第160話 足止め
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次を本編にするか、余話にするか……。悩みどころです。
日が暮れかけた頃森についた。福丸さんのユニークスキルの中に入った途端に妙な安心感に包まれる。いつも漣華さんの魔法陣で出入りしてるから、こういう感覚はあんまり味わったことなかったな。
「ここに来るのも久しぶりですねぇ」
懐かしの竹林だ。家の材料と、清ちゃんの家を調達する時ぐらいしか来たことないなぁ。あ。
「すみません、あれって……」
「ああ、タケノコですね。時々出てくるんですよ」
マジか! 筍大好き!
「ここではこの植物をバンブーって呼んでましたよね? なのにあれは筍なんですか?」
「人間達は単にバンブーの若芽と呼んでいますよ。ですがわたくしとレンゲはタケノコと呼ぶんです。シヅが好んで食べていたので」
なんと、異世界人の影響はこんな風に出ることもあるのか。
「あれ掘ってもいいですか? 好きなんですよ、筍」
「もちろんいいですよ。ですが、もう暗くなるので明日また来ましょう」
「でも、成長が早いから明日には食べられなくなりますよ?」
「大丈夫ですよ。また別のタケノコが芽吹いているでしょうから」
そっか、まあそうだよね。1本出てきたらどんどん出てくるからね筍は。つーか前にここに来た時は見かけなかったよな。〈常春〉は春に季節をとどめるって言ってたけど、外の季節も多少は関係あるのかな。
「ふわぁ~あ……。なんだい、もう帰ったのかい?」
あらそのさん、やっと起きたの? 私の襟はそんなに寝心地いいのかな?
「ずっと寝てましたね」
「こんなに寝るつもりはなかったんだけどねぇ。あんた、その姿の時は髪が伸びてていい具合に暗くなるからつい熟睡しちまうんだよ。あったかいし、ほどよく揺れるからゆりかごにいるみたいだよ」
「そりゃどうも」
そのさん、ゆりかごに入ったことあるのかな。なんか今後も居座られそう。別にいいけど。
「ニャオさん、今晩の食事は僕達に任せてもらえるかな? 町に来てた商人から、僕達の故郷でよく使ってた香辛料を買ったんだ」
『◎○~♪』
「ええ、じゃあお願いします。私はスープを作りますね」
アースレイさん達の故郷の味か。気になるな。野菜たっぷりのあっさりスープならメインの邪魔にはならないよね。
「アースレイお兄ちゃん達がご飯作るの? あたしも手伝う!」
「あたしも!」
『◎~!』
「ありがとう、キイナ、ランリ。じゃあ帰ったらまず口と手を洗おうね」
「「はーい!」」
お手伝いできて偉いねお前達。ドラゴンに料理の技術が必要とは思えないけど。基本生食だもんね。
「それでは、早く家に帰りましょう。わたくしも食後の林檎の準備をしなければなりませんから」
「今日は蒼い林檎は食べます?」
「3玉いただきましょう」
あら、今日は控え目なのね。その分赤い林檎を食べまくるんでしょうけども。
▷▷▷▷▷▷
家までもうすぐ、と言ったところで、誰からともなく足を止めた。
「……聞こえます?」
「うん、聞こえる……」
アースレイさんにも聞こえてる。反応を見るに、シシュティさんや福丸さんにも。飛び疲れて、福丸さんの背中に乗ってた仔ドラゴン達だけ首を傾げてる。
「これ、悲鳴ですよね」
「そうだね。獅子獣人達の悲鳴だね」
「絶叫みたいなのも聞こえるよ」
「嗚咽も聞こえてきますねぇ」
『✕✕?』
家がある方角から悲鳴が聞こえてくる。この森でこんな声聞いたことないんだけど。何があったの?
「皆さん、おかえりにゃさい」
家に帰るべきか、声がやむまで待つべきか迷っていたらニャルクさんが駆けてきた。香梅さんもいる。いるのはいいんだけど、なんで百子の手綱咥えてんの? なんで百子連れてきてんの?
「ニャルクさん、この声は一体……?」
「すみません、今取り込んでまして。ニャオさん達、今晩はシシュティさん達の家に泊まってもらえますか?」
え? 急になんなの? そんなに困ったことが起きてんの?
「あの、何があったんですか? 手伝えることがありますか?」
「いえ、大丈夫です大丈夫です。僕達に任せてください。ほんと申し訳にゃいんですけど、はい。大丈夫です、ええ大丈夫ですとも」
ああ、しっかり者のニャルクさんの言葉が変になってる。相当焦ってんなこれは。
「アースレイさん、シシュティさん、なんか立て込んでるみたいなんで、お邪魔してもいいですか?」
「そりゃ構わないし、むしろ歓迎するけど……。ニャルクさん、僕達にも手伝えることはないかな?」
「大丈夫です。ほんとに大丈夫ですから。ええ」
「……夜食用のかまどがあるから、そっちで夕飯作ろうか」
『▽、○△』
思わんお泊まりだなぁ。この慌てっぷり、騒動の元はおそらく、いや確実に漣華さんだな。レアリアンドさん達相手に何やってんだ?
「ニャルクさん、確認しときますけど」
「はいはい、にゃんでしょうか?」
「怪我人は出ませんよね?」
「大丈夫です大丈夫です、ポーションの予備はありますから」
「めちゃくちゃ不安だわ」
大丈夫かこれ。




