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第159話 常識

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

残業怖い。

 ギルドを後にして、ペリアッド町をぷらぷら歩きながら買い物してから門を出れば、福丸さんがお出迎えに来てて目を丸くしてしまった。


「どうもです、福丸さん。珍しいですね」

「ええ。レンゲから頼まれまして」


 あれ、漣華さん帰ってきたの?


「少し前に戻ってきたんですよ。どうやら獅子獣人達がテントを張っていた場所を見に行っていたようで、今は彼らと話をしています」

「話、ですか?」


 なんの話だろう。私達、少し時間を置いてから帰った方がいいのかな。


「お疲れでなければ、わたくしと歩きながら帰りませんか? いつもユニークスキルで森まで帰っていますから、たまには景色でも眺めながら」


 おお、やっぱり。


「私は大丈夫ですよ。緑織達は?」

「あたし歩くー」

「あたしもー」

「あたしみんなの上飛んで帰る!」

「フクマルおじさーん、背中に乗せてー」

「もちろんいいですよ」

「アースレイさん達は?」

「大丈夫だよ」

『◎○、』


 よっしゃ、じゃあ久しぶりに歩くとしますか。




 ▷▷▷▷▷▷




「フクマルおじさん、あれ何?」

「あれはルーサーフォークの群れですね。野生の羊ですよ」

「セイライ、いつまでそこにいるの?」

「なんか眠くなっちゃった……」

「アースレイお兄ちゃん、シシュティお姉ちゃん、今度探検に行こうよ。崖の方に面白い花が咲いてるんだ」

「いいよ。一緒に行こう」

『〜♪』


 みんな楽しそうに歩いてる。こんな時間もいいな。

 レアリアンドさん達が来てから、漣華さんから獅子獣人の姿を解くなって言われてる。ノザリエさんの毒のこともあるけど、なんか警戒してるっぽい。

 獅子獣人達は大人しくはしてるけど、額を突き合わせて話してることが多い。何を話してるのか、耳がいいアースレイさんに聞き耳立ててもらったけど、音が漏れない魔法道具を使ってるみたいで内容はわからなかった。


「福丸さん、レアリアンドさん達は何か目的があってこっちに来てるんですよね?」


 四足歩行してる福丸さんの顔の横に並んで小声で聞いてみる。福丸さんの背中で豪快なあくびをした青蕾が這い寄ってきた。


「そうでしょうね。今レンゲが彼らに確認していると思いますよ」

「獅子獣人が異国に来るとしたらどんな理由があるんでしょうか? しかも4人も。それに、町の周りには他にも人間達がいるんですよね? その人達はなんの目的があるんでしょう?」


 わからないことが多過ぎる。そもそもレアリアンドさん達と怪しい人間達は関わりがあるのか?


「ニャオさん、今は帰路を楽しみましょう。ほら、足元をごらんなさい」


 福丸さんがふっと鼻を振った先に目をやれば、野苺みたいな赤い実が成っていた。踏みそう。


「可愛い実ですね。食べられるんですか?」

「とても甘いですよ」

「へえ。じゃあ摘んで帰ってジャムにでもしてみますか? 結構成ってるし、量は充分あるでしょう?」

「死にますよ」


 ……はい?


「それはリエングという植物です。生のまま食せば嘔吐下痢の症状に見舞われ、摂取量が多ければ死に至ります。ですが乾燥させて粉末にすれば、薬の材料にもなるんです。見た目がとても美味しそうなので、好奇心旺盛な子どもが口にすることも希にありますが」

「なんとまあ」

「長い時間をかけて乾燥させなければ毒素は抜けません。加熱も無意味です。だから人間や動物、魔物の親達はこの実の危険性を子に教えるんです」


 歩くスピードを緩めないまま、福丸さんがこっちを見た。


「ニャオさん。あなたは子どもでも知っていることを知らない状態です。わたくし達も、人間としての常識を教え切れていません。だから今は、わたくし達に従ってはいただけませんか?」

「従うとは?」

「あなたはこの世界で生き抜く為の力を得ましたが、知識が及んでいません。今しばらく、わたくし達と共にいてください」

「はあ……」

「レンゲも放任しているように見えますが、いつもあなたを神宝石越しに見ています。危ないことがあればすぐに駆けつけられるように。まあ、多少の危険ならば自力で乗り越えさせようとしてはいますが」

「でしょうね」


 むしろ危険な場所に放られることの方が多かった気がするんだけど。魔法陣の向こうにぽーいってさ。


「まあ、行く宛もないし、福丸さんがいいって言ってくれてる間は森に住まわせてもらうつもりなんですけど」

「もちろん構いませんよ。ですが、あの森以上にあなたが住みたいと思う場所がどこかにあるかもしれません。引っ越しを止めはしませんが、その前に、わたくし達の元であらゆることを学んでほしいと思っているんです」


 そうだねぇ。前もちらっと考えたことあるけど、私は学べる状況に身を置きながらあんまり学んでないからねぇ。そろそろ本腰入れてお勉強しましょうか。


「それじゃあ手始めに、手に入りやすい食べ物と毒物を教えてもらえますか? 福丸先生」

「もちろんです」


 にこっと福丸さんが笑った。話を聞いてた青蕾が真似して笑う。

 ゆっくりでいいから学んでいこう。自分の為にも、みんなの為にも、これから出会う誰かの為にも。〈水神の掌紋〉も〈獅子の心臓〉も、強力なスキルなんだから使いこなせるようにならないと。

 焦ったら駄目。慢心も禁物。自分が置かれた立場をもっと理解しないと。


「……福丸さん?」

「なんですか?」

「リエングの実が甘いって、なんで知ってるんです?」

「……ふふふっ」


 おーーーい。

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