第144話 不審者?
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「用心棒?」
ギルマスの部屋のソファーに座って、うとうとしてるバウジオの頭を撫でながら翻訳されたセリフを繰り返せば、床にいる赤嶺が頷いた。
「そうだよ。なんかこのおっちゃん、町の警備が追いつかないから、俺達の誰かに依頼したいってさ」
赤嶺や、おっちゃんなんて言わないの。失礼でしょ。
いつも通り、ハノア農園とレストラン・ロナンデラに納品した後ギルドに顔を出したんだけど、斧のギルマスは外出中でいなかった。で、帰ろうとしたら杖のギルマスに呼ばれたから、私とバウジオと赤嶺が残った。イニャトさん達は、祭の時に予約した人達のところに蒼い林檎の苗を届けに行ってるからここにはいない。
「なんかさ、変な奴が町の周りでテントを張ってるんだって。町に入るのにちゃんと申請するし、特別悪さもしないし、日暮れと一緒に町を出るから今まで気にとめてなかったらしいんだけど、もう2週間もそうしてるからさすがに気になるって言ってるぞ」
「うーん……。それって冒険者? 商人?」
「ちょっと待って……。……商人と冒険者が半々だって」
確かに変だな。町の中には宿屋もあるし、フアト村にもあったテントを張って寝泊まりする為のスペースも設けられてるから、そこで寝る方が断然安心だろうに。わざわざ城壁の外にとどまる理由はなんだ?
「他になんかあったか聞いてもらえる?」
「わかった」
赤嶺が杖のギルマスに向き合えば、杖のギルマスは困った顔で項垂れながらつらつら話し始めた。
「ニャオ。ちょっといいかい?」
服の中にいたそのさんがもぞもぞと動いた。くすぐったい。
「どうしました?」
「そいつらはこの国の生まれかい?」
小声で聞けば小声で返される。前にそのさんを肩に乗せて町に入った時、斧のギルマスがすっ飛んできてしこたま怒られたんだよね。バジリスクを連れて堂々と入るな! ってさ。それ以来そのさんは私か、アースレイさんかシシュティさんの服に隠れるようにしてる。
「確認はしてないですけど、他国の人なら先に言ってくれると思いますよ」
「そうかい……」
そう言って、そのさんは黙りこくった。
仲間に加わってすぐ、そのさんは人目につきたくないから人里には行かないって言ってたんだけど、私が町に行くようになってからついてくることが増えた。私自身はトーナ町の商人が捕まったっていう事実ができたのと、いざって時は芒月パパの力を使って獅子獣人になれるから前ほど警戒しなくていいよねって感じだったんだけど、そのさんはどういう心境の変化だろう?
「そいつら、ニャオ達が売ってる物買いに来るんだって」
赤嶺が振り返った。ん? うちの商品?
「果実を?」
「うん。あとジュースとドライフルーツ。それに、マイス達のところで売り始めたイニャトの苗木も」
カルカナの祭の後、町民達からかなりの要望があったみたいで、ダッドさん達にお願いしてハノア農園で果樹も売り始めたんだよね。それがまた売れる売れる。売れ過ぎてイニャトさんの高笑いが止まらなかったけど、今は毎日苗木を育てないといけないからひーひー言ってるもんなぁ。
他の町から買いに来る商人もいるけど、そういう人達は宿に泊まるからなぁ。宿代を節約したところで、夜の間に魔物に襲われたら元も子もないし……。うーん、謎だ。
「赤嶺。杖のギルマスに、みんなに相談せんといけんから、明後日までにはお返事しますって伝えてもらえる?」
「はーい。おっちゃん、明後日までには返事するってニャオが言ってるぞ。それでいいか?」
赤嶺が言えば、杖のギルマスはあからさまにほっとした。引き受けるなんてまだ言ってないんだけど。まあ引き受けることにはなるだろうけどさ。
「よし、じゃあそろそろ帰ろう。バウジオ、赤嶺、つき合ってくれてありがとな」
「いいってことよ!」
「はっふぅ……」
赤嶺、その口調は誰から覚えたの? バウジオ、あんたのそんな気の抜けた声初めて聞いたわ。
杖のギルマスが念押しするみたいに握手をしてきたから、どうにかこうにか手をすっぽ抜いて受付のところまで戻ると、アースレイさんと芒月がいた。
「やあ。終わったかい?」
「みゃう!」
「はい、終わりました。家に帰ったらお話しますね。他のみんなは?」
「あと3件に蒼い林檎を届けたら終わりだからって、僕だけ先にこっちに来させてもらったんだ」
「みゃぅうっ!」
「ああ、ごめんごめん。僕とノヅキだけ、だね」
謝りながらアースレイさんが言うと、芒月は満足げに鼻を鳴らして体を擦りつけてきた。この前までお尻ぐらいの高さだったのに、もう背中の真ん中ぐらいまで届くようになってる。凄いな成長期。
「じゃあ行こうか。通りを少し行った先に、珍しい料理を売ってる出店があるよ。そこに寄らないかい?」
「お、いいですね。政臣さんにもお土産買いましょう」
「そうだね。あと、イニャトさんが蜂蜜専門店に寄りたがってたよ。コーカルゥセイボウの蜂蜜を卸せないか聞きたいみたい」
「そういやそんなこと言ってましたね」
さすがに蜂蜜はハノア農園は専門外だからね。まあうちのみんなのお気に入りだし、果実と違って集められる量が決まってるからたくさんは売れないけど。
ギルドを出ようとした時、入れ違いに入ってきた冒険者とぶつかりそうになったけど、アースレイさんが肩を抱くみたいに引っ張ってくれた。で、そのまま手を握られる。いわゆる恋人繋ぎ。恥ずかしかったけどそのまま歩いた。顔見知りの町民達が微笑ましそうに眺めてくる。やめてよほんと。
ニャルクさん達と合流したら、ムッとしたシシュティさんに反対側の手を握られた。なんかもう、好きにしてくれって感じ。いろいろ考えたら意識しそうだから、しばらくはこのもふもふを堪能しますかね。




