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第183話 封印

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

 通されたのは居間の隣の仏間だった。いつもは開けてある仏壇の扉が閉ざされてる。閉じてたとこなんて見たことないのに。


「では、お話を始めましょう」


 誰かが用意したのか、2枚の座布団が敷かれてある。水神さんが毬を膝に乗せて座ったから、私もその向かいに正座した。


「あの、何を教えてもらえるんでしょう?」

「そうですね。何から知りたいですか?」


 おっと、そう来たか。


「あの、異世界に言ってから人間と言葉が通じなくて困ってるんです。どうして私は異世界の言葉が喋れないんですか?」


 まずはこれよね。言葉さえわかれば異世界とはいえまだ生きやすかっただろうに。他の異世界人は話せてたっていうのに、なんで私は話せないんだ?


「それは私が封じたからです。あなたを守る為に」

「私を?」


 どういう意味?


「あなたが召喚された世界には、過去に私が存在する世界から連れていかれた者が何人もいます。そしてその多くが誑かされ、騙され、傷つけられました。ここ数百年、喚ばれる者はいなかったのですが、私を祀る家の者が喚ばれたと知り、あちらへ行き着く前に、人間との言葉の繋がりを封印しました」

「それは、酷い目に遭わせない為、ですか?」

「はい」


 にこにこしたまま水神さんが言った。神の封印なんて、随分強力なもんがかけられてたんだな。


「でも、ニャルクさんとかイニャトさんとか、話せる人は……、人? まあ言葉が通じる方はいますよ?」

「ええ。人間ではなく、あなたにとって害にならず、それでいて知能の高い者とは言葉を交わせるようにしています。あなた達が永く私を祀り続けてくれたおかげで、その程度なら干渉できますから」


 つまり、代々祀り続けたから、ただの封印じゃなく条件つきの封印が可能になったってことか。ご先祖様々だな。


「そちらの世界にはまだ白漣がいますね? 大五郎も」

「白漣? 大五郎? ……あ、はい、一緒にいますよ。いつもお世話になってます」


 漣華さんと福丸さんのことか。そういや昔はそんな名前だって言ってたな。


「その者達が守っていたシヅも、この世界から喚ばれた娘です。シヅには闇淤加美神(くらおかみのかみ)が加護を与えていたので詳しくは知りませんが、白漣と大五郎については何度か聞かされました。とても心強い味方だと」


 そりゃそうでしょうとも。だってSSランクの魔物だもん。


「本来であれば、あなたにも白漣のような味方をつけるべきだったのですが、封印と加護に力を使ってしまって後手に回ってしまいました。そうしている間に白漣達と合流されたので、しばらく様子を見させてもらったのです」


 え、私にも漣華さんみたいな仲間ができるはずだったってこと? いやいやいや、最初の頃ならありがたいけど今はもうお腹いっぱいだよ。ユルクルクスにベアディハングにバジリスク原種と、そうそうたる顔触れがそろっちゃってるんだからさ。おまけにドラゴンも親仔で計8人だよ。結構な大所帯だよ。


「あの、私にはもう頼れる仲間がたくさんいますので、もう大丈夫です。ええ、みんなとても強いですから」

「いいえ、そういうわけにはいきません」


 なんでよ。そこは頷いてよ。


「闇淤加美神がシヅに白漣を与えたように、私もあなたに与えねばなりません。その為の準備は整っています」

「いえいえ、ほんと、お気になさらず……。え? 整ってる?」


 思わず聞き返せば、水神さんは一層キラキラした笑顔で頷いた。


「はい。あなたが住む森に神の繭がいるでしょう? 清ちゃんでしたか、あの仔がそうです」


 まさかの清ちゃん?! なんであの仔なの?! いや清ちゃんじゃ嫌だってわけじゃないけどさ……。


「清ちゃんには少し前から私の気を注ぎ続けています。あのせせらぎに住むようになってからですね。ほら、体の色が変わっていたでしょう? それが充分な気を蓄えられた証拠です」


 確かに清ちゃんは森の水神さんの近くに住んでるけども。住んでるけども!


「待って待って待って、待ってください。清ちゃんの体の変化は水神さんに気を注がれたからってことですか? そういう意味ですよね?」

「そうですよ。あなたが森に帰る頃には、清ちゃんの魂と私の気が完全に一体化しているでしょう。そうなれば、水に常に入っていなくても過ごせるようになるはずです。これからはずっと一緒にいられますね」

「そうですねぇ。じゃなくて」


 いかん、頭がくらくらしてきた。え? 清ちゃん私のせいで体をつくり変えられたってこと? そうなの? 申し訳なさ過ぎてどうしたらいいのかわからないんだけど。


「……あの、もう2人体が変色してる人達がいるんですけど、その人達は?」

「彼らには気を注いではいません。ただ、魂が清ちゃんと近い波長をしていますから、影響を受けてしまったんでしょう。大丈夫、清ちゃんが落ち着けば元に戻りますよ」

「……そりゃどうも」


 そっちはとりあえず安心ってことでいいのかな? あの2人まで私のせいで変化したなんてなったらそれこそイニャトさんとアースレイさんにどう謝ればいいのかわからないよ。


「そういえば漣華さん……、白漣さんも、クラオカミ様に加護を授かってから体が変化したって言ってましたけど、清ちゃんも龍神様みたいになるんですか?」

「それはわかりません。何せ神の繭に加護を与えた神がいませんから」


 あ、そうですか。


「それで、何か聞きたいことはありますか? もう少し時間がありますので、まだお答えできますよ」


 聞きたいこと。聞きたいことか。


「あの、問題なければでいいんですけど……。私の家族は、どうしてますか?」


 聞きたいけど聞きたくない。でもこんなチャンス二度と来ないだろうから聞かないと。


「皆さん悲しんでいます。あなたがいなくなって、ずっと捜していますよ」

「……そうですか」


 聞かなきゃよかった。


「あの、私が無事だってこと、どうにかして家族に伝えることはできませんか? 会いたいだなんていいません。元気だってことだけでも伝えたいんです」


 私だって、家族の誰かが急にいなくなれば心配するし捜しに行く。なんでもいいから知りたいって思う。帰れなくても、会えなくてもいいから、元気だって伝えたい。


「では、私があなたの家族に夢を見せましょう」

「夢?」

「はい。詳しいところはもやで隠して、あなたの元気な姿を家族全員に見せましょう。そうすれば、少しは心が晴れるのではないでしょうか」

「……そう、ですね。お願いします」


 解決にはならないけど、それ以外方法はない、か。

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