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余話第34話 新たな取引

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。


急遽余話の更新となりました。次は本編の予定です。


どうにか毎日投稿を続けることができました。おつき合いいただきありがとうございます。

よいお年を(`・ω・´)ゞ

「あー……、悪いがもう一度説明してもらえるか?」


 杖のギルマスの部屋で、ソファーに腰かけてこめかみを押さえていたヴェイグは難しい顔をしたまま言った。


「じゃから、儂らの家におる神の繭の体調がおかしいんじゃ。体が青く変色して、光ったり消えたりしよる。お前さん、この症状に何か心当たりはにゃいか? 王都の本にゃどに何か書いてにゃかったか?」


 テーブルを挟んだ向かいのソファーに座っているイニャトが返した。隣に座るアースレイは素知らぬ顔で壁に貼られた地図を眺めている。


「なあ、杖のギルマスさんよ。今聞かれてる神の繭ってのは、あれ……、のことだよな?」

「ええ、穴潜り、ですね。確かに報告はされています。〈水神の掌紋〉保有者の身内に1匹いると。購入したのは同じ森に住んでいる兎人の姉の方ですが」

「ラングエルディか。なんでまた……」

「……そういう用途で購入したらしいですよ。まあニャオさんに叱られて取り上げられたみたいですけど」


 ヴェイグと杖のギルマスが小声で話すのを、アースレイは聞こえ過ぎる耳で聞いていた。いたたまれずに咳払いをすれば、ヴェイグ達がパッと顔をこちらに向ける。


「いやあ、聞いたことないな。穴……、神の繭だろ? 俺の周りにもその種類を飼ってる奴は、まあいるにはいるが、そもそも話題に上がることがなかなかないからな」

「にゃぜじゃ?」

「なぜって……。そういうもんなんだよ」


 はあ、と大きなため息をついて、ヴェイグは項垂れた。杖のギルマスが、ぽん、と落ちた肩を優しく叩く。さすがに申し訳なく思ったアースレイが、助け船を出すようにイニャトに声をかける。


「一般人にはあまり知られていない種だからね。ヴェイグさんが詳しくなくても仕方がないよ。他を調べよう。姉さんの体調も気になるし、果実を渡して家に帰ろう」

「ふむ、そうじゃのう。マサオミ殿がおるとはいえ、やはり姉は心配じゃのう。シシュティ……、姉……。そうじゃ、身内じゃよ!」


 閃いたように笑ったイニャトに、アースレイ達が目を丸くする。


「ヴェイグよ、お前さんはサスニエル隊のヴァルグ隊長殿の弟にゃんじゃろ?」

「そうだ。三つ子の真ん中だ」

「三つ子?! その顔がまだおるんか?! ま、まあよいわ。お前さん、ヴァルグ隊長殿にキヨの件を聞いてみてくれんか?」

「「「えっ」」」


 イニャトの提案に、他の三人の声が揃う。


「い、いや、それはちょっとな……。確かにあいつは隊長として勉強しちゃいるが、その手のことに関しちゃ畑が違うというかなんというか……、なあ?」


 神の繭の話題を兄に振る自身を想像したヴェイグは、だらだらと冷や汗を流しながら杖のギルマスに助けを求めた。


「え、ええ、そうですよイニャトさん。サスニエル隊と言えど、この件に関しては情報は期待できないでしょう。彼らの専門外です」


 ヴェイグと目を合わせ、うんうんと頷きながら杖のギルマスが言えば、うにゃあ……、とイニャトが唸った。


「そうか、無理か。お前さんが何かしら情報を掴んでくれたら、卸す品に色をつけることも検討しようと思ったんじゃがのう……」

「……色?」


 ピクリ、と反応したヴェイグが身を乗り出す。ギョッとした杖のギルマスが引っ張り戻そうとするが、動かない。


「実は、蒼い林檎の苗木をまた増やせたんじゃ。カルカニャの祭で予約しとった者達には行き渡っとるから、キヨのことで手助けしてもらえればお前さんに、特別に、タダで渡そうと思っとったんじゃが、それが無理とにゃれば、あの10本はやはり森に植えるかのう……」

「イニャトよ、この件引き受けさせてもらうぜ」


 キリッと顔つきを変えたヴェイグが言った。


「にゃんと! 本当かヴェイグよ!」

「ちょちょちょっ、ちょっと待って!」


 慌てて立ち上がったアースレイが回り込み、ヴェイグの腕を引いて部屋の隅まで引きずるように移動した。


「なんだよ、痛ぇだろうが」

「そんなことどうでもいいよ! ヴェイグさん、本当に引き受けるのかい? キヨちゃんは確かに僕達の仲間でわずかな情報でもほしいところだけど、穴潜りなんだよ? ヴァルグ隊長になんて聞くつもりなんだい?」

「んなこた後で考えるさ。それより俺は蒼い林檎の苗木がほしい!」


 小声だが、はっきり言い返したヴェイグにアースレイは気圧された。


「あの蒼い林檎を実らせる苗木だぞ! 王都にはそれがほしくてほしくて堪らない貴族連中がごまんといるんだ! まさに金のなる木なんだ! これを断る奴は商人じゃねえ!」

「だからってねぇ……」

「お前知らないのか? ニャオが助けたトールレン町では蒼い林檎の巨木をシンボルにして町起こしをしてるんだ。魔虫を駆逐したような効果は残ってねえが、実はまだ実り続けてるからな。しかも枝は毎日水を新しくすればいつまでも蒼い葉を瑞々しくつけ続けるらしい。枝についた実も同じだ。葉だけの枝が100万エル、それに実がつけば倍の値になるんだぞ!」

「そ、そんなに?」

「そうだ! だがあの町の町長は、蒼い林檎の巨木はあくまで町に来て目で楽しんでもらうものとして扱ってるんだ。〈水神の掌紋〉保有者から与えられた大切な木を容易く傷つけるわけにはいかないってな」

「でも、枝を売ってるんだろう?」

「ほしがる奴が多過ぎたから、月始めに実ありと実なしを10本ずつだけ売るって決めたんだ。賄賂なし不正なしの完全くじ引き制の上、一度でも買った奴は除外にしてな。その収入は町の補修とか新しい施設の建設に使われてるって聞くが、ニャオに渡す分も置いてあるそうだぞ」

「し、知らなかった……」

「最近じゃあ枝やら実やらを盗もうとする奴らが出てきたってんで、腕の立つ冒険者を雇って見張りを立たせてるぐらいだ。それほどに有名なんだよあの蒼い林檎は」


 だからこそ! とヴェイグは息巻く。


「その苗木をもらえるってんならヴァルグだろうがヴォレグだろうが頼らせてもらうさ! 商人としてこの機会を逃すわけには行かねえってんだ!」

「ヴォレグって誰だい?!」

「弟だ! 王都に研究室持ってるぜ!」

「多彩な三つ子だね?!」


 満面の笑みで拳を握り締めるヴェイグに、アースレイはそう返すことしかできなかった。

 ソファーでは杖のギルマスがぽかんと口を開け、向かいではイニャトが満足そうに紅茶を飲んでいる。にゃんふふ~ん、という場違いなイニャトの鼻歌に耳を傾ける者は、この部屋にはいなかった。

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