第213話 アリシナさん
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文末の文章が途切れていました。申し訳ございません。修正して次の話に繋げますので、よろしければもう一度最後の方だけご確認ください。
〖私とアリシナとウルスナは同じ水源から生まれたの。人間の言葉を借りるなら姉妹ね〗
切った髪を受け取ったククシナさんは、壁際にある座るのに丁度いい高さの岩に腰かけた。
〖精霊の生まれ方には二通りあるの。自然から生まれる方法と、神々が仕えさせると決めて生み出す方法。後者で生まれた精霊は生み出した神に仕えるけど、前者で生まれた精霊はそれぞれが属する自然を司る神に仕える許可をもらわなければならなかった。私達の場合、水神リークェッラ様ね〗
あ、その名前聞いたことある。ニャルクさん達からこの世界の神話を教えてもらった時だったかな。
〖リークェッラ様は私達を選んでくださったわ。だけどアリシナだけは仕えることをお認めになられなかった。あの子は私達の中で一番脆かったから〗
「脆い、ですか?」
〖そう。アリシナは心が脆かった。生き物が死ねば涙を流すし、花が枯れれば悲しむ子だった。リークェッラ様は、ご自身に仕える精霊にそういう脆さを求めなかったの〗
それって脆いって言うの? 私の世界とは感じ方が違うのかな。
〖アリシナは選ばれなかったことをとても悲しんだわ。私はそんなあの子についていてあげたかった。だけどウルスナに叱られたの。せっかく選ばれたのだからアリシナの分も頑張るべきだって〗
「じゃあ、ククシナさんはもともと水神様に仕えてたってことですか? どの神様にも仕えてない精霊だって聞いてたんですけど……」
〖仕えてたわ。人間が生まれた頃までは〗
ん? 雲行きが怪しくなってきたぞ?
〖スィグ・ツァリドナ。あなたはこの世界の神々が人間からの信仰と崇拝を得ることで存在を保っていると聞いたことはある?〗
「えっと、それらしい話は教えてもらいました。確かそれらを得られない神と精霊は邪神と悪魔になる、だったかな……」
〖そう。でも神々が堕天するようになったのは人間が存在し始めてからなの〗
「なぜです?」
〖遥か昔、人間が存在しない頃は自然と共に生きるのが神々の在り方だったんだけど、最近になって生まれた人間という種族は知力が高いわりに臆病だった。神々はそんな人間達を守る為に精霊を世界中に配置なさったの〗
「はあ、そんな経緯があったんですね」
〖だけど神々の中には人間に興味を持たない神もいて、人間が生まれる前と同じ暮らし方をしていたの。それだけならよかったんだけど、その神は人間達が自分を信仰しないことに怒りを覚えるようになったのよ〗
あれま。いくら神と言えど、何もしてこない相手を信仰しろってのはさすがに無理があるんでない?
〖そしてその神は自身を信仰しない人間に、仕えている精霊をけしかけるようになった。虫の大群を操って作物を駄目にしたり、特定の人間に取り憑かせて暴れさせたりね〗
悪魔じゃん。
〖その頃から、神々の中に邪神と呼ばれる神が存在するようになったの。そしてそう呼ばれるようになった最初の一柱の名前はドレイファガスよ〗
「ド……」
めっちゃ聞き覚えあるー。
〖どうしたの?〗
「いえ、続けてください……」
〖人間達の中には、ドレイファガスのそういう悪い面に心酔する者達も現れ始めて、邪神崇拝の集団もでき始めたわ。神々はそれをよく思ってはいなかったようだけど、その手の奴らほどしぶといのよね〗
わかりますわかります。しぶとさは例の黒光りする虫と同じですよね。1匹見たら30匹のあいつと。
〖アリシナはリークェッラ様に選ばれなかったけど、少しでも役に立とうと頑張ってたわ。邪神を相手に慣れない戦いをしながらね〗
そう言って、ククシナさんは切った私の髪の毛先をくるくると回した。
〖私もずっと頑張った。いつかリークェッラ様がアリシナもお認めくださると信じて、頑張り続けた。でもアリシナは死んでしまった。リークェッラ様の像を壊そうとした邪神と戦って〗
ククシナさんが、私の髪をギュッと握り締める。
〖その報せを持ってきたのはクァーディーニアだった。私は遠く離れた場所で、新しい土地に集落をつくった人間達に井戸を掘る場所を教えてる最中だったの。別の精霊に後を頼んで駆けつけたけど、アリシナは魔力の残滓をわずかに感じ取れるぐらいに散ってしまってたわ〗
「……ご遺体とかは?」
〖ないわ。精霊は滅多なことでは死なないけど、死ねば自然に還るの。だからアリシナは水に還ったの〗
どこからか紐を取り出したククシナさんは、私の髪を短く結んで、膝に置いた木箱を開けて中にしまった。
〖私はリークェッラ様に喰ってかかったわ。あの子を選んで、加護を授けてくださってさえいれば、邪神相手に殺されることなんかなかったのにって。そして私はリークェッラ様のもとを離れたの。ウルスナとは喧嘩別れをしてしまったわ〗
ああ、私が見たのはその瞬間だったのか。まさか姉妹の別れだったとは。確かに、2人共悲痛な表情だったもんな。




