第153話 グラーキ狩り
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「グラーキは小さくない魔物だけど、その姿は植物に紛れやすい。周りを充分警戒するんだよ」
そのさんが、私の首に体を引っかけたままそう言った。シシュティさんが神妙な顔つきで頷いてる。そんなに嫌な魔物なのか、グラーキってのは。
目を凝らして周りを見ても、それらしい影は見当たらない。この姿でいる間はどんな暗がりでも問題ないけど、それでも昼と同じとまではいかないから気をつけないと。
漣華さん、そのさんを私から引き離すのを諦めてどっか行っちゃったんだよね。まあこんなに木々が密集してる山で一緒に行動するのは難しいのはわかるけど、ちょっと寂しい。
『○、△□?』
ん? どしたの?
「おや珍しい。カーバンクルじゃないか」
「え? カーバンクル?」
あのおでこに宝石がついてる兎みたいな可愛い奴? 見たい見たいぜひ見たい。
「どこにいます?」
「ほら、あそこだよ」
そのさんの尻尾が示した先の低木が揺れて、ひょっこりと小さな魔物が現れた。けど……。
「……トカゲ?」
おでこには赤い宝石がついてる。それは知ってる。カーバンクル一番の特徴だもんね。でも……、なんでトカゲ?
「なんか、私が知ってるカーバンクルと違う……」
「そうなのかい? こいつは小型のドラゴンの亜種だよ」
うっそ、カーバンクルってドラゴンなの?
「といっても、かなり弱いけどね。セキレイ達でも勝てるよ。バウジオだって、首を噛めれば一撃さ」
「そんなに弱いのにドラゴン……?」
「亜種だって言っただろう?」
うーん、まあ確かに、見た感じ真っ赤な宝石つけたトカゲだもんね。よっぽど強力な魔法でも使えない限りあんまり戦えなさそうだな。あ、逃げてった。
「カーバンクルの額の宝石はそれだけでも価値があるけど、粉末にすれば魔法薬の材料にもなるからねぇ。人間達に乱獲されたせいで個体数が減ってるのさ」
「そんなに貴重な魔物がこの山に?」
「あたしもびっくりさ」
漣華さん達より長生きらしいそのさんが言うんだから、かなり珍しいんだろうな。想像とは違ったとはいえ、いいもん見たわ。
「ニャオ、シシュティ。グラーキはもっと南側にいるよ。移動した方がいいね」
『◎○?』
「あたしゃ探索のスキルを持ってるからね。しかもそこらの奴より広い範囲を探れるんだ。こんな山1つなら造作もないよ」
『○!』
凄いな。こりゃ心強い。
「それじゃあ向かいますか。走ります?」
「シシュティ。グラーキがいるところまで走るかい?」
『◎!』
「走るってさ」
よっしゃ、それじゃ一走りしましょかね。
▷▷▷▷▷▷
兎人のシシュティさんと、獅子獣人になってる私の脚で10分ぐらい走ったところでそのさんに止められた。
「この近くにいるよ。用心しな」
木の幹に隠れながら周りを見れば、腰の高さまである雑草の中に明らかに刺々しい異物が動いてた。あれか。
「本当にいがぐりみたい。というかウニかな」
濃い緑色をしたウニが2体いる。ちと気持ち悪い。
「あれは棘の先に毒を持ってる。刺されるんじゃないよ」
「はい」
『◯△!』
刀を握り締めて、息を吐いて、止める。タン、と踏み出して横に薙げば、1体のグラーキが真っ二つになった。
「あら柔い」
あんな見た目だからもっと硬いのかと思ってた。これならなんなく倒せるね。
「向こうもいい具合だね」
首元でそのさんが体の向きを変えた。くすぐったいなぁもう。
『◎○♪』
笑顔のシシュティさんが剣を片手に近づいてきた。向こうも一撃だったみたい。
「そのさん、他のグラーキがどこにいるか探ってもらってもいいですか?」
「はいよ」
ありがとうね、そのさん。助かるよ。
頭の上に乗ったそのさんが周りを見渡した。どんな風に見えてるんだろうね。
「一番近いのは、ここから2分ぐらいの距離だね。そこに1体で、その少し向こうにもう1体だ」
「ありがとうございます、助かります」
シシュティさんを見たら、うんうんと頷かれた。よし、ちゃっちゃとやりましょうか。




