第167話 晴天
ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。
余話含め、200話目の投稿となりました。毎日よく続けられたものだ、と自分でも驚いています。
終わりはまだまだ先ですが、最後までおつき合いいただけるとありがたいです。
兎が拗ねた。
「僕達が必死に川縁を警戒してたっていうのに、みんなはさっさと町に帰ってあったかいスープを飲んでたんだね。僕達のことなんかすっかり忘れて」
「いやぁ、わざとじゃないんですよ。思わん早く終わってしまった上に、予想してなかった人数が拐われてたんで、ちょっと面食らったというか、なんというか……」
『✕▽~……』
「えっと、すみませんシシュティさん、あーっと……。緑織や、シシュティさんなんて?」
「サルヴァロンは出てこなかったけど、他の魔物を退治するの頑張ってたのにって言ってるよ」
「マジか、他の魔物がいたのか。気づかなくてすみませんって伝えておくれ」
「わかった。シシュティお姉ちゃん、ニャオがごめんってさ」
『✕✕△!』
「なんて?」
「これから1週間添い寝してくれたら許すってさ」
「ああ~、まあそれで許してくれるなら……」
「僕もだよ」
「おっふ、増えた」
昨日は結局ギルドの仮眠室に泊まらせてもらった。漣華さんにお願いしてアースレイさん達を迎えに行こうとしたんたけど、念話で休めって言われたから先に部屋に行かせてもらった。
レアリアンドさん達は隣室に案内されたみたいで、日付が変わる頃になっても話し声がしてた。ニャルクさん達はさっさと寝てしまったからなんて話してるかはわからなかった。いや起きてても聞き耳立てるようなことはしないけどさ。
仮眠室にあったベッドは4つ。ニャルクさんとイニャトさんが一緒に寝て、私とバウジオが同じベッドを使った。仔ドラゴン達は残りの2つに団子になってた。カメラを持ってきておけばよかったよ。小さくない体を絡めるように寝てる様子は可愛かったなぁ。
で、朝になって目覚めれば両脇にアースレイさんとシシュティさんがいた。バウジオは床。ごめんよ。
「で? あの人間達は冒険者達が連れて帰るのかい?」
「ええ、そうですよ」
アースレイさんが顔を向けた先には、今回の被害者の女の人達がいる。ペリアッド町の主婦達に囲まれて、お土産にいろんな物を持たされてる。みんな遠慮してるけど、大変な目に遭ったんだから、頑張って生き抜いたご褒美に受け取りゃいいのに。
「ニャオ~、ありったけ持ってきたぞ~」
「ばっふばっふ!」
「ちょ、バウジオ、あんまり吠えにゃいで」
私達が座ってるベンチの隣に魔法陣が浮かび上がって、バウジオが兄弟猫を乗せて飛び出してきた。
「バウジオ、外ならいいけど町中に出る時は気をつけてって言いよるやろ? 誰かにぶつかったらどうするん?」
「ばっほい!」
「ごめんって言ってるよ」
「通訳ありがとうございます」
いいなぁ〈万能言語〉。私もほしい。人間相手はもちろんだけど、バウジオとか清ちゃんとも話してみたいんだよね。百子とか普段何考えてるんだろう? 食べ物とか寝床はちゃんと用意してるけど、満足してくれてるかな。今度聞いてもらおう。
「ニャルクさん、イニャトさん、ありがとうございます。それじゃ、配りましょうか」
2人にお願いして家から持ってきてもらったのは、ハノア農園に卸す予定だったドライフルーツだ。
女の人達は明日、冒険者と商人と一緒にこの町を発つ予定になってる。ドライフルーツは道中のお供にしてほしくて、来週納品するって約束してたダッドさんに相談したら、快く受け入れてくれた。ありがたやありがたや。
「お前さんは座っとれ。儂らが配ってくるわい」
「ついでにセキレイ達も回収してきますよ。あの仔らがいたら旅の準備にゃんてまともにできにゃいですからね」
ああ、確かに。仔ドラゴン達、女の人達の間を歩きながら主婦が持ってるお土産のお菓子のおこぼれ待ちしてるもんな。邪魔ったらありゃしないけど、今回活躍してくれたからあんまり強く言いたくないんだよね。
「すみませんが、お願いします。どうしても言うこと聞かなかったら言ってください。漣華さん喚ぶんで」
「喚んだか?」
ぅおっと、出たな巨大チンアナゴ。真後ろだと心臓に悪いってば。
「どうも、漣華さん。明日には片づきそうですよ」
「それはよかった。アースレイ、シシュティ。そなたらもニャルク達を手伝ってこい。こやつは妾が見ておくからの」
「はい、お願いします」
『◎○~♪』
うーん、なんだろうこの扱い。まるで大人しくしてない子どもみたいだな。私成人してるんだが? 大人なんだが?
「さて、ニャオよ。人間共は明日立つとしても、獅子獣人達はどうなる?」
「ああ、アースレイさんが教えてくれたんですけど、しばらくペリアッド町に滞在するそうですよ」
グランディオさんが言うには、獅子獣人は永く国に籠り過ぎた、そろそろ他国との交流を待つべきだ。この町は自分達にも友好的だから、少しでも親睦を深めておきたい、とのことらしい。
「この町、男の人はもちろん主婦やら子どもやらも獅子獣人を怖がらないでしょう? 珍しがって見てくる人はいるけど、結構居心地いいみたいで、旅の途中だったから少しとどまるそうです」
「そうか。ま、ここの奴らはあやつらを恐れはせんじゃろうな」
「なんでです?」
獅子獣人って人間からしたらそれなりに怖いんじゃなかったの? 草食の獣人族だって結構住んでるのに。
「……そなた、本気で言っておるのか?」
「え? 何がです?」
聞き返したら、心底呆れたような顔をされた。
「抜けておるとは思っておったが、まさかここまでとは……はあ」
「なんですいきなり。喧嘩なら買いませんよ」
「売らんわ馬鹿たれ」
そう言って、チンアナゴバージョンの漣華さんは鼻で頭をつついてきた。
「この町の連中が獅子獣人を見ても脅えんのはそなたがおるからじゃ」
「私?」
「左様。そなたというのほほんとした獅子獣人がおるからこそ、あの黄金のたてがみの奴らを受け入れるのが早かったんじゃ。さして怖い種族じゃない、とな」
「のほほんは余計では?」
「間違ったことを言うたか?」
ふふん、なんて笑っちゃってまあ。でもまぁ、レアリアンドさん達と仲よくしてくれるならいっか。
「それで? 杖のギルマスの依頼は完了したということになるのじゃろう? ならばウェアウルフ達はいつ森に帰ってくるんじゃ?」
「あ、それなんですけど、ギルマス達から相談されまして」
「相談?」
「はい。ウェアウルフとブラックドッグを、このまま町の警備に置いてほしい、と言われたんです」
「ほう、なんでまた」
「なんか、一緒に警備してた人達が情が移っちゃったみたいで、離れがたいんだとか。ギルマス達からしても、鼻が利く魔物を味方につけられれば心強いんだと思いますよ」
「確かに、あやつらは他種族とはいえ、群れとしての連携は取れておるようじゃからのう。受けるのか?」
「アースレイさんに聞いてもらったんですけど、ウェアウルフもブラックドッグも乗り気みたいですよ。だからあの仔らの好きにしてもらおうと思って」
わんわん騒がしい仔らが家にいなくなるのはちょっと寂しいけど、やりたいことやってほしいからね。それに、全然会えなくなるわけじゃないから私的にはオッケーだ。
「うむ。決して長くはない寿命の奴らじゃ。好きにさせるがいい」
「悪さをする仔らじゃないから、その点では信頼してますよ」
「そうじゃのう。町の子らとも仲がいいからのう」
「また犬ぞりするんですかね?」
「肩車かもしれんぞ?」
にやり、と口角を上げた漣華さんと目が合って、笑ってしまった。それが伝染したのか、漣華さんも笑い出す。
天気予報ではこれから先1週間は晴れ間が続くらしい。うん、絶好の旅日和だね。




