第163話 あらま
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ギルマス達にレアリアンドさん達のことを説明に行ったら、驚かれた後に呆れたような目をされた。お前が原因か、とでも言いたげな目だ。ちくしょうめ。
「ニャオさん、ウェアウルフ達は順調に警備を続けているそうです。警備隊の方達も慣れたようで、最近は家族も呼んで仲よくしてるみたいですよ」
なんと、家族ぐるみのつき合いが始まってんのか。人間と魔物の。楽しそうだね。
「そこでじゃ、そろそろバウジオを迎えに行こうと思うんじゃが、どうじゃ?」
「バウジオを? そりゃ帰ってくるなら嬉しいですけど、みんなについてなくていいんですか?」
「ギルマス達が見たところ、最近バウジオは1人で行動することが増えているそうです。町の外を走ったり、ちょっとした魔物を追い払ったり。それもウェアウルフ達が休んでる間も走り回ってるらしく、あんまり休んでないんだとか」
嘘でしょ? そんなこと聞いてないけど。ちゃんと休まなきゃ駄目じゃん。
「儂らはウェアウルフ達の様子を見てくるからの。お前さんはシシュティ達と一緒にバウジオを呼びに行ってくれんか? 今日は家に連れて帰って、ゆっくり休ませようぞ」
「そうですね。じゃあ行ってきます」
ギルマスの部屋から出て、受付の近くにいたシシュティさんとアースレイさんと合流した。丁度グラーキの討伐依頼の成功を報告し終わったみたい。シシュティさん、報酬の入った袋を持ってご満悦だわ。
「やあ。ギルマス達はなんて言ってた?」
目が合ったアースレイさんが手を振って聞いてきた。シシュティさんが跳ぶように抱きついてくる。人間の姿だと受け止めるのが大変なんだってば。
「ウェアウルフとブラックドッグ達の警備は引き続き行うことになりました。バウジオは一旦家に帰ります。今日はみんなで雑魚寝でもしませんか?」
「いいね、楽しそうだ。姉さん、今夜はバウジオが帰ってくるってさ」
『◎○!』
ギルドから出ると、ニャルクさん達は解体屋の方に向かった。今日家に帰る予定の赤嶺達のお迎えと、休憩してるウェアウルフ達の様子見だ。
「それじゃあ、私達は町の外に行きましょう。バウジオは昼過ぎからずっと戻ってきてないらしいですから」
「彼、働き過ぎじゃないかい? 家にいる時は寝てることが多かったように思えるけど」
『○△◎?』
「なんか気になることがあるのかもしれないし、警備にかこつけて遊んでるのかもしれないし。まあ、合流したら聞いてみてもらってもいいですか? 何か気になることでもあるのかって」
「いいよ。任せて」
ありがとうねぇアースレイさん。いやあ、便利なスキルだわ、〈万能言語〉って。
▷▷▷▷▷▷
「バウジオー! おーい! どこにおるーん?」
町を出てしばらく歩いてみても、バウジオは現れなかった。アースレイさん達にも呼んでもらってるのに、聞こえないほど遠くに行ってるのかな。
「ニャオさん、今鳥達に聞いてみたんだけど、もっと向こうにいるみたいだよ」
アースレイさんが指差したのは、城壁沿いじゃなくて町を背にした方角だった。
「そんな遠くまで行ってるなんて、何か見つけたんですかね?」
「地面を嗅ぎながらどんどん移動してるそうだよ。追いかけてるわけじゃないらしい。そうだよね?」
アースレイさんが聞けば、枝にとまってた小鳥達がチチッて鳴いた。小鳥とお喋りする兎人。うーん、メルヘン。
「そっちに行ってみましょう。ある程度近づけばバウジオにこっちの声が聞こえるかもですし。そしたら戻ってくるでしょう」
「そうだね。走れば追いつくと思うよ。ニャオさん、よければ抱えようか?」
いやあ、この姿でも充分走れるし、それはいいかな。
「大丈夫です、自分で……あらま」
話してる私達の真横に描き上げられたのは、漣華さんの魔法陣だった。聞いてたな?
「これくぐったらよさそうですね。行きましょう」
「そうだね」
『○……』
アースレイさんもシシュティさんも苦笑しちゃってるよ。漣華さんってば、ほっとく時は完全にほっとくくせに、しれっと手を貸してくれるんだからなぁ。
「よし、じゃあ早速くぐってバウジオを迎えに」
行きましょか、と言おうとしたところで、魔法陣の向こう側から何かが飛び出してきた。
あんまりにも唐突過ぎて、アースレイさん達は反応できてない。私も腰のベルトに差してた“バンパイアシーフの短剣”に手をやったけど、抜くまではできなかった。
ドンッ、と体に衝撃が走った。受け止め切れずに地面に転ぶ。剣を抜こうとしたアースレイさん達が、ぶつかってきた何かを見て目を丸くした。
「ノザリエさん?」
嗚咽を漏らしながら泣きじゃくるノザリエさんが、私の体に跨がってる。魔法陣からバウジオが飛び込んできて、ノザリエさんに向かって吠えた。めっちゃ尻尾振ってるやん。
「どうしたんですか? レアリアンドさん達は? 一緒に帰ったんじゃなかったんですか?」
通じないけど聞かずにはいられない。アースレイさんが代わりに聞いてくれると、ノザリエさんは大声を上げて泣き始めた。
どうすりゃいいのこれ?




