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余話第3話 ステータス

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「名無しさんがフアト村に?」


 アシュラン王国にある私室で書類整理をしていたエルゲは、ライドの報告に目を見張った。


「我々がフアト村を離れた後に入村したようで、現在は村から出ているそうです」

「あぁ~、失敗した……」


 ガンッ、とエルゲは机に頭をぶつけた。

 行方不明となった異世界人を捜してフアト村に立ち寄ったエルドレッド隊だったが、数日滞在しても一向に現れなかった為都市に戻り、それらしい人物が入村したら報告するよう手紙を送ったのが昨日だった。


「完全に入れ違いでしたね。どこに行ってたんだろう……」

「フアトのギルマスに言ってなかったのが禍したな」


 開いていた扉からアーガスが入ってきた。


「だけど、ドレイファガスの隠し教会が近くにあっただけじゃなく禁忌を犯したなんて、気分のいいものじゃないでしょう?」

「その結果がこれだろうが。俺の言うこと聞いて、素直にその場で一から説明してそれらしい奴が来たら足止めするよう頼んどいた方がよかったじゃねえか。手紙だって送る機会は今までいくらでもあったのに」


 眉を吊り上げるアーガスに、エルゲは項垂れる。ライドが片手を挙げた。


「それと、教会から逃げていた猫獣人が捕まりました。ギルドで騒ぎを起こしたみたいで」

「騒ぎ?」

「はい。報告書によると、教会の物を盗んだ者の捕縛を依頼しようとして、ギルドの職員達に相手にされなかったんだとか」

「それで怒ったと? 器物損壊か?」

「いえ、近くにいたケット・シーに怪我をさせたらしく、暴行罪で捕まったそうです」


 それを聞いたアーガスは、腕を組んでため息をついた。


「依頼書に書いていた内容によると、捕縛の対象は名無しさんで、盗品は短剣。教会から出る際保管庫から盗んでいったとか」

「お前、また報告書盗み見たのか?」

「人聞きの悪いこと言わないでください! 隊長以外が読んでいい箇所しか読んでません!」

「がっつり読んでんじゃねぇか……。つーか、連れてこられたばっかの右も左もわからねぇ、言葉すら通じねぇ奴が保管庫なんざ行けるわけねぇだろうが」

「ですよねぇ。でもその名無しさん、ケット・シーと話してたそうですよ」

「え? どうやって?」

「にゃんにゃん言ってたって書いてましたけど」

「「……にゃんにゃん?」」


 エルゲとアーガスがぽかんとする。


「で、ギルマスは短剣を名無しさんから見せてもらったそうで、これも報告書と一緒に“伝書箱”で届きました」


 そう言ってライドは紙の束をエルゲに渡した。1枚目は細部まで描かれた短剣の絵だ。横からアーガスが覗き込む。


「刀身が特徴的ですが、さして珍しい物ではないと思うんですけど……」

「……いや、これはまずいですよ。まさかドレイファガスが持っていたとは」


 エルゲが眉間を摘まむ。


「ライド。お前、バンパイアシーフを知ってるか?」


 アーガスの問いにライドの耳がピンと立つ。


「もちろん知ってますよ。昔話にも出てくる有名なバンパイアでしょう?」

「ああ。レアスキル〈シーフ〉を持った純血のバンパイア。吸血した相手の能力を奪う厄介な魔物だ」

「バンパイアシーフは心臓を貫かれて死んだ後、杭を柄に、自身を刀身に、マントを鞘に変えたと伝えられています。それがマジックアイテム“バンパイアシーフの短剣”」


 フアト村のギルドマスターが描いた短剣の絵をパシンと叩いたエルゲに、ライドは目を丸くした。


「えっ?! これがマジックアイテム?!」

「神々が見守った戦争で使われて以来行方知れずだったんだ。なんせこれはバンパイアシーフの能力そのものを使えるマジックアイテム。狙う奴は多かった。だが短剣そのものは使用者を選ぶ類いの物で、使用者以外が持つと刀身が黒く染まってただの刃物になるらしい。血を飲ませることは誰にでもできるみてぇだが」

「精霊の血を飲ませれば精霊の力を、ドラゴンの血を飲ませればドラゴンの力を使えるようになりますからね。しかも血の量が多ければ多いほど効果は続く。戦争向きな上に使用者が限られる、奪い合い必須の品なんですよ」

「商人ギルドのギルマスが見たらわかったかもしれねぇが、冒険者ギルドのギルマスはそっち方面はてんで苦手だからな。フアトのは特に」

「この絵は細かく描かれいてますが、ところどころ荒い。後になって商人ギルドのギルマスに話したところ、マジックアイテムとわかって慌てて描き出した、といったところでしょうか」


 エルゲは絵と一緒に受け取った報告書に目を通す。


「……なるほど。冒険者ギルドのギルドマスター直々に問い質した結果、猫獣人は追い出す異世界人の荷物に短剣を紛れ込ませて教会の外に出してから奪い返し、金に換えるつもりだったみたいですね」

「盗人はてめぇじゃねえか」

「ええ本当に。あ、ギルドマスターの走り書きがありますよ」

「なんて書いてます?」

「知識が足りずに申し訳ないが、次からはちゃんと説明するように、ですって」


 あはは、とエルゲは笑った。


「当然だな。自分の管轄する村の近くでこんなことがあったのに事後報告なんかたまったもんじゃねぇ」

「完全に失敗でしたねぇ……ぶふっ!」


 突然吹き出したエルゲにアーガスが怪訝な顔をする。


「なんだよ?」

「い、いや、ここに書いてることが、ふ、ふふっ、ふふふっ」

「だーもう貸せ!」


 報告書を奪い取ったアーガスが目を通し、同じように吹き出した。


「え? なんですか? エルゲ隊長? アーガス副隊長?」


 笑ってしまって言葉が出ない2人におろおろしていたライドは、失礼します、といってアーガスの手から報告書を抜き取った。


 ーー以上が、猫獣人マッカーについての報告となります。なお、短剣についてケット・シーを通して異世界人に確認したところ、鶏と兎を捌いた、とのこと。戦争の後半で使用されたと記録されているサラマンダーの能力は上書きされたと思われますーー


 ライドも吹き出した。




 ▷▷▷▷▷▷




「どうしたんですか?」


 1枚の紙を持って入室してきたオードは、笑い転げる同僚と肩を震わせている上司2人を見て踏みとどまった。


「いや、き、気にしないでオード、ふふ、大丈夫だから、ぷくくっ」

「大丈夫な奴は上司への報告書ぐしゃぐしゃに握り締めたりしねぇよ」


 オードがライドの頭をパンと叩いた。


「いえ、本当に気にしないでください。用はなんですか?」


 2、3度深呼吸したエルゲがオードに向き直る。オードは手に持っていた紙を差し出した。


「イヴァ姐さんから預かりました。名無し殿のステータスにあった隠された文字がわかったそうです」


 真剣な顔つきに戻ったエルゲがイヴァからの報告書を受け取る。次いで、ライドの持ってきた報告書を再度受け取って続きを読んだ。


「……名無しさんは怪我をしたケット・シーともう1匹のケット・シー、大型の黒犬と一緒に旅立ったそうです。レイエル町の話をしているのを門番達が聞いたみたいですね」

「じゃあ次はレイエル町か」

「ライド、騎竜隊に連絡を取ってください。レイエル町へ向かう準備をするよう伝えて。オードはガレン副団長に報告を」

「「は、はい!」」

「隊長、どうしたんだ?」


 犬獣人達を見送ってから、アーガスがエルゲに問いかけた。


「あまり時間がありません。アーガスも準備してください」

「おい! だからなんだってんだよ?!」


 報告書を机に置いて部屋から出ていくエルゲをアーガスは追いかけた。窓から入る風が、イヴァの報告書をカサリと揺らす。




 鑑定者:イヴァンナ・ベルベロッド

 行方不明となっている異世界人のステータス鑑定結果は以下の通り



 氏名      : ホシミネ ナオ

 種族      : 人間

 出身      : 異世界 ニホン

 称号      : 水神の祠守

 スキル     : なし

 レアスキル   : なし

 ユニークスキル : 水神の掌紋

 加護      : 水神の加護



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