第166話 思わぬ繋がり
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最近めっきり冷え込んできました。我が家では夜もわんこの散歩があるのでちょっと辛い。皆様も風邪にはお気をつけください。
「解せん」
ほんっっっとうに解せない。私達頑張ったよ? みんなを助けたよ? 拐われてたのレアリアンドさん達だけじゃなかったけど、全員無事だったよ? 男の人達は、まあ、残念だったけど。でも合流してからは怪我もさせなかったし、あの気持ちの悪い妖精全滅させたんだよ? もう頭撫で回すレベルで褒めてほしいぐらいなのに……。
『✕✕▽□! ✕▽△□✕▽✕!!』
『△▽□✕、✕△✕✕▽!?』
「はーいさーせん、口挟んですんませんでしたー。お説教続けてくださーいギルマスさーん」
「お前さん、聞こえとらんからと言っていい度胸じゃのう……」
うっさいわ。こちとらお疲れモードのところに長いお説教喰らってさすがに苛々してるっつーの。
漣華さんの魔法陣をくぐった先はなんでかギルドのど真ん前だった。福丸さんの森じゃないとは予想はしてたけど、もっと他にいい場所あったんじゃないの? 夜だけどまだ人通りがある時間帯だからまーあ目立つ目立つ。
で、騒ぎに気づいて出てきたギルド職員が“伝書小箱”を使って報告したら、通りの向こうからダブルギルマスとニャルクさん達が走ってきてのお説教。うーん、やっぱり解せない。頑張ったのに。
レアリアンドさん達は面食らったみたいな顔で騒ぎのど真ん中にいる。助かったから安心してるんだろうけど、野次馬冒険者達がガン見してるの気づいてる? 見られていいのあんた達。
「お疲れ様ですニャオさん、どうでした? サルヴァロン」
「どうもこうもないですよ。あんなに気持ち悪いとは思いませんでした。全滅させられてよかったですよ」
ニャルクさんも、ギルマス達に伝えてくれてありがとうね。てかどこに行ってたの?
「ニャルクさん達はギルマス達とどこに行ってたんですか?」
「どこって、Bランクの冒険者パーティーと一緒にニャオさん達と合流しようと町を出たところだったんですよ。サルヴァロンの巣の場所はレンゲさんが念話で教えてくれたから知ってたので。そこに“伝書小箱”であにゃた達がギルド前にいるって報告があったから、急いで戻ってきたんです」
なんとまあ。無駄足踏ませてすまねえ。
「今から行こうとしてたんですか? 漣華さんの魔法陣に頼らずに自力で? 距離あり過ぎじゃないですか?」
「確かに、あの距離を移動するには馬を使っても時間がかかります。でも、サルヴァロンみたいにゃSランクの妖精が現れて獅子獣人を拐ったとにゃれば、出にゃいわけにはいかにゃいんです」
へえ、妖精もランク分けされてるんだ。それは知らなんだ。てか待って、Sランクって言った? 私も赤嶺達もバッサバッサと倒しちゃったけど、あれSランクだったの? マジかい。
「川を縄張りにする奴らからすれば、この町も狩り場の1つににゃりうる。目をつけられる前に対処するのが当然じゃろう?」
「そりゃわかりますけど……。だからって、ギルマスがギルドから離れていいんですか? しかも杖のギルマスまで」
商人ギルドのギルマスって、なんか戦えなさそうなイメージがあるんだよね。なのに現場に行こうとしたの? 無謀じゃない?
「ここの杖のギルマスは昔、冒険者としてAランクにまでにゃったことがあるらしい。腕は確かじゃよ」
「Aランク? 凄いですね。なのに杖のギルマスになったんですか?」
「脚に怪我を負って引退した後、商人としての才能が開花したらしいぞ。冒険は無理じゃが、斧のギルマスが、いざという時は動ける男じゃと言っておった」
「ギルドを空けるのも問題にゃいようです。レドニャさんがギルマス代理を務めることににゃってるそうですよ」
レドニャさん?
「ああ、レドナさん。解体屋の?」
「そうじゃ。あやつはSランクの冒険者じゃったようで、そこらの男共が束ににゃってかかっても敵わんぐらいに強いと聞くぞ」
はぁ~、凄い。戦う女っていいね。憧れるわ。
私への説教を切り上げたギルマス達は、サルヴァロンに拐われてた女の人達の様子を見に行ってる。端から説教される気がなかった仔ドラゴン達が、歩くギルマス達の後ろをついていってる。自分達だけ逃げおってからに。ちくしょうめ。
集まった町民達が、毛布やらスープやらを持って女の人達を介抱してる。夕飯時だったのか、肉とかパンを配ってる人もいるよ。ありがたいね。私も食べたい。
レドナさんはいつの間にか獅子獣人達のところにいた。地面に座り込んでるレアリアンドさん達を見下ろすように立ってる。何か話してるんだろうけど、雰囲気がちと怖い。近づかんとこう。
「ん?」
足音が聞こえる。町民達の向こう側からだ。そっちもなかなかに騒がしい。何があった?
「どうしたんじゃ?」
「いや、向こう側が騒がしくて。何人かが走ってきてるみたいです」
「誰でしょうね?」
「野次馬が増えるだけじゃにゃいかの?」
うーん、なんか、野次馬って感じはしないけどな。騒がしいけど、慌てっぷりが半端ないように思える。誰だろうか?
『✕✕! △✕□?!』
町民達を掻き分けて現れたのは、見たことのない顔だった。男の人が数人。身なりからして冒険者。
『○!』
男の人の声に振り向いた女の人が1人立ち上がって、泣きながら駆け寄っていった。男の人が抱き止める。次々と、女の人達は冒険の方に駆けていった。
「な、何事?」
「ニャオー、あの男の人達、町の外にテント張ってるパーティーだよ」
こっちに戻ってきた緑織が教えてくれた。マジで?
「ちと待っておれ。話を聞いてこよう」
「僕は向こうに聞きに行きますね」
「頼んだぞ兄よ」
そう言って、ニャルクさんとイニャトさんが走っていった。入れ替わりにバウジオがのっしのっしと寄ってくる。
「ばっふぅ」
「ただいまバウジオ。ニャルクさん達と一緒におってくれてありがとな」
「ばっほい!」
隣にお座りしたバウジオが寄りかかってきた。お前、全体重をかけるんじゃないよ。人間の姿だったら押し潰されてるっつーの。
「ニャオさん!」
お、ニャルクさん戻ってきた。
「冒険者達に聞いてきたんですけど、彼らは国境にある村や町の生まれだそうです」
「はあ、それで?」
「久し振りに故郷に帰ったら、人間が何人も行方不明ににゃってると聞いたらしくて、ずっと捜していたそうです。調べる内に、似たことが複数の町村で起こっていると知って、その延長線上にあるのがこのペリアッド町だったそうです」
お? つまり?
「サルヴァロンは移動しにゃがら人間を拐っていたようじゃにゃ。そして例の川に巣を作った。最初のパーティーがサルヴァロンを追うにつれ、それぞれの町や村から家族を拐われた冒険者やら商人やらがどんどん加わっていき、今の人数ににゃったようじゃ」
「彼らは犯人をサルヴァロンとは見抜けてはいにゃかったようで、確信もにゃいのに騒ぐわけにはいかにゃいと、この町に何も知らせずに待機していたと言っています。犯人がくればそのまま捕まえられるように、町の外にテントを張って身構えていた、と」
なるほどねぇ。だから町の中に宿を取らなかったのか。そしてそれを不審に思った杖のギルマスが、私達に依頼を出したと。
まあ、気持ちはわかるよ。拐われた家族や友人を心配するのも、被害を受けてない町を騒がせたくない気持ちも充分わかる。うん。でもそれって、せめてギルドには報告しとくべき案件じゃなかったの? 下手したらこの町の人達がサルヴァロンに拐われて喰われてたかもしれないんだよ? そこは考えなかったの?
雷が響いた、と思ったら斧のギルマスの怒声だった。まさしく雷。冒険者と、一足遅く駆けつけた商人達が身を縮こまらせてる。
そりゃそうだわな。1つ間違えれば自分が管理する町に被害が出てたんだから、そりゃ怒るわな。
『○、◎△?』
声をかけられて振り返ればダッドさんがいた。隣にはマイス君。いつかご馳走してもらった、ラミラさん特製のあったかスープを持ってる。
「いただいても?」
スープと自分を交互に指差せば、ダッドさんは笑って頷いてくれた。頭を下げて受け取って、1口飲む。うん、美味い。
これって任務完了ってことでいいのかな? そういえば、報酬の話してなかった気がする。明日またギルドに来てみよう。杖のギルマス、会ってくれるかな?
……あら? アースレイさん達どこ行った?




