第217話 魔石の行方
ご閲覧、評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます。
「なんじゃあ……?」
瞬きして見えた景色は焦土だった。どこもかしこも黒焦げ真っ黒け。でもところどころ濡れてる。また雨が振ったか? でも他の場所は乾いてる。何があったの?
「あ! ニャオだ!」
「まうー!」
赤嶺の声が聞こえてそっちを見れば、清ちゃんを乗せたまま駆け寄ってきてた。で、急ブレーキをかけたみたいに土埃を上げて止まる。あんた、ククシナさんが見えてなかったね?
「ニャオ、そいつ……」
「ククシナ! そいつを離しな!」
赤嶺の目の前に飛び出してきたそのさんが吠えた。そういやククシナさんに文句があるって言ってたな。
〖……あ、ナーファだ〗
ナーファ? それってそのさんの名前? 漣華さんの昔の名前が白漣みたいなやつ? 初めて聞いたわ。
「いつまで抱えてんだい?! そいつはあたしらの仲間だよ!」
うん、そうだね。今の私ってばテディベアの如く後ろから抱き抱えられて足ぷらぷらさせてるからね。そろそろ下ろしてほしいな。
〖ずいぶん親しいのね。そんなに気に入ってる子なの? 人間なんて短命の癖に口だけは1000年生きてるドラゴンよりも達者だって言ってたあんたが?〗
「いつの話をしてるんだい?!」
あら、そのさんそんなこと言ってたの? つーかククシナさん人の頭に顎なんか乗せて……。もしかして煽ってらっしゃる?
「……あんた、まさか忘れたとは言わないだろうね?」
〖何が?〗
「あたしの番の魔石を失くしたことだよ?! あんたのせいでどこに行ったかわからなくなっちまったんだからね?!」
〖……ああ、あれね〗
思い出したみたいに頷いたククシナさんに、ようやく地面に下ろされた。邪魔にならないように赤嶺達のところに行けば、清ちゃんがぴょんと肩に飛び乗ってきた。
「ニャオ、大丈夫だったのか?」
「しょわねえよ。話をするだけって言ったやろ?」
「……丸1日もか?」
え、そんなに経ってたの? 通りで太陽の位置がほとんど変わってないはずだよ。なんか自覚したらお腹空いてきたな。
「グランディオさんと他のみんなは? 漣華さんも見当たらんけど」
グランディオさんは赤嶺と清ちゃんと一緒に先に戻ったはずだよね? 漣華さんは結構な頻度でいなくなることが多いけど、ノザリエさん達の姿も見えないし、どこに行ったの?
「まう! まうまうー!」
「なんて?」
「レンゲ姉ちゃんはエルゲ達のところに行ってまだ帰ってきてないぞ。グランディオ達は狩りに行ったんだ。ニャオに礼がしたいんだってさ。あと故郷で待ってる仲間への土産にするんだって」
あらそうなのね。でも私への礼はいらないからその分故郷に持って帰っておくれ。
「赤嶺はみんなへのお土産は用意できたん? なんか狩るって言いよったけど」
「昨日の夜にユニコーンがいたから角へし折ってきた! これをお土産にする!」
おおう、ユニコーンの角とはまた……。本体は?
「体の方はどしたんね?」
「肉は不味いらしいから、皮とたてがみだけ剥いで近くの川に浸してるんだ。あれはニャルク達にやる。使い道がなければ売ればいいしな」
「まうー」
そうかいそうかい、まあいいんでないの? 肉は置いとけばどこかの魔物が食べるでしょうて。
「何をとぼけたこと言ってんだい?!」
あ、そのさんまだ怒ってる。まあ、番の魔石を失くす原因が目の前にいるからんだからしょうがないか。
〖怒鳴らないで〗
「怒鳴りもするさ! あんたのせいで散々苦労してんだよこっちは! なのに眠そうな顔なんかして、あんまりふざけたこと言ってると石にしちまうよ?!」
そのさん、さすがに精霊相手にそれはまずいんでない?
「そのさん落ち着いてください。旦那さんの魔石探しは私も手伝うので」
「あたしは! こいつに! 謝れって言ってんだよ?!」
うーん、なんかほんの少し前にも似たような光景を見たな。何を言っても聞いてくれないこの感じ。まあぶちギレ状態のククシナさんなんだけど。
〖ナーファ。ナーファ〗
「一度呼べば聞こえるよ?!」
シャーッ!! とそのさんが威嚇するけど、ククシナさんは全然怖がってない。さすがだ。
〖私、あの魔石がある場所教えたわよ?〗
「……は??」
なんて??
〖あの時、突然現れたアースドラゴンに追い回されて失くしちゃった魔石のことでしょう?〗
「そうだよ。あんたが下手に反撃したせいで、アースドラゴンのブレスに飛ばされちまった紫の魔石だよ」
〖そうそう。あれが落ちた場所を知ってるから、近くに生えてる木のうろに隠しとくって、地名と木の特徴と一緒に伝えたわよ? 人間とか他の魔物が見つけて拾うかもしれないからって〗
「いつ言ったんだいそんなこと?!」
〖アースドラゴンから逃げ切った後よ。ま、あなたは始終怒鳴り散らしてたから聞こえてなかったんだろうけど〗
「ちゃんとわかるように言いなよ?!」
〖聞かないあなたが悪いのよ〗
なんとまあ。
「ククシナさんククシナさん、その木はまだ生えてますか? 魔石は残ってます?」
〖ええ、あるわ。木が成長して幹が魔石を飲み込みかけてるけど無事よ。早く迎えにいってあげてね〗
そうだね。一段落したら漣華さんにお願いして連れていってもらおうね。場所知ってればいいけど。
「そのさん、今度はククシナさんにちゃんと魔石の場所を聞いといてくださいね?」
「……ああ、そうだね」
あれま。一気に勢い失くしちゃったよ。安心したのか、怒り続けていいのか、話を聞かなかった過去の自分に文句を言いたいのか……。どれだろうね?
いい加減お腹が鳴りそうだったから、マジックバッグに入れてたドライフルーツを取り出せばククシナさんが興味津々で近づいてきた。赤嶺達にもわけながらみんなで食べる。うん、甘くて美味しい。
その後は漣華さんとグランディオさん達の帰りを待ちながらいろんな話をした。ククシナさんは赤嶺達に謝ったし、赤嶺もククシナさんに謝ったから、こっちはもう大丈夫だね。そのさんは……、もう少し時間がいるみたいだけど、まあなんとかなるでしょ。




