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第174話 ランク

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

『……』

『……』

『……』

『……』

「……おい、こやつらは働く気があるのか?」

「そりゃもちろん」


 どうにかこうにか漣華さんを説得して、森にレアリアンドさん達を招き入れた初日、獅子獣人達は揃って硬直してしまった。


「固まっちまってまあ。バウジオ、ちょいと脅かしてやんな」

「ばっふ」


 そのさんの一声で走り出したバウジオが、獅子獣人達の背後に回ってマーニガンさんのお尻に噛みついた。もちろん甘噛み。それでも充分驚いたみたいで跳び上がってた。他の3人も一緒に。


「にゃんじゃ? 何を遊んでおる?」

「なんでもないです。ただの気付けですよ。気付け」


 イニャトさん、準備ありがとうございます。さっさと始めましょう。作業してたら緊張なんてほぐれるからさ。




 ▷▷▷▷▷▷




 最初こそ漣華さんを気にして手元が覚束なかったレアリアンドさん達だけど、お昼ご飯を食べてからはだいぶ落ち着いたみたいで仕事に集中し始めた。

 男性陣は兎人姉弟と収穫、女性陣はニャルクさんと一緒に選別してもらってる。イニャトさんと私は梱包だ。


「人手が4人も増えると作業が捗るのう」

「そうですね。これならヴェイグさんがほしい量を確保できそうです」


 ヴェイグさんにはまだ納品依頼を受けるかの返事はしていない。レアリアンドさん達の手伝いがあって、どれぐらい収穫量を増やせるかで決めるつもり。


「しかし、あやつが言うていた量はかにゃりのもんじゃったぞ? 間に合うかのう?」

「まあ、本当に受けるとなれば納品できる状態になった分からすぐに渡せば問題ないでしょう。転送魔法を使えば王都まで一瞬なんですよね?」

「うむ。それにゃりの大きさがある町や村のギルドにはその魔法が使える者がおるからの。もちろんペリアッド町にもおるぞ。利用料はちと高いが、それ以上の収入が見込めるのにゃら商人達は迷わず使う」

「陸路だと時間がかかりますもんね」

「そうじゃのう。まあヴェイグは騎鳥便を使ってここまで来たらしいから、あまり時間はかからんかったようじゃよ」


 ん? 騎鳥便?


「騎鳥便ってなんです?」

「おお、知らんかったか。騎鳥便とは空路のことじゃ。騎竜隊がユランを飼い慣らすように、騎鳥便ではキガンという魔鳥を飼い慣らして遠方への移動手段としておる。キガンは魔物ではあるが、温厚で人間によく懐くんじゃよ」


 へえ、見てみたいな。


「でもそれってやっぱり高いんじゃないんですか?」

「当然高い。じゃから普通の商人は陸路を馬で行くんじゃよ。騎鳥便を普段使いできるのはAかSランクの商人じゃろうにゃあ」


 はあ、なるほどねぇ。


「まあ儂らにはレンゲ殿がついておるから移動については心配にゃいわい。無駄遣いはもちろんせんが、必要であればユニークスキルを使ってくれるからのう」

「そうですね」

「じゃが一度体験してみるのもいいかもしれん。今度乗ってみるか?」

「え、一緒にですか?」

「馬鹿たれ。儂は乗らんわ。お前さんだけ行け」


 つれないなぁ。


「いやですよ。漣華さんがいいです。それに、それこそお金の無駄遣いじゃないですか。AとかSランクの商人が使うようなのなんていらないですって」

「……もしやお前さん、自分のランクを知らんのか?」


 ……そういえば知らないな。商人ギルドに登録はしたけど、ランクまでは確認してない。でも登録してまだ1年未満なんだから低いでしょ?


「お前さんAランクじゃぞ?」


 わーお初耳。


「なんでそんなに高いんです? 私のランク」

「理由はいくつかあるぞ。まず一月の内に稼ぐ額じゃ。儂は苗木を主に売っておるからそこまでランクは高くはにゃいが、お前さんは果実を売っておるじゃろう? ハノア農園とレストラン・ロニャンデラが中心じゃが、その売り上げは見事にゃもんじゃ。その上依頼があれば他のところにも短期で卸すこともあったじゃろう?」

「ええ、何件かありましたね」

「そして今回ペニー・ハニーにも卸すのが決まった。総額はそこらの商人を遥かに超えておるよ。そして収入源である果実と蜂蜜はお前さんにしか用意できん物じゃから、ちっと前にAランクに引き上げられたんじゃ」

「私の知らないところで?」

「お前さんの知らんところでじゃ」


 教えてよ。


「あれ、でも待ってください。イニャトさんのランクはなんなんです?」

「儂か? 儂はCランクじゃ」

「なんでCなんですか? 卸しとか金額の設定とか全部イニャトさんがやってくれてるのに」


 私だけで果実を売ってるわけじゃないよ。イニャトさんとニャルクさん、他のみんなが手伝ってくれるから卸せてるんだ。なのになんでイニャトさんがCなのさ?


「儂の販売品の中に果実やら蜂蜜やらは入れておらんからの。当然のランクじゃ」

「いやいやいや、いつも手伝ってもらってるのに申し訳ないですよ。蜂蜜は水神さんの力を借りて集めてるわけじゃないんですから、せめてそっちだけでも販売品に入れてくれません?」

「それはにゃらん。コーカルゥセイボウ達が集めておるのはお前さんが咲かせたシスレンの蜜じゃ。そしてコーカルゥセイボウ達そのものも、マサオミ殿がお前さんへのお礼にくれたもの。儂が利益を得ていいものではにゃい」


 う、そう言われると……。でも絶対に身の丈に合ってないってAランクなんて。


「それに、儂もちゃんとお前さんの恩恵を受けておるんじゃよ?」

「え? なんです?」


 そう聞いてみると、にやり、とイニャトさんは笑った。


「果実を売るお前さんと一緒におる儂が果樹を売れば、もちろん買い手がつく。おかげで過去ににゃいぐらい稼げておるわい。いやあ、ニャオ様々じゃよ。にゃっほほほほほほ」

「……そりゃよかったです」


 そういう恩恵ね。本人がそれでいいならいっか。

 夕方になると、狩りに出てた仔ドラゴン達と美影さんが帰ってきた。獲物は空飛ぶ蛇のアンピプテラだ。騎竜隊か? 騎竜隊の話をしたからか? しかもこいつ私がうっかり氷漬けにした奴よりもでかいな。

 漣華さんと福丸さんは満足そうだし、美影さんは得意げだし、仔ドラゴン達は褒めて褒めてと騒がしいし、獅子獣人のみんなは興奮しっぱなしだしで賑やかな夜になった。仔の成長は早いね。うん。

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