第219話 仲よくできないの?
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エルゲさん達のところには朝戻ることになったから、早々とテントを張って眠りについた。前みたいに赤嶺を背もたれにして、清ちゃんを抱えて。そのさんはテントに入ってこなかったから、まあ放っておいた。1人で考えたいこともあるよね。明日にはいつものそのさんに戻ってくれてればいいけど。
夢も見ないぐらいの熟睡から目を覚ませば、テントの外が明るかった。寝息を立ててる清ちゃんを赤嶺の背中に乗せて出てみると、既にレアリアンドさん達が忙しそうに動き回ってた。
「やば、寝過ごした」
〖大丈夫よ。あの子達、日が昇る前から起きてるから〗
あらククシナさん、教えてくれてありがとう。
「おはようございますククシナさん。あっちは忙しそうですね」
〖今後の予定を話してたみたい。ニャルク? って人達と挨拶して、狩った魔物を売って、そのお金で騎鳥便? てのを雇えるか計算して……。でもレンゲがね、千輪の谷の近くまで魔法陣で送ってやるって言ってからあの騒ぎなの。浮いたお金で日用品を買うべきか、それとも真っ先に帰ってみんなに知らせるべきか。そんな話をしながらずーっと帰る準備をしてるわ〗
そうだったのね。ちと寂しいけど、みんなのところに帰るのが最優先だぁね。で、千輪の谷ってなんぞ?
「千輪の谷とは?」
〖獅子獣人達が住んでる場所。お皿みたいな形のたくさんの岩が突き出てるの。その周りには森が広がってて、道を知らなければ迷ってしまうわ〗
「この森みたいな感じですか?」
〖……ここまで焦げてはいないと思う〗
そりゃそうでしょうよ。
『◎! ○◎△!(*>∀<*)ノ』
ノザリエさんがこっちに気づいた。他のみんなも笑顔で近づいてきて、次々とハグしてくる。昨日散々されたっての。
「そいつら、またあんたに礼を言ってるよ」
あ、そのさんだ。うんうん、いつもの表情に戻ってる。
「そのさん、おはようございます。昨日は眠れました?」
「ま、それなりにね」
足元に来たそのさんを肩に乗せる。尾先で頬を撫でられた。
「ニャオ、ノザリエ達を見送ったらあたしの探し物につき合っておくれよ。ルーファネス町とソルディア村を繋ぐ道の途中にある木に番の魔石を隠してるって教えてもらったからね」
聞いたことのない名前だな。どの辺りなんだろ。
「もちろんですよ。でもどうやって行くんです?」
「妾が案内する」
そのさんに聞けば、空から舞い降りてきた漣華さんが答えた。
「ルーファネス町の場所は知っておるからのう。魔法陣で送ってやる」
「ああ、ありがとうございます」
「場所を知ってるんなら安心だね」
「どういう意味じゃ?」
「黙りな前科持ち」
こらこら、朝っぱらから喧嘩しないの。
〖ねえ、今から騎士団のところに行くの?〗
ククシナさんが聞いてきた。あ、赤嶺達がテントから出てきてる。やっと起きたのね。
「軽く朝食を食べてから行こうと思ってます。ククシナさんは地下に戻ります?」
〖いえ、あなた達についていくわ〗
……なんですと?
〖騎士団とやらに伝えておきたいことがあるの。だから地下には戻らない〗
「そうなんですねぇ」
そう返してから、肩にいるそのさんに顔を近づけた。
「大丈夫ですかね、ククシナさんがついてきて……。エルゲさん達驚きません?」
「そりゃあんた、驚くだろうさ。何せこいつは姿形が伝えられていない古代の精霊なんだからね。でもついてくるなと言ったところでついてくるよ」
そうだね。ククシナさんがどこに行こうが私達が口出しできることじゃないからね。
「ま、こいつも落ち着いてるし、エルドレッド隊の奴らが滅多なことを言わなけりゃ問題ないだろうさ」
「そうだといいんですけど……」
あとちょっとで家に帰れそうなんだし、何も起こらなきゃいいけど……。
▷▷▷▷▷▷
〖騎士団がいるところまで空間を繋ぐわ。レンゲの魔法陣と同じようにくぐればいいから〗
朝食後、テントを片づけ終えた私達にそう言いながら、ククシナさんは空中に魔法陣を描き上げた。漣華さんのとは違う紋様。ちと不安。
「なーククシナ、これくぐったら魔物の巣だったり海の上だったりするか?」
「まう?」
〖そんなわけないじゃない。なんてこと言うのよ〗
すみませんククシナさん、こっちにはこっちの事情がありまして……。
「ほらレンゲ、言われてるよ?」
「黙れ」
ああもう、喧嘩しないでってば。
〖もしかして、行き先を間違えることがあるの?〗
こてん、と首を傾げるククシナさんに、うぐ、と漣華さんは言葉を詰まらせた。
「こいつは知らない場所に繋ぐのが下手なのさ。おかげで何度大変な目に遭ったことか」
「黙れと言うておるじゃろうが!」
この2人が仲よくなる方法ってないもんかね?
〖気配を探る感覚を応用するといいわ〗
人差し指を立てながらククシナさんが言った。
「応用とな?」
〖そう。行きたい場所そのものを知らなくても、その近辺を知ってればどうにかなることが多いの。知っている場所を思い浮かべながら、少しずつ意識を伸ばしていけば何かしら見つけられるはずよ〗
「……ふむ」
あら、漣華さんがなんか納得してる。もしかして解決しそうな感じ?
〖今度から試してみるといいわ。早く騎士団のところに行きましょうよ〗
「あ、はい」
そうだね。エルゲさん達待ってくれてるもんね。
そのさんを肩に乗せたまま、清ちゃんが赤嶺の背中にいることを確認して、ククシナさんの魔法陣をくぐる。数日ぶりに出会えたエルドレッド隊のみんなが、笑顔で迎えてくれた。




