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第152話 ここどこ?

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

 ……、……。


 なんか声が聞こえる。聞き覚えのある声。

 どれだけ待っても漣華さんは帰ってこなかったから、日付が変わる前に解散してそれぞれの家で寝たはずなのに、どこからか声がする。


 ……、……、……!


 頭がふわふわする。春も中頃になって窓を開けてても寒くなくなったもんなぁ。風が気持ちいいし、元の世界ではカーテンが揺れるのを見るのが結構好きだったんだよね。今度買ってこようかな。


 …………! ……、……! ……!


 そろそろ百子の乳も搾れそうだし、生乳ゲットできたら何作ろう。チーズ作りにも挑戦したいなぁ。でも乳牛って妊娠出産しないと乳搾りできないんじゃなかったっけ? こっちの世界では普通にできるのかな。


 ……、……? ……! ……!? ……!!


 そういえば、イニャトさん蜂蜜の卸し先見つかったかな。美味しいから町のみんなにも食べてもらいたいんだけど、売るとしたらいくらぐらいになるんだろう? あ、レストラン・ロナンデラにいっぺん持っていこうかな。オーナーに味見してもらえれば、町の人達の口に合うかわかるよね。……名前なんだっけ?


『✕▽~~!! □✕✕~~~!?』

「ぅおあっ!! 何?! 何事?!」


 甲高い泣き声に目を覚ませば、真横にシシュティさんがいた。めっちゃ泣いてらっしゃる。何があったの?


「……あら? ここどこ?」


 家じゃない。周りは木だらけだし、なんとなく匂いが違う。それに私が寝そべってるのが地べただ。ちゃんと布団で寝てたのに、自分で移動したなら寝相が悪い以前の問題だわこれ。


「ようやっと起きたか」


 あれ、漣華さんだ。


「おかえりなさーい。どこ行ってたんです?」

「呑気な奴じゃな……」


 漣華さんにため息つかれた。なんぞや?


「ここはペリアッド町に近い山。シシュティ達が受けた依頼の場所じゃ」

「え、なんでそんなところに? こんな時間に?」


 周り真っ暗じゃん。夜じゃん。私とシシュティさんしかいないじゃん。どういう状況?


「ニャオよ、獅子獣人となれ。そなたらにはこれからグラーキ狩りをしてもらう」


 嘘やん。なんでこんなド深夜に? それに依頼を受けたのはシシュティさんとアースレイさんだよね? 私がやってどうすんの? せめてアースレイさんも呼んでよ。


『☓▽☓〜……』


 ほら、シシュティさんも困惑しちゃってるじゃん。


「漣華さん、ちゃんと説明してくださいよ」

「説明も何もあるか。今言った通りじゃ」

「あんたは相変わらず横暴だねぇ。見てらんないよ」


 ん? この声はそのさんか? ……あ、襟から出てきた。入ってるの気づかなかったよ。


「……貴様、なぜついてきた?」

「なぜって、世話になってる家の家主が拐われそうになったら助けるのは当然だろう? おかしなことを言うねぇ」

「ニャオを運んだ魔法陣が妾のものだと気づいていただろう? ならばついてくる必要などないはずじゃが?」

「おや、そうだったかねぇ。最近年のせいか、目を凝らさないとよく見えないんだよ」

「白々しい……。貴様に用などない。とっとと帰れ」

「嫌だよぉあんた、グラーキなんぞが居着く山を1匹で帰れとでも? よくもまあこんな老いぼれにそんな無体なことが言えるねぇ。毒にやられちまうじゃないか」

「毒の王が何を言う」


 あれま、こりゃ長引きそうだ。


『△、□○?』


 声をかけられてシシュティさんを見れば、私のマジックバッグを差し出された。漣華さんが魔法陣越しに引っ張り落としたのか、土がついてる。高かったのに。


「ありがとうございます」


 受け取って中に手を突っ込んで、“バンパイアシーフの短剣”を取り出す。鞘から抜いて魔力を込めると、一瞬で獅子獣人になった。


「ほお、見事なもんだねぇ」


 そのさんが感心したみたいに言った。なんか照れくさい。

 魔物化の騒動の後、みんなが寝静まった頃に変化の練習をしてたんだよね。マニさんと戦った時は気づいたら獅子獣人になってたから、いつでも、必要な時にこの姿になれた方がいいと思って。それを知ってるのは漣華さんと福丸さんだけなんだけど。


「うむ。だいぶ変化に慣れてきたな」

「ええ、さすがに」


 変化直後はまだ変な感覚だけど、すぐ馴染むから大丈夫。問題なのは服の方かな。


「大きめの服をいつも着るわけにはいかないから、丈が合わないんですよね。なんかいい方法あります?」


 前もそうだったけど、手首足首が丸見えだ。ちょっと不格好。


「そうじゃな。そなたがこの依頼を見事にこなせば、妾がいい物を用意してやろう」

「いい物? なんです?」

「お楽しみじゃ」


 くはは、と漣華さんが笑うのを、そのさんは嫌そうな顔で見た。


「ケチ臭い奴だねぇ。さっさと教えてやればいいのに」

「黙れ」


 ああ、漣華さんの機嫌がまた悪くなってしまった。2人が喧嘩するとシシュティさんが怖がるんだからやめてほしいんだけど。今もほら、私の背中に引っついて離れないしさ。

 と、思ってたら両手がするすると太ももに滑り降りてきたから軽くパチンと叩いてやった。ぴゃっと跳び上がったのが背中越しに伝わってくる。あんた、ほどほどにしなさいよ。

 ……思い出した。ロナンデラのオーナー、イルヒラさんだったな。たまにしか会わないからパッと思い出せなくなる時があるんだよね。


「そなたら、早速グラーキを狩りに行け。その老いぼれは置いていくんじゃぞ」

「ちょいと、あたしを老いぼれなんて呼ぶんじゃないよ」

「自分でそう言っていたではないか」

「他人に言われる筋合いはないのさ。それに、あたしはこの襟から出ないよ。久しぶりの獅子獣人なんだ。戦いぶりを特等席でみたいじゃないか」


 そのさん、あんまりそんなこと言わないでくれるかな? ほら、漣華さんのこめかみがピクピクしてるよ。どうにかしないと。


「漣華さん、グラーキは何体いるんでしょうか?」

「む? 12体じゃな。内1体は卵を抱えておる故興奮気味じゃ。気をつけえよ」


 なるほど。いつぞやの美影さん状態か。そりゃ危ないね。


「とにもかくにも、倒さないと帰れそうにないですね。ちゃっちゃと行きましょうか」


 “バンパイアシーフの短剣”を刀に変化させてシシュティさんを振り返れば、なんとなく伝わったのか頷かれた。

 早く終わらせて早く寝よう。明日も仔ども達を迎えに行かないといけないんだから。

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