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余話第37話 ナーファの力

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。


総合評価1600に達しました! ありがとうございます!


昨夜は地震もなく熟睡できました。が。寝不足です(笑) 揺れた地域にお住まいの方、充分お気をつけください。

「えーっとぉ、“道導の髪飾り”と“鷹王の眼”と“サナシェの爪先”とぉ……、あ! “迷い羊”も持っていかないとねぇ。あと必要な物はぁ……」


 私物であるマジックアイテムをマジックバッグに詰めながら、あれもこれもと忙しなく動き回るイヴァの姿に、止まり木で休んでいたカフクルはため息をつくようにキュルルゥと鳴いた。


「イヴァ、何をしているんですか?」


 コンコン、と開いていた扉をノックしながらエルゲが部屋に入ってくる。


「ちょっとぉ、今忙しいんたから後にしてくれるぅ?」


 振り返りもせずに戸棚を漁るイヴァの後ろ姿に、エルゲは苦笑を漏らした。


「禁足地へ行く準備ですね?」

「そうよぉ。私は中には入れないけどぉ、マジックアイテムを使えば森の中を覗けるんじゃないかと思ってぇ。だから邪魔しないでねぇ。忘れ物があったら困るからぁ」


 ひらひらと手を振るイヴァに、ふむ、と困ったように顎に手を当てたエルゲは眉を寄せた。


「準備の邪魔をするつもりはありませんが、はあ、困りましたねぇ」

「なんなのよぉこれ見よがしにため息ついちゃってぇ。言いたいことがあるなら言いなさいよぉ」


 少しばかり、イラッとした様子でようやくイヴァは振り返った。エルゲは眉尻を八の字に下げたまま、しかし微笑みを浮かべた。


「ガレン副団長から指定された召集の時間まで10分を切ってしまいましたが、そちらの準備はしなくていいんですか?」

「……あらぁ?」




 ▷▷▷▷▷▷




「遅かったじゃねえか」


 先にガレン副団長の部屋に来ていたアーガスが、時間ギリギリで駆け込んできたイヴァとエルゲに呆れ顔で言った。


「う、うるさいわねぇ、はあ、ま、間に合ったんだから、いいでしょお?」

「次からはもう少し余裕を持って行動してくださいね」


 膝に手をつき、肩で息をするイヴァの隣で、涼しい顔のエルゲが言えば、イヴァはギロリと睨みつけた。が、言い返せない。呼吸を整えるので精いっぱいだった。


「すまない、待たせてしまった。……イヴァンナ、大丈夫か?」


 副団長に与えられた部屋の、さらに奥の小部屋から出てきたガレンがイヴァの様子にわずかに目を見張った。


「だ、大丈夫です。お話を、お願いします」


 唾を飲み込み、体を起こしたイヴァは姿勢を正してガレンを見つめた。ふむ、と頷いたガレンが窓際に立つ。


「ナオ殿との合流予定日まで1週間を切った。各々、準備は進んでいるか?」

「はい、ガレン副団長」


 頷いたエルゲが懐から1枚の書類を取り出した。


「出立は明後日。ルーバンシェ町でナオさんと合流した後は、ユルクルクスの魔法陣を使用させてもらって、同行するバジリスク、ソノさんを交えて禁足地へ向かい、エルドレッド隊は森の外で待機。変更はありません」

「ナオ達に預けるマジックアイテムも準備済みです。俺が確認しました」

「私は個人で所持しているマジックアイテムを使います。禁足地に張られた結界相手にどこまで通用するかはわかりませんが、可能な限りの用意は整えております」


 エルゲとアーガス、協力者であるイヴァの報告に、ガレンは満足そうに頷いた。


「相手は神に仕えぬ精霊。油断してはいけない。慢心など以ての外だ。皆、ナオ殿の足を引っ張ることにならぬよう、重々気をつけよ」

「「「御意」」」


 エルゲ達と一緒に頭を下げたアーガスは、ガレンの机に置かれてある見慣れない箱に気づいた。


「すみません、ガレン副団長。その箱は?」


 アーガスの目線を追って箱を見たガレンは、ああ、と言ってそれを持ち上げた。


「これか。よく気づいたな」

「いえ、副団長は机にあまり物を置いたままにされないので」


 頬を掻くアーガスの横っ腹を、イヴァが肘でつついた。


「アーガスってばぁ、そんなこと聞いちゃ駄目じゃなぁい。私物だったらどうするのぉ?」

「そりゃそうだが、聞いちまったもんはしょうがねぇだろ」

「2人共、やめなさい」


 小声で言い合いを始めた2人にエルゲが微笑みながら止めに入ると、ガレンが片手を上げて制止した。


「構わんよ。これはイニャト殿から送られた物だ」

「イニャトさんから?」


 予想だにしなかった人物の名前に、3人は目を丸くした。


「ナオ殿の為にエルドレッド隊を派遣してくれてありがとう、という手紙と共に、ペリアッド町の斧のギルマス経由で届けられた。見てみなさい」


 箱を開けたガレンが見やすいように傾ければ、エルゲ達は揃って小さな箱を覗き込んだ。


「これは、蒼い林檎ですね?」

「おお、懐かしい」


 柔らかい布と一緒に箱に入れられていたのは、トールレン町で活躍した蒼い林檎の実だった。海のように濃い蒼が、窓から射し込む陽を反射して輝いている。


「確か、ヴァルグの弟が苗を販売してたよな? 貴族達が買い取ろうと金を積み上げてるのを見たぜ?」

「私が見かけた時はぁ、苗1本で3000万エルの値がついてたわぁ。あの後どうなったのかしらぁ?」

「もっと跳ね上がってそうですね……」


 あはは、とエルゲが笑った。ガレンが蒼い林檎を箱から取り出す。


「届けられた蒼い林檎は2つだった。1つは私に、もう1つは団長宛だ」

「団長にもですか?」

「そうだ。そしてこの2つの蒼い林檎には魔法がかけられてあった。ナーファ殿、いやソノ殿の魔法だ」


 バジリスクの? とイヴァが首を傾げた。


「左様。防腐魔法と、いざという時には薬になるように特殊な魔法がかけられている」

「薬、ですか?」

「そうだ。ソノ殿のユニークスキル、〈転じる毒〉の効果だな」

「〈転じる毒〉?!」


 スキル名を聞いて大声を上げたイヴァは、慌てて口を両手で覆った。


「ガレン副団長、〈転じる毒〉とは確か、あらゆる毒を別の効果のある毒へと変化させるユニークスキルですよね?」

「そうだ。ソノ殿は目に関するレアスキルを所持しているが、それとは別にユニークスキルを持っている。ナオ殿が魔物化しようとしていた時は、エルフと協力して薬に変化させたのだろう」


 そして、と言って、ガレンは蒼い林檎の肌を指で撫でた。


「この実からも〈転じる毒〉を感じる。おそらくは、大抵の毒を解毒できるようになっているはずだ。それこそ、ユルクルクスほどの魔力を持つ魔物の毒すら消せるほどのな」


 そう言って、ガレンは蒼い林檎を箱に戻し、蓋をした。


「此度の任務で、お前達ができることは少ないだろう。森へは入れない上に、魔法も届かない。だから、ナオ殿の成功を祈り、帰りを待ちなさい。余計な魔物が森へ入らないよう目を光らせながら。よいな?」

「「「御意!」」」


 力強く頷くエルゲ達に、ガレンは薄く微笑んだ。

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