第23話 フーア
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〈〉の使い分けが難しいです。とりあえず、レア以上のスキル名につけるようにして試してみます。
ヒュンッ、と風の音がして、手を切り落とされた女が絶叫する。ニャルクさんが私と女の間に立ち塞がった。
「こいつはフーアの一種ですね。人の形をしているから、もしかしたら僕達より先に隠れダンジョンに呑まれて餌ににゃった方かもしれません」
「え? 元人間ってこと?」
「フーアは水に関わる魔物や、死んで悪霊やアンデッドににゃった者の総称にゃんです。普通の人間でも、こういう場所だと余計に魔物化しやすいんです」
そう言っている間にも、ニャルクさんは這い寄ろうとするフーアを魔法で押し返し続けている。加勢したくても自分じゃ役に立てない。
「ニャルクさん、あっち!」
せめて警戒しようと周囲を見回せば、別の場所から這い上がってくるフーア達を見つけて叫んだ。
「全部で6体……。多いですね」
横目で確認したニャルクさんが土の壁を作る。だけど1体のフーアが水魔法で壁を破壊した。
「来るなってば!」
一番素早いフーアがニャルクさんを掴もうとしたから頭を蹴りつける。ボキッと嫌な音がしたけど、そいつは折れた首をぶらぶらさせながらこっちに来た。
「これどうすればいいんですか?!」
「火魔法です! そいつらの持つ魔力以上の火をぶつければ怯みます!」
「使えますか?!」
「使えません!!」
「無理じゃん?!」
そんなことを叫び合ってる内に、フーア達に囲まれてしまった。逃げている間に階下への穴からも離れてしまっている。
足を掴もうとするフーアを短剣で切りつける。だけど力が足りないせいで、ニャルクさんの風魔法みたいに切り落とすことができない。魔法を連発しているニャルクさんの息が上がり始めた。
真後ろからフーアにのしかかられて、膝をついてしまった。短剣を脇腹に突き立てるけど引かない。正面から掴みかかってきたフーアが口を開ける。まばらに生えた歯の隙間から臭い水が溢れた。
「ァオオオオオオオオーーーーンッ!!」
フーア達の呻き声を裂く遠吠えに体がびくつく。声の主を捜すより前に、長い毛を膨らませたバウジオが突っ込んできた。
「大丈夫かの~?」
ズシンズシンという地響きに紛れてイニャトさんの声がする。
「イニャト?! そんにゃのどこから連れてきたんですか?!」
「この階の端っこの方におったぞ~。ちと待っておれ、すぐ片づけるわい」
そう返すイニャトさんは頭上にいる。いや座ってる。
さわさわと音を立てる木の葉と、ギシギシと軋む幹の上部に光る赤い目。
「ほぉれ、突撃じゃ~!」
歩く木に乗ったイニャトさんが、ロボットを操作するみたいにフーア達に突進していった。
なんぞあれ?
▷▷▷▷▷▷
「気をつけて帰るんじゃぞ~」
バシャバシャと音を立てながら、沼の中を帰っていく木にイニャトさんが手を振って見送る。フーア達は蹴散らされたけど、1体だけ残った可哀想な奴がバウジオにガジガジ噛まれてる。
「さっきの木って、なんなんですか?」
尻餅をついたままニャルクさんに聞いた。どんどん水が染みていってるけど気にしてらんない。
「あれはマングローブという魔物です」
「マ、マングローブ?」
「闊歩する木、という異名を持つ木の魔物じゃ。普段は1ヶ所にとどまり養分を獲るが、養分がにゃくにゃったら自力で違う場所に移るんじゃよ」
もの凄ーく聞き覚えのある名前だな。
「儂の魔力を込めた種を首の裏に植えつけてやっての、ちょちょいと操ってここまで連れてきてもらったんじゃ。そしたらお前さんらが襲われとるではにゃいか! いやはや、マングローブがおってよかったのう」
「イニャトは下級の植物系の魔物にゃら操ることができるんです。普通の植物と違って精神をちょっと弄るだけにゃんで、使う魔力も少にゃくて済むんです」
「精神を弄る……」
さらっと言ってるけど結構えぐいな。
「イニャト達が後ろから来るとは思いませんでした。先を行ってるものだとばかり……」
「儂らが落ちたのは渓谷じゃった。そこの下の階が洞窟じゃったよ」
「僕達が目覚めたのが洞窟だから、階下だったんですね」
「にゃんにせよ、会えてよかった」
「ばっふばっふ!」
笑い合う兄弟猫に、噛み飽きたフーアを沼に放り落としたバウジオが加わる。
その後、ニャルクさんがポーションを飲んで魔力を回復してから、全員揃って下の階に向かった。




