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第151話 棘

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

 夕ご飯の後、食べ足りないと騒ぎ出した橙地を宥める為にホットケーキを作った。前にマイス君達が食べてるのを見て驚いたけど、異世界から伝わった手軽なおやつとして一般家庭に浸透してるってニャルクさんから教えてもらった。

 焼いてる最中おチビ3人と芒月が体にまとわりついてきて大変だった。食べたばかりのはずのシシュティさんまでお皿持って待ってるし、政臣さんなんか今日濾したばかりの蜂蜜持ってきちゃったし、ニャルクさんもイニャトさんもマーマレードと桃ジャムテーブルに並べ始めるし、福丸さんは林檎齧ってるし。……これはいつものことか。


「ニャオ、俺の分3枚重ねて!」

「おいら4枚!」

「僕2枚でいいよ」

「はぐ、はぐ。みゃうぅ~」

「はいはい、まだ焼くけぇもうちっと待っとけよー」


 いつもはのんびりできる時間帯なんだけどなぁ。ま、依頼を頑張った赤嶺達のおねだりだ、できる範囲なら叶えてやりますよ。


「ニャオさん、昼間の依頼のことだけど、焼きながらでいいから聞いてくれるかい?」


 テーブルでハーブティーを飲んでたアースレイさんが言ってきた。


「ええ、どうぞどうぞ」

「ありがとう」


 ホットケーキをひっくり返しながら返事をしたら、アースレイさんはマジックバッグから依頼書を取り出して、テーブルに置いた。


「依頼者は匿名。依頼内容は、山中に住み着いた魔物の討伐だよ」

「ふむ。魔物の数は10体前後。種族は……グラーキじゃと?!」


 依頼書を覗き込んだイニャトさんが目を丸くした。


「グラーキ?」

「栗のイガみたいにゃ魔物です。大きさは棘を含めてニャオさんの腰ぐらいで、棘先には毒があるので厄介です」

「猛毒ですか?」

「死に至る毒ではにゃいんですけど、刺されたら一時的にグラーキの操り人形ににゃってしまうんです。時間が経てば毒は抜けるから、生きて帰った人もいるみたいですけど……」


 けど?


「ほとんどは死ぬぞ。何せグラーキは刺した相手を使って自分の好物を取ってこさせるんじゃ」

「それで、なんで死ぬんです?」

「グラーキ自身で取りに行けん場所にある物を取りに行かせるからのう。崖の上であったり魔物の巣の近くであったり。後はわかるじゃろ?」


 はい、察しました。


「儂とニャルクは以前そやつと出くわしたことがある。避けて通ろうと思うて迂回したんじゃが、群れからはぐれておった1体と運悪く鉢合わせてしもうてにゃ」

「イニャトは刺されてしまったんですよ」


 なんとまあ。


「大丈夫だったんですか?」

「いえ、しっかり操られてましたよ。僕がどうにか止めたので大事には至りませんでしたが」

「止めたと言えば聞こえはいいが、実際は土魔法で土壁を作って閉じ込めただけじゃがのう」

「ああでもしにゃいと、あにゃた、ケルピーがいる湖に飛び込むところだったんですよ? もっと感謝しにゃさい」

「わかっておる。ちゃんと礼をしたではにゃいか。長く使えておるじゃろう? そのマジックリュック」


 あら、ニャルクさんのマジックリュックはイニャトさんのお礼だったんだ。


「きちんとした店で買ったからのう。しかしだいぶほつれておるではにゃいか。そろそろ新しいのを買ったらどうじゃ? 金は充分あるじゃろうに」

「嫌です。マジックリュックとしての機能が使えにゃくにゃるまで使いますよ僕は」

「またそんにゃことを言って……。はあ、好きにせい」


 ニャルクさん、イニャトさんからもらった物だから嬉しいんだね。


「でも怖いですね。そんな危ない魔物がこんな町の近くに住んでるなんて」


 ここに住んで結構経つけど、そんな魔物がいるなんて知らなかった。今までよく無事だったな、ペリアッド町。


「グラーキが見つかったのは山の向こう側らしいよ。一番近いのがペリアッド町だけど、距離はかなりあるから気づかなかったみたいだね。別の依頼で山に入ってた冒険者パーティーが見つけたみたいだ」

「そのパーティーはグラーキを討伐しなかったんですか?」

「相性が悪かったんじゃないかな。僕達だって、苦手な相手だったらわざわざ戦わないよ。ギルドに報告はするけど」


 ふむ、そりゃそうか。怪我しに行くようなもんだもんね。


「ていうか、なんで匿名なんでしょう? そういう依頼なら普通に名前を載せそうですけど」

「いや、こういう依頼こそ載せにゃいんですよ。だって、自分達はこの魔物が苦手ですって言ってるようにゃものでしょう?」


 あ、そっか。その為の匿名か。

 焼き上がったホットケーキを重ねて、蜂蜜をたっぷりかけてから赤嶺達の前に置けば、待ってましたと言わんばかりにがっつき始めた。喉に詰まるよ、ゆっくり食べな。


「けど。にゃんでレンゲ殿はその依頼を受けるように、念話を使ってまで言ったんじゃろうにゃあ?」


 橙地の口から垂れた蜂蜜を拭きながらイニャトさんが言った。


「それはわからない。念話はすぐに切れてしまったから聞くに聞けなかったし、家に戻ったらレンゲさんいないし。フクマルさん、どこに行ったか知らない?」


 アースレイさんが聞くと、福丸さんは林檎に蜂蜜をかける手を止めた。あんた何個目よ?


「わたくしのユニークスキルの外であることは確かですね。魔力を感じないので」

『◎□? ○△▽○?』

「ええ、マサオミさん。蜂蜜追加でお願いします」


 福丸さん、ほどほどにしといてよ? 口の周りベッタベタじゃん。後で拭かなきゃ。


「遠出はしていないでしょうから、今日中には戻るでしょう。帰りが深夜になれば、わたくしが聞いておきましょうか?」

「福丸さん、漣華さんと念話できませんでしたっけ?」

「できますよ。ですが極力しません」

「なんでです?」

「プライベートですから」


 あ、そうですね。大事ですよねプライベート。了解です。……この世界、どれぐらい英語が伝わってるんだろうか?


「ともかく、この依頼はレンゲさんと話してから行くとするよ。警備の方は任せてもいいかな?」

『△◎?』

「任せよ。こっちでにゃんとかするわい」

「マサオミさんはノヅキ達とお留守番お願いしますね。あと、モモコの食事もつき添ってもらえるとありがたいんですけど……」

『○、◎○』

「助かります」


 ふむ。まあそれなりに人数いるからどうにかなるでしょ。いざって時は香梅さんにも手伝ってもらおう。あの人、この前桃を盗んだすばしっこい猿に突進して川に突き落としてたからね。立派な戦力になると思う。……そういや香梅さん、芒月のパパとタイマン張ってたっけ。立派な戦力だわ。

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