ママはどこに行ったん?」
「シキ達と一緒に行ったぞ? 空から見張りながら、危なくなったら助けに行くんだってさ」
おお、それなら黄菜達に狩りをさせつつ自分は体力を温存できるね。考えたね美影さん。
「それでしたら、頃合いがいい時にミカゲさんから念話が入るでしょう。皆さんにお伝えしますので、それまで休まれてください」
福丸さんにそう言われて、思わず目を丸くした。
「念話? 美影さん念話が使えるんですか?」
「ええ、しばらく前から」
初耳ですが?
「それじゃあ1回テントに戻りますか。もう1人のデカブツの様子を見に帰りましょうかね」
「ノヅキ来なかったねー」
そうだね青蕾。あいつ、早々と夕ご飯食べ終えていびきかいてたもんね。きっとまだ寝てるよ。
▷▷▷▷▷▷
「やっぱりか……」
「くぅ~ん」
テントに戻れば離れた時と同じ寝姿で芒月は寝てた。傍には自主的に残ってくれたバウジオが情けない……、違うな、寂しそうな顔でおすわりしてる。
「ごめんなバウジオ。いきなりみんなおらんくなったけぇ寂しかったな? 芒月とおってくれてありがとうな?」
「ぅわっふ」
お、尻尾を振ってくれた。よかったよかった。
「まう?」
のっしのっしと後ろをついてきた清ちゃんがくんくん匂いを嗅いでも起きやしない。芒月、あんた1人でいた時もそんなに無防備だったの?
ここに来るまでにいくつかのテントの近くを通ったけど、清ちゃんはそのどれにもぶつからなかった。顔が猫っぽいし、本物の猫みたいに障害物を避けられるのかな。まあ無事に私達のテントに戻れたから何よりだよ。
「清ちゃん、出番はもうちょっと後やけぇ、赤嶺達と休んどってな。時間になったら福丸さんが教えてくれるけな」
「まうー!」
大きく返事をした清ちゃんがテントの隣で円を描くみたいに丸くなれば、その中に赤嶺達が入ってうたた寝を始めた。そこそこ大きい仔ドラゴン4人を囲える長さってかなりだな。清ちゃんもっと大きくなるのか? 養えるかな私。




