第150話 姉弟の依頼
ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。
斧のギルマスに首根っこを引っ掴まれてギルドまで連行されたけど、解放されたのはギルド横の解体屋の裏手だった。ウェアウルフとブラックドッグ達が全員集まってる。警備隊の人達もいるし、レドナさんまで出てきてら。
「みんなお疲れー!」
「ばっほい!」
「セキレイ達先に帰ったよー」
「空飛んでったー」
「わっふわっふ!」
「ウォンウォン!」
「お前達~、お仕事お疲れ様。エアレーの薫製持ってきたけぇお食べな~」
そう言って、マジックバッグから紙に包んだ肉塊を取り出せばわらわらと群がってきた。こういうところ見ると本当にわんこだねぇ君ら。顔は凶悪だけど。特にウェアウルフ。
「ほれ、お前さんら、こっちにもあるぞ」
「みんにゃの分あるから、落ち着いて食べてくださいね」
イニャトさんとニャルクさんも手伝ってくれて、どうにか全員に配り終えた。最後の仔にあげる頃には最初にあげた仔が食べ終えておかわりに来たけど。早いよあんた。
「警備隊よ、お前さんらも食うか? フクマル殿が捕まえたエアレーを儂らが薫製にしたものじゃ」
「斧のギルマスとレドニャさんもどうぞ。杖のギルマスには後で持っていきますから」
エアレーの薫製で作ったサンドイッチをニャルクさん達が見せれば、真っ先にレドナさんが1つ持っていってかぶりついた。こんな時、斧のギルマスはレドナさんを叱るんだけど、今は警備隊のみんなと一緒に差し入れに釘付けになってる。食べていいってば。
「戻ったよ。あ、もう食べてるんだね」
お、アースレイさんとシシュティさんが戻ってきた。いい依頼あったかな?
「おかえりなさい。よさそうな依頼ありました?」
町の警備を請け負ってるとはいえ、やっぱり冒険者なんだし、ギルドに出される依頼は気になるんだよねぇ。行きたいのがあれば行っていいとは言ってるけど、どうだろうなぁ。
「2人共、やりたい依頼があったら遠慮せずに受けてもらって大丈夫ですからね」
「これを受けたよ」
あら珍しい。受けたい依頼を見つけたらいつもこっちに確認に来るのに、もう受けてきたなんて。
「即決した感じですか? どんな依頼です?」
内容が気になる。2人が興味を持つ依頼ってどんなのさ? 聞こうと思って近づくと、アースレイさんが耳に顔を寄せてきた。
「受けるように言われたんだ。レンゲさんに」
小声で言われた。
「漣華さんに? こっちに来たんですか?」
「いや、念話だよ。姉さんにも聞こえたらしい。だから受けたんだ」
シシュティさんを見ると、うんうんと頷いてた。ここじゃあ聞かない方がいい内容かな?
『◎○、△◎』
斧のギルマスがサンドイッチを食べながら何か言ってきた。飲み込んでから喋りなよ。そんな行儀の悪いことしてたら……。
バチンッ!
あ、レドナさんに殴られた。痛そう。
『✕、✕▽□、○□……』
斧のギルマス、今度はちゃんと飲み込んで喋ってる。頬っぺた真っ赤だけど。話を聞いてるアースレイさんの肩震えてるよ。私もあの顔の正面には立ちたくないな。絶対笑う。
「んん゛っ……。ニャオさん、僕達の用事も済んだし、今日はもう帰ろう」
「え? もうですか? まあ、納品日はまだ先ですけど、買い物したいって言ってませんでしたっけ?」
家を出る時、そんなことをシシュティさんと話してるの聞いてたよ。もう帰るの?
「家の仕事を残してたの思い出したんだ。早く終わらせたいし、買い物は明日でいいや」
ふむ、急いで帰ろうとしてらっしゃる。さては依頼のことで言いたいことがあるな?
「で、ニャオさん。斧のギルマスからだけど」
「あ、はい」
「セキレイ達と話すのはいいが、内容と場所をちゃんと考えるように。町民達にいらん不安を抱かせてはいかん。だってさ」
「すみませんでした」
確かに迂闊だったわ。ちゃんと人気のないところに行くべきだったね。
頭を下げたら、斧のギルマスはため息をつきながら撫でてきた。レドナさんまで。レドナさんはこう、大型犬を撫でるみたいにわしゃわしゃっと。もしかして、ライオン耳が恋しいの?
「ニャオ、そろそろ行くぞ。セイライ達、頑張るんじゃぞ」
「「「「はーい!」」」」
「ウェアウルフもブラックドッグも、見回りよろしくお願いしますね」
「わっふ!」
「ウォーン!」
「バウジオ、今日も家に帰らんで大丈夫かい? 無理をしたら駄目だよ?」
「ばっほい!」
うーん、みんないい仔達だ。どこに出しても恥ずかしくないね。
それに見たところ、警備隊の人達とわんこ達もかなり打ち解けてるみたい。人によっちゃあサンドイッチの肉を盗られまいと攻防繰り広げてたし、そうじゃない人は肉をちょっとわけてあげてたし。なんか、いい相棒って感じ?
「それじゃ、儂らは帰るかのう。おっと、その前に杖のギルマスに差し入れをせねば」
あ、そうだった。忘れるとこだよ。
『◎! ○△◎!』
お、シシュティさん届けてくれるの? ありがたいねぇ。
ギルドに飛び込んでいったシシュティさんは2分もかけずに戻ってきたから、そのまま町を出る為に門に向かう。手続きをして門をくぐると、漣華さんの魔法陣が早速浮かび上がった。
「もう帰るのかい?」
ちっちゃなあくびをしながら、襟からそのさんが顔を出してきた。
「そうですけど、もしかして寝てました?」
「そうだよ。この中はあったかくて、すぐに眠くなるんだよ」
そりゃ人肌だからねぇ。私はちょっとひんやりだけど。
「ちょっと用ができたんで、買い物は明日になりました。明日もついてきます?」
「もちろん行くよ。あんた、あたしの寝床にするカゴを買ってくれないかい? 柔らかい布もあるとなおいいんだけどさ」
そのさんの寝床か。今は私の枕元で寝てるから、寝返り打ったら潰しそうなんだよね。
「そうですね。探してみましょう」
「頼んだよ。見てくれは不格好でもいいから、寝心地がいいのがほしいよ」
「はいはい、明日ですね」
ペリアッド町の雑貨屋にはいろいろあるから、気に入るのがきっとあるよ。明日の楽しみだね。
「ニャオよ、置いていくぞ?」
「はーい、行きます行きます」
そのさんと話してたら最後になってしまった。みんなもう魔法陣の向こう側だ。
待ってくれてたイニャトさんと一緒に魔法陣に足を踏み入れた。今日のご飯なんにしよう。




